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第117話

 「うそ……だろ……」

 リミアの最後の記憶を覗いた俺は、その場に崩れ落ちる。

 今、俺の頬を伝っている涙は、確かに俺の感情から来たものだ。

 

 リミアが俺を好きでいてくれたのは知っていた。

 でも、それは、親としてで、そう言う行為も、発情期の影響だと思っていた。

 いつからだ?いつからリミアは俺を……。

 

 いや、今はそんな事、どうでも良い。

 この糸をリミアに戻そう。リミアに戻して、元のリミアに……。

 

 俺はゆっくりと、リミアに手を伸ばす。

 目の前で、安らかに眠るリミアは、確かに幸せそうだった。


 「……戻して……。それで、どうするんだ?」

 俺はそんなリミアの姿を見て、自身に問いただす。


 今日一日、リミアは、とても幸せそうだった。 

 切り離されたリミアもこうなる事を望んでいた。

 

 リミアを元に戻した所で、彼女を苦しめるだけではないか?

 もし、俺がコグモとの関係を諦めて、リミアと二人で生きて行くとしても、リミアはそれを、一生、自分のせいだと、自身を責め続けるのではないか?

 それでは、誰も救われない。

 

 「スゥー……。スゥー……」

 今安らかな寝息を立てているのは、リミアなのだろうか?

 記憶を感情を、切り離してしまった彼女は、本当の彼女なのだろうか?

 ……少なくとも、俺の知っているリミアでない事は確かだ。

 

 「あぁ、そうか……」

 俺の知っているリミアは死んだんだ。

 そして、今俺の手元には、リミアを蘇生させる方法がある。

 今目の前にいる、この子を犠牲にして、リミアを蘇生させる方法が。

 

 見方を変えれば、それは元に戻っただけだ。

 でも、それは、もう、この子ではなくなってしまう。


 クリナの記憶を持った、リミアと同じ。

 この子の記憶を持った、リミアになるだけだ。


 一度壊してしまえば、もう元には戻せない。

 クリナが返って来ないように。

 この子は、この子には、二度と出会えない。

 

 俺は、この子を殺せるのか?

 この子を殺して、リミアを生き返らせたとして、そのリミアを、幸せにする事は出来るのか?

 

 見つからない。正解が見つからない。

 どうすれば良いんだ?どうする事が最適解なんだ?

 

 ……そんなの、このまま、この子をこの子として、育て上げるのが、最適解に決まっている。

 リミアがそれを望んで、これ以上、リミアが傷つく事もなく、何の犠牲も払わずに、生きていくことができるのだから。

 

 ……そうだ。これはリミアが望んだことなのだ。

 だから、もう、それで良いじゃないか。

 

 全部、忘れよう。この記憶も見なかった事にしよう。

 それで全て丸く収まる。

 誰も傷つかずに済む……。

 

 「クソッ……!」

 俺は一人静かに、脚にこぶしを振り下ろす。

 糸で出来た唇は、いくら噛み締めようと、血が出る事は無かった。

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