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silent/children  作者: kzki
2/6

第1切 赤いトンカチとメガネ

痛い。


痛い。


イタイ


イタ・・イ


イタイ。


愛は部屋の片隅で横たわっていた。

体はあちこちに熱を持ち、口の中は鉄の味がした。左腕は辛うじて曲がったが、右腕は動かすとミシリッという音と共に激痛が走った。声は出せなくなった。

立ち上がってはいけない。愛は経験上、その事を知っていた。立ち上がればまたトンカチが飛んでくる。暗い中、飛んできたそれを愛はトンカチと呼んでいた。トンカチは体の至るところに当たり、それが段々、黒くなり、そして赤くなるまで飛んできた。


何時間経っただろう。体の感覚は無くなりつつあった。目を閉じれば涙が溢れるのに、それすら鉄の臭いがした。

すぅっと何かが抜けた。


そして愛は再び目を開けた。


「目が覚めたか?」

気がつくと、小さなベッドの上から体を起こした。

「鬼壱さん・・?」

愛は窓の外を見ている大柄の男に話しかける。

「覚えていてくれたようだな。君は賢い娘だ。」

鬼壱は振り返り愛の頭をクシャッとなで回した。

あの時のトンカチの痛みはない。寧ろ、今まで生きてきた中でもとても体調がよい感じに思えた。

鬼壱は愛に目線を合わせ、

「君は一度死んでいる。ここは現世。つまり君が生きていた場所だ。」

愛はベッドから降りて窓を見る。

朝の光が愛の顔を照らす。それと同時に周りの風景を見渡す。

そこは愛の育った町。同級生の翼君と遊んだ公園。二つ上の圭お姉ちゃんと話をした小高い丘。そして、生まれ育った家も見えた。

「私は、ここにいた。」

そう呟くと、愛の目から涙が溢れた。

「私はここにいた!でも、ここにもういられないの?」

鬼壱は愛の頭をポンと優しく叩くと、

「君はここにはもう居ないんだ。だが、君にはやらなければならないことがある。」

愛は鬼壱の顔を見上げる。

「何かをするの?」

「そうだよ。君には両親の事を見ていてほしい。」

鬼壱は微笑んで続けた。

「幸い、君の事は親達に分からないようになっている。君にはこれから起こることを見ていてほしい。」

「それだけでいいの?」

「あぁ。構わんよ。」

微笑みを浮かべた鬼壱はひとつ背伸びをすると、

「この体ではちとやりにくいのぅ。」

手を組んで何か呟くと、回りに風が吹き荒れた。

風が収まると、中からスーツを着た20代前後のメガネの男が出てきた。

「ふぅ。これならやり易かろう。」

その光景を見ていた愛は呆然としつつも

「鬼壱・・さん?」

声をかけると、

「そうだが?」

鬼壱の野太い声ではなく若々しい声で愛に話しかけた。

「そうか!変化技(へんげぎ)を見るのは初めてだったな。これは閻魔様より授かった技であらゆるものに変化することが出来るのだ。」

愛はまだポカンとしていた。

「因みにこの変化技は君達にもかけることが出来る。今は愛。君の事を解決していく所だが、他の三人の事もここに変化させてある。」

そういうと、鬼壱は胸元から真珠が4つ付いたネックレスを見せた。

中には夢・希望そして赤ん坊の顔が見えた。

「この会話や技は他の三人にも見えている。」

「見えてるで~。愛!」

声の主は夢だった。

「あたしも見てるよ~。」

ネックレスの玉の中から手を降るのは希望だった。

もうひとつには赤ん坊の寝顔が写っていた。

愛は少し微笑んで、再び鬼壱を見直した。

「わし・・じゃなかった。僕は今から裁判所へ向かう。」

「裁判所?」

「君の両親が裁判にかけられる。」

鬼壱はメガネをくいっとかけ直し、

「僕はこれから弁護士として君達の両親を弁護しにゆく。」

それを聞いた途端、真珠の一つがキラリと光った。

「ちょっと待ち!あんた、愛の両親の弁護って、無罪にするつもりなんか?」

夢が鬼壱に話しかける。

「もしかして、わざと負けて有罪にするとか?」

続いて希望も話す。

それを聞いた鬼壱は

「弁護士である以上、求めるのは依頼人の無罪だ。」

顔は愛の方を真っ直ぐみたまま話す。それは事情を知らないものには独り言のような感覚で。

「なんでや!無罪にする必要性ないやろ!愛の事殺した奴らやで!」

「君はよく早とちりをするな。落ち着きたまえ。」

またメガネをくいっとかけ直して鬼壱が言う。

どうやら変化をすると性格まで変わるようだ。

「確かに、有罪にするだけなら簡単だ。しかし、今の法律では余程の事がない限り極刑にはならない。」

愛は少しうつ向いて聞いていた。

「ならば・・・。」

鬼壱は続けざまに作戦を伝えた。


M市地方裁判所第三法廷。


大島賢一・大島優夏の裁判。


弁護人・鬼島雄一郎。

検事・天野龍臣。

裁判が開始された。

まず、検事から被告人の二人に対する容疑が話される。勿論、愛の殺害について。そして虐待の事実について。

それを聞いた賢一はふぅと一つ息をして立ち上がった。

「俺は関系ねぇ!」

回りに凄みを聞かせるような大きな声だった。

ボサボサの金髪に金のネックレス。左耳にはピアスが二つ、そして黒い上下のジャージ姿の賢一に対し、一方の優夏はうつ向いている顔が疲れた様子で覇気がなく、服装も地味な感じであった。

