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silent/children  作者: kzki
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第4切 黒い水と転校生

冷たい・・・。寒い・・・。声が出ない・・・。落ちた世界は暖かさなど微塵もなく、目は開かず、口を開いて声を上げようにも出ない。

自分がなぜこんな状態になっているなど知る由もなく、ただひたすらに小さな体が冷えていく。

どうすればいいのかなんて分かるはずもなく、自分がどうなっていくのか。

そんな恐怖を感じながら、僕は落ちた。

どうして・・・。僕は・・・生まれたの?



愛と夢と希望が赤ん坊の顔をまじまじと覗いていた。

「大丈夫?」

声をかけたのは希望だった。

「うん。大丈夫だよ。」

赤ん坊は答えた。

「しっかし、凄いなぁ。赤ちゃんの声が聞けるなんて。不思議や。」

夢が、鬼壱の方をちらっと見て言う。

「閻魔大王様からのお力の一つ。『聴訴技』(ちょうそぎ)のおかげさ。」

部屋の片隅で本を開いていた鬼壱がソファーに座りながら答えた。

「赤ん坊の訴えは基本、泣くことだからな。それをはっきり分かるように閻魔大王様が技を編み出し、それをワシにも授けてくださったのだ。」

「それ、めっちゃ便利やん!鬼ちゃん特許とろうや。」

夢が食いつくように鬼壱に言い寄る。

「馬鹿者。これが使えるのは地獄に落ちてしまった子どもたちのためなんだ。いくら現世の人間が困っていようともこればかりは渡すわけにはいかん。」

鬼壱がそういうと、夢がちぇっと口を尖らせた。

「ねぇ。鬼壱さん。」

愛が静かに口を開く。

「この子に、名前無いの?」

赤ん坊を見たまま鬼壱に問いかける。

「この子は生まれてすぐに地獄へ送られてきた。正直、名前を付けてもらうことすらなかったのだろう。」

鬼壱はソファーにもたれて首を上にあげた。

「そうだ。君たちでその赤ん坊に名前を付けてあげてくれないか?」

そういうと、3人は顔を見合わせて

「私たちがつけても構わないの?」

希望が聞いてきた。

「いつまでも赤ん坊と呼ぶのは如何せん可哀そうだろう。それならば仮にでも名前を付けてあげておいた方が良いのではないかと思うのだが。」

「確かに・・・。じゃぁ。」

愛が反応し、考えようとした瞬間、

「ほならぁ・・・権左衛門とかどう?」

夢が脊髄反射的に言う。

「却下。」

鬼壱とほかの2人がが同時に否定した。

「なんでやねん。ええやん。」

「夢ちゃんなら、絶対そんな感じでいうと思った!」

「私もそう思った!」

愛と希望が二人で言い合うと、3人が一斉に笑い出した。

それを見ながら鬼壱は

「3人とも随分明るくなってきたな。」

と、優しい顔をする。そして

「旅立ちの日も近いかもしれんな。」

と、ポソリと呟く。

「そしたら、愛はどんな風に名前つけるんや?」

夢が愛に向かって聞くと

「私は・・・。そうだな。」

少し考えると

「はじめってどうかな?」

そういうと、少し照れた表情を見せる。

「はじめか・・・。いいじゃない?」

反応したのは希望だった。

それに呼応して

「うん!ええんちゃう。」

夢も頷く。

「鬼壱さんはどうです?」

希望が鬼壱に促すと、

「ワシもいいと思うぞ。愛。君は本当によい感覚を持っている。」

3人の基に近づくと、愛の頭をポンポンと軽く撫でる。

照れた表情の愛が更に顔を赤く染めていた。

そして、赤ん坊の体を抱き上げると、

「よし。今日から君の名前ははじめだ。」

と、はじめに声を掛けた。

「はじめ・・・。いい名前だね。」

それまで静かにしていたはじめはそれを聞いて笑顔を見せていた。



「ところで、鬼壱さん。どうしてそんな姿になってるの?」

変化技を終わらせた鬼壱に希望が声を掛ける。

鬼壱はとある高校の女子学生へと変化していた。

「これ?今回の件はどうやら学生のようなの。近づくためにはこれが一番良いと思ってね。」

鬼壱の低い声と打って変わり甲高い声が部屋に響く。

「やけんて・・。それはないんちゃうの?」

夢が、鬼壱の体を見てぼやく。

鬼壱の髪はそれまでの剛毛短髪ではなく、金髪のサラサラロングヘアーになり、鍛え上げられた肉体は影を潜め、長身で出るところはしっかりと出るといった体へ変化していた。

「仕方ないよ。こんな形でないと変化できないんだから。」

鬼壱は3人にそう伝えると、

「ほんまかいな・・・。」

改めて夢が弱めにツッコミを入れる。

「というわけで、私、ディアン・ボロッサがしっかり見つけてきちゃうからね。」

ウィンクを一つする鬼壱ことディアンに3人はある意味でゾクッとしているようだった。




私立 桐乃島高等学校。

国内有数の進学校にして富豪が集まる超名門。

その実態は学のある者と金のある者の両極端に分かれており、金の無い者は学で、学が無い者は金で学生生活を謳歌している。

中には学も金もある者も少数はいるが、殆どはその両極端に分かれていた。

数ある校舎の4階。3-5クラス。

学のある者1:金のある者8:両方ある者1という割合で出来上がった、言わば成金クラスだ。

クラスでは賭け麻雀やブラックジャックをする人間が多くみられ、騒がしくしていた。

その賑やかなクラスの端っこでは5名程度のメンバーが静かに本を読んでいた。

教室の扉が開き、先生が入る。

「はぃ、ホームルームを始めますよ。」

梅崎恵子。3-5クラスの担任である。

その声を聞いているのか聞こえていないのか、ザワザワした教室は全く静まる様子がなかった。

「パンパン!」

乾いた手の音が教室に響く。

「ホームルームを始めますよ!」

やや強い口調で恵子が続けた。

若干、教室が静かになる。ただし、麻雀をやっている生徒や立ち上がった生徒はそのまま立って恵子に顔を向けている状態だった。

「今日は、皆さんに転校生を紹介します。」

そういうと、恵子は扉に向かって手招きをした。

ガラガラと音がしてディアンが入ってくる。

「転校生のディアン・ボロッサさんです。」

そういうと、一つ頭を下げ、

ディアン・ボロッサです。イギリスから来ました。」

と、それらしく挨拶をした。

周りの男子生徒からはおぉ!という声が上がり、女子からもため息に似た声が上がっていた。

「座席は・・・。窓側の方ね。」

窓側は静かに本を読んでいた5人組の集団に近い所だった。

「ヨロシク!」

ディアンはそれらしく周りに挨拶をした。



授業の間も金に物を言わせる生徒は遊び惚けていて、ディアンと周りの静かな5人は静かにペンを走らせていた。





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