第113話
「キャハハハッ!いっけぇ!ゴブリン!」
河原に来ていた俺達。
リミアはゴブリンの上に乗り、楽しそうに指示を出している。
まぁ、糸で操っているという訳ではなく、ゴブリンも楽しそうにしているので、俺はそれを日陰から見守っていた。
ウサギは日課だと言う水浴びをしている。
夏だから、暑いと言うのもあるが、全身に毛が生えていると、汚れが付いたり、虫が付いたりで大変らしい。
「シャァ……」
俺の横では大ムカデが将棋の盤を見つめて、頭を悩ませていた。
因みに相手はコトリ。そして、その盤はもう詰んでいるぞ、大ムカデよ。
「……平和ですね」
俺の横に腰かけていたコグモが、リミアたちを見つめながら、呟く。
「平和だな……」
俺も、それに落ち着いた声で答えた。
「……お嬢様は、一体、どうされたのですか?」
自然な雰囲気で話題を振ってくるコグモ。
強く聞いてこない分、はぐらかすのも、何か違う気がした。
「実はな……。俺が、お前を好きだって事が、バレた」
俺が正直に答えると、コグモは特に焦る事なく「なるほど……」と、呟く。
「それから、あいつがおかしくなっちまったんだ。……まぁ、今の方が良いし、多分、気まずくならない為の演技だと思うけどな」
俺の言葉に、コグモは「そうですか……」と、相槌を打った。
「………」
静寂の中、川の流れる音と、遠くで、リミアたちのはしゃぐ声。
心地よい風が頬を撫でる。
……このまま、コグモに寄り掛かっても、怒られないかな……。
「……それだけ、ですか?」
急にこちらを向いて、質問してくるコグモ。
「そ、それだけって?」
よこしまな事を考えていた俺は少し焦って答える。
「お嬢様、他には何か、仰ってませんでしたか?」
あ、焦った、その話か……。
どうやら、まだその話題が続いていたらしい。
「そうだな……。後は、おかしくなる寸前に、”なんで、私だって……”って、言っていた気がするな……」
あれは、何だったのだろうか?
俺をコグモに取られそうになった嫉妬だったのだろうか?
……全く。別に、好きな人ができたからって、子どもを捨てる訳が無いだろうに。
いや、それが分かっているからこそ、子どもらしく振舞い始めたのかもしれないな。
そう思うと、親として信頼されているようで、少し嬉しくなる。
「そう、ですか……」
しかし、俺の明るい思考とは真逆に、深刻そうな表情で呟くコグモ。
「なんだ?何かやばい事でもあったのか?」
コグモに詰め寄りながら、少し真剣に、問う俺。
「い、いえ……。お嬢様がそれで良いと言うのであれば、今のままでも……」
コグモにしては珍しく、はっきりとしない答えを返すと「私も遊んできます!」と言って、リミアたちの方に駆けて行ってしまった。
「お嬢様~!ゴブリンさ~ん!待ってください~!」
「捕まるな~!逃げろ~!」
遠くで追いかけっこを始める3人。
先程のコグモの態度は何か引っかかったが……。
「まぁ、良いか」
俺は、思考を放棄すると、ただ静かに、この居心地の良い空気に浸りこんだ。