「俺は躾をしてたんだよ!殺したりなんかしてねぇ!」

回りを威嚇するように賢一は吠える。

「静粛にっ!」

裁判長は槌を叩きながら制する。

「検察側、冒頭陳述を。」

天野がすっと立ち上がり、

「今回の事件は、この二人の娘に対する虐待行為及び殺人に関する事実について明白にするものであります。」

「弁護側、それに対する意見は?」

鬼壱こと鬼島が立ち上がり、

「弁護側は娘さんの死と虐待について関連性が無いものとする証拠がございます。無論、二人の虐待についてはなかったものと考えております。」

裁判長はフムと、一つ頷くと、

「まず、検察側。被害者の虐待について、具体的証拠を示して下さい。」

天野は紙を取り出した。

「これは被害者の死亡診断書です。死因は全身を殴打された事による打撲及び全身を強く打った事による複雑骨折と失血死。」

紙を見ると、確かに全身を殴打された事による出血及び失血とあった。

鬼島はメガネをくいっとかけ直すと、

「それに関してはこちらでも把握しております。しかし、現場についてはもしかしたら自宅ではなかったかもしれません。」

「異議あり!それは弁護側の妄想に過ぎません!」

「異議を認めます。弁護側はその発言に基づいた証拠を差し出しなさい。」

「では・・・。」

一言呟くと、鬼島は机の上にカタリと器具を置いた。

「これはICレコーダーです。娘さんのカバンに潜ませてありました。」

「それは、私が忍ばせたものです・・・。」

小さな声で答えたのは母親の優夏だった。

「あの子が、身体に傷を作って帰る事があって、それでもしかしてイジメにあっているのではと思ってこっそりカバンの中に入れておいたんです。」

裁判官は鬼島の顔を見ると、

「弁護人、それを再生できますか?」

と、聞いた。

「可能です。少し準備をさせて下さい。」

そういうと、袂に置いていたカバンの中からスピーカーとコードを取りだすと、慣れた手つきでICレコーダーを繋いだ。

少しの間の後、音が聞こえ出す。



「ちょっと、あんた。」

「調子にのってんじゃねぇよ!」

「痛い!止めて!髪を引っ張らないで!」

「あんたがいるからマサキ君と話せないのよ!」

「私、マサキ君と何もないよ?」

「嘘つき!マサキ君と二人で帰ってんの見てんのよ!」

「それは、帰る方向が一緒だったから・・・。」

「言い訳すんなよっ!」

「痛い!お願い!やめて!」

「あんたなんか死ねばいいんだ!」

「やっちゃおうぜ!」



音声の再生が終わった。

法廷はざわめきを隠さなかった。

そこに畳み掛けるように鬼島が声を挙げる。

「学校側はいじめの実態を否定しておりましたが、私が、独自で被害者のクラスメイトにアンケートをとりました所、いじめの実態はあったとの事でした。」

「異議あり!弁護人は弁護士の範疇を越えた行動をしています。」

「異議を却下します。弁護人はそれを示す資料がありますか?」

「勿論。用意しております。」

そういうと、今度はカバンから50枚程度の紙を取り出した。

「これは、クラスメイトの皆様から頂いたアンケート用紙です。ここには教室という密室で教師も知らない所で行われていた悲惨なゲームの一部始終が書かれていました。」

「ゲーム?」

裁判長は鬼島の顔を見る。

「えぇ。その名も、『言いがかりゲーム』。」

「言いがかりゲーム?」

検察側も驚いた様子で鬼島の顔を見た。

「この、言いがかりゲームとは、被害者のクラスで密かに流行っていた行為で、特定の者に言われの無いでっち上げをふっかけ、捲し立てる。それを一定の期間耐えきったら勝ち。というものだったそうです。」

「それはただのいじめでは?」

裁判長が鬼島に問う。

「えぇ。結果的に期間なんて決められることなく永遠に言われのないでっち上げをずっと続けられていたようです。」

それを聞いた傍聴席からは酷い、あんまりだ。と口々に声が漏れた。

流石の検察側も少し引いたようで、

「こんなことが、あってなるものか・・・。」

ポソリと呟くと、

「これが、現実です。事実、家の中では血痕がなかったと鑑識の調査がありました。裁判長、被害者は学校でいじめにあい、体を強く殴打された。そして、ベランダに立ち、自ら死を選んだ。弁護側の主張は以上です。」

「検察側の主張はどうですか?」

「検察側は両親による虐待がベランダで行われていたと主張します。両親は家の中で、虐待行為に及べば回りに気づかれる可能性を示唆。ベランダにて行為に及ぶことを思い付きます。そして、何度となく繰り返された虐待の末、被害者は死亡。事故に見せかける為、二階のベランダから下に落としたと考えられます。」

「分かりました。弁護側、検察側の主張を纏め、判決は後日と致します。」

カンカンッと2つ槌を叩く音が法廷に響き、

「本日はこれにて閉廷。」

裁判長が閉廷を伝えると、周囲の人間はざわざわとしながら部屋を後にした。



6ヶ月後・・。


判決が下った。


被告人の無罪判決であった。

愛のクラスメイトが相次いで、いじめを認めたのだ。

この事はマスメディアに大きく取り上げられ、言いがかりゲームについても非難を浴びることとなった。加わっていたクラスメイトの少女5人は医療少年院へ移送され、学校側は対応に追われることなった。

結果的に、その事が両親の無罪判決を後押しし、愛の両親は一躍、ワイドショーの主役へ上り詰めた。

マスメディアは二人を『悲劇の両親』とし、しばらくの間顔を見せない日はなかった。


そして、更に3ヶ月が過ぎた・・・。


愛の両親は札束を数えていた。

学校からの慰謝料・マスメディアの出演料・いじめていたクラスメイトの両親からの慰謝料・そして、愛の保険金。総じてかなりの札束を目の前に、

「世の中、ぼろいなぁ!」

賢一は高笑いしながら、ワイングラスを片手にテレビを見ている。

「私たちがやったことは一切バレてないんだもんね!」

そう話すのはあの地味な格好をしていた優夏であった。

無罪判決の後、大量に入ってきた臨時収入にすっかり心を奪われ、服装は派手になり、性格まで変わっていた。

「こんなことならもう一回、孕むか?」

酔った勢いなのか、優夏の頬に息を吹き掛けながら耳元で囁く。

「いいわよ~。こんな事ならいくらでも産んでやるわ!」

優夏もその気になったようで、服を脱ぎ始めた、その時だった。

『ピンポーン。』

ドアのチャイムが鳴る。

「何だよ。こんな時間に。」

時刻は夜8時を回っていた。

「私、出るわ。」

優夏が服を直しながらチャイムのモニターを見る。

「夜分遅く、申し訳ありません。弁護士の鬼島でございます。」

鬼島がにこやかな顔で立っていた。

「あら、弁護士の先生じゃないですか?今、開けますね。」

そういうと、優夏はいそいそと玄関へ向かい、鍵を開けた。

「こんばんは。誠に夜分遅く申し訳ありません。」

軽く会釈すると、

「この度はありがとうございました。私達の無罪を証明して下さって。」

優夏はにこやかな顔で返す。

「いえいえ。これも弁護士の仕事ですから。」

そういうと、鬼島は軽く奥を見て、

「旦那様はご在宅ですか?」

そういうと、優夏は、

「えぇ。居ますよ。呼びますか?」

と、返した。

「いえ。ちょっと、玄関先でお話するのもあれなので、良ければ中でも構いませんか?」

そういうと。一瞬、優夏の顔が曇り、

「えぇ。結構ですよ。ちょっと散らかってますので、10分ほどお待ちいただけますか?」

そういうと、そそくさと奥の部屋へ戻っていった。

それを見た鬼島は愛の真珠を持ち、

「さぁ、最終局面だ。今こそ、君の無念。晴れさせてもらおう。」

愛は手を組んで、

「鬼壱さん。無理はしないでね。」

優しい口調で返した。

鬼島はメガネをくいっと上げ、

「君は本当に優しい子だ。大丈夫。」

そういうと、奥から

「先生、どうぞ~。」

優夏の声が聞こえた。

「お邪魔します。」

鬼島が靴を脱いで上がる。

ガチャリと扉を開けると、相変わらず金髪のボサボサ頭の賢一がソファーに座っていた。

「先生~。お久しぶりです。」

酒臭い息を吐きながら鬼島に頭を下げる。

「この度は無罪判決おめでとうございました。」

「先生のお陰です。」

優夏がにこやかな顔で賢一の隣に座る。

周りを見渡すと、やけに大きいカバンが3つ転がっていた。

その中には明らかに札束が、入っているであろう膨らみかたをしていた。

しかし・・・。

「娘さんの遺影は?」

そういうと、優夏が、

「今、頼んでいる所なんです。」

「もう、3ヶ月も経っているんですが?」

「それが・・・」

「まぁ、良いじゃないッスか!」

賢一が遮って声を挙げる。

「俺たちはやってないってのわかってもらえたんだからさぁ!」

ソファーに両手を広げて笑う。

鬼島はスッとメガネを外した。

「そうですか。」

鬼島は奥歯をギリッと噛み締めた。

「それで、ご用件は?」

優夏が聞くと、

「そうでした。今回の弁護士費用についてですが。」

「おぉ。そうでしたね。」

賢一が、前のめりに座り直す。

「こちらになります。」

そこには何も書かれていない請求書があった。

「は?」

賢一と優夏が顔を見合わせる。

「どういうことですか?もしかして、私達の言い値で宜しいので?」

と、優夏がいうと、鬼島は首を振りながら、

「いいえ。」

「それなら、今からここに書くんですか?」

賢一が言うと、

「いいえ。」

さらに首を横に振りながら鬼島が答える。

「まさか、タダ?」

賢一がニヤニヤしながら聞くと、

「そうですね。」

鬼島は笑顔で答える。

二人は顔を見合わせ、笑顔になった。

「金はいらない。いるのは。」

そういうと、鬼島がムクリと立ち上がり、


「お前らの命だ!」

そう言った途端、二人の目の前に闇が落ちた。







賢一が目を覚ますと、優夏が目の前に倒れていた。

周りを見ると、金の入っていたバッグも新調した家具も何もかも無くなっていた。辺りを見渡すと、ゴツゴツした岩が視界一面に拡がっている。

もしかして、誰かに拉致されたのか?そんな事を考えていたら優夏が目を覚ました。

「気がついたか。」

「ここ、どこ?」

二人が立ち上がると、

「目が覚めましたか?」

いつの間にか鬼島が目の前に立っていた。

「鬼島!お前、俺たちをどうするんだ!」

賢一が鬼島に、すごみながら駆け寄る。

「鬼島先生!私達を帰して下さい。」

後ろから優夏が鬼島に話しかける。

「帰る?何処に?」

鬼島が笑う。先程の様な爽やかな笑顔ではなく、人を蔑む歪んだ笑顔で。

「貴様達に帰る場所があるとでも?」

明らかに口調の違う鬼島にヒヤリとするモノを感じたのか、賢一は後退りする。

「貴様達に良いことを教えてやろう。」

鬼島の体が大きく変化する。頭部より角が生え、目が血走る。

「貴様達は死んだのだ。」

声色が太く禍々しくなる。

「そして、これを見るがいい。」

そこには死んだはずの愛が立っていた。

「愛!お前!」

「愛!」

二人は口々に声を挙げる。

愛は答えない。目に生気はなく、肩まで伸びた髪が微かに吹く風に揺れていた。

「愛、俺たちを、助けてくれ!」

賢一が懇願する。

「愛、私達が悪かったわ。私達を助けて。」

優夏が涙ながらに叫ぶ。

愛は表情を変えること無く、鬼島から元に戻った鬼壱に問う。

「鬼壱さん。私の写真は家にありましたか?」

「いや、一枚も見当たらなかった。」

それを聞いた愛は少しうつ向いてにこりと笑った。

「そうですか。なら仕方ありません。」

愛は二人の方を見ると

「お父さん、お母さん、いえ、賢一、優夏。」

二人は表情を変えること無く愛の顔を見続けている。

「あなたたちは私を殺した。賢一は私を何度となく殴り付け、優夏はそれを見逃した。自分に向けられるのが怖かったから。」

「お前!親に向かって何て口を!」

賢一が詰め寄ろうとすると、愛が目を見開き、

「親なもんかっ!あなたたちは私をお金の材料としてしか見ていなかった!だから私の写真が、一枚もなかった!私はあなたの振るうトンカチが痛かった!止めてと言ったのに止めなかった!だから私は死んだ!あなた達は親なんかじゃない!だから!」

そういうと、愛の体から力がスッと抜けた。

それを抱き抱えたのは鬼壱だった。

「よく、頑張ったな。愛。」

鬼壱は再び二人を見下ろすと、

「貴様らには裁きを受けてもらう。」

それを聞いた賢一は

「はっ。どうせ死んでんだ。大したことねぇよ。」

「そうよね。私達、すぐに解放されるわよ。」

そう、二人が話していると、

「死ぬ方がよっぽど楽やもしれぬぞ?」

大きく低い声が聞こえた。それは鬼壱ではない、もっと威圧的な声だった。

「閻魔様・・・。」

鬼壱は深々と頭を垂れた。

そこには身の丈180センチ程の鬼が立っていた。鬼壱に比べるとやや小さなサイズであった。

「あんたが、閻魔様か?」

賢一が詰め寄る。

「今すぐ俺たちを帰せ。じゃねぇと・・・」

そう、言うと同時に閻魔の目が青く光った。

「じゃねぇと、なんじゃ?」

途端に賢一の腕が曲がってはいけない方向へ向いていく。

声にならない悲鳴を挙げる賢一に対し、圧倒的な力にへたり込み、失禁している優夏。

「貴様らには死よりも重い罪をくれてやる。」

そういうと、閻魔の目が再び光る。

途端、二人の視界が再び闇に落ちた。



目が覚めると二人の足元が石に固められていた。腕には石の枷がついており動かせない。

「あなた・・起きて。」

優夏がそういうと、賢一も目を覚ました。

「なんだこれ、どうなってんだ!」

体が固定され動かない。すると、周りに明らかに涎を垂らしながら近付く鬼たちが無数に寄ってきている。

二人を見つけると、周囲をぐるぐるとゆっくり回りながら近寄る。そして。

「ヴァアアアアァウ!」

勢いよく飛び付き、腕に噛みついた。

「ぐぁあああぁあ!」

賢一が悲鳴を挙げる。

すると、今度は別の個体が、優夏の頭を目掛け飛び付き、髪の毛を毟って食べ出す。

「痛い!止めて!痛い!」

悲鳴を挙げる優夏。だが、個体は減るどころかますます増えていく。

髪の毛、腕が足が噛み千切られ、腹の内臓が引きずり出され蝕まれていく。しかし、蝕まれた先から再生をしていく。更に再生した部分を別の個体が蝕んでいく。

その様子を高台から望んでいたのは閻魔と鬼壱。そして愛達4人であった。

「あれは、餓鬼。常に食欲を満たそうと彷徨き回る鬼じゃ。この地獄では、体の再生なぞ直ぐに出来る。例え、喰われようとも直ぐに再生する。ただし、喰われる感覚はあるから、それを永遠に味わうことになる。」

閻魔の説明を聞いた愛は、

「あの餓鬼達はお腹一杯にならないの?」

それを聞いた閻魔は、

「さぁのぅ。ワシも2000年以上ここにおるが、あやつらは全く満たされる様子がないからのぅ。」

グチュリグチュリという音と二人の悲鳴を聞きながら、愛は一言呟いた。

「永遠に終わらない痛みの中で永遠に後悔してなさい。」



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