声なき少女達の鎮魂歌(レクイエム)
「君達はなぜ死んだ?」
目が覚めると体が大きな髭の男が四人に問う。
あれ?私。どうしたの?
うち、死んじゃったの?
あたし、どうしちゃったの?
僕は?ここはどこ?
各々はそれぞれが同じような反応を見せていた。
そして顔を見合わせた。
見た目は三人の少女が小学生。もう一人は男児。しかも新生児であった。
「君達はなぜ死んだ?」
体の大きな男は更に続けた。すると、
「お父さんに・・・」
か細い声で一人の少女が口を開く。
「愛はお父さんに叩かれました。」
今度はハッキリとした声で話す。
「君は?」
男は髭を触りながら隣の少女に目をやる。
「夢、お腹が空いた。」
フムフムと一つ頷くと更に男は隣の少女に目をやる。
「希望は、おとうに嫌なことされた。」
それを聞いた後、隣で寝ていた新生児を抱き上げる。
「君は少し時間がかかりそうだな。」
そう呟くと、男は少女に背を向け、
「君達は今、地獄にいる。」
後ろを向いたままで口調を変えず話す。
「なんで!」
夢と名乗った少女が声をあげる。
「うちはママからごはん貰えなくて凄いツラかったのに、なんで!」
「そうだよ!希望だってあんな痛い思いするの嫌だったのになんで地獄なのさ!」
二人が詰め寄る中、一人、愛だけは佇んでいた。
「最後まで聞きなさい。」
一瞬、男の顔が三人の少女を見たような素振りがあった後、声を出す。
「君達が居るのは地獄。賽の河原という場所。ここでは不幸にして親より先に死んだ子ども達に試練を与え、完成すれば現世への転生を行っている。」
三人の少女は周りを見渡すと、ひたすら河原の石を積み上げる自分達と同じ歳位の子どもたちが沢山いる。
そこに、
「ダメだ!ダメだ!こんなんじゃ、まだまだ現世に還さねぇぞ!」
頭に角の生えた男が折角積み上げた石を蹴り飛ばす。
積み上げた石を蹴り飛ばされた子どもは無心で石を拾い、積み上げる。
「ここでは、こういう努力をし、結果として出来上がった者が転生を出来る。」
「ひどい・・・。」
愛が一言呟いた。
「だが、ワシは君達の事を見せてもらって思った。このような努力をさせるべきではないと。」
「せやろ!なら、うちを現世に返して!うちはやりたいことがあるねん!」
息巻く夢に比べ、愛と希望はうつ向いたままだった。
「ちょっと、あんたらからもお願いしてや!」
更に夢は二人にも詰め寄る。
「希望は、イヤだ。」
「何で!」
「あんな痛い思いするなら、一層死んだ方がましだもん!」
「はぁ~?んならそうしときなや。んで?あんたは?」
今度は愛に詰め寄る。
愛は下を向いたままで口を詰むんでいる。
「こっちはだんまりか。まぁ、いいわ。うちだけ還らせてもらうわ。」
すると男は若干、イラついた様に思える口調で
「最後まで話は聞かんかな?」
と、夢をみた。
夢が後退りすると、男は三人の方を向き直し、
「君達にはチャンスを与えようと思う。」
三人は首をかしげた。
「チャンスって?」
希望が、男に問う。
「君達は、不幸にも親から何かを受けてここに立っている。」
三人の顔から一気に血の気が引いた。
「それならば、君達は親をどうしたいと思う?」
沈黙。それは長い間だったのか、一瞬だったのか。
「・・・・したい。」
最初の言葉は下を向いていた愛だった。
「ん?聞こえんよ?」
男が愛に耳を傾ける。
「私は、仕返ししたい!」
それを聞いた夢が重ねて言う。
「そうや!うちらがここにおるんはあいつらの性や!」
希望も言葉を重ねる。
「あたしたちと同じ風になっちゃえばいいんだ!」
それを聞いた男はフッと息を吐き、
「よろしい。ならばその願い、叶えてやろう。」
男が再び愛達にに背を向けると、
「閻魔様。この者達と下界に降ります。この者達の無念。晴らしに参ります。」
そういうと、男の前に突然、とてつもなく大きな扉が出現した。
「大島愛・中野夢・小鳥遊希望そして、生まれて間もないこの子の無念。我が鬼壱が晴らし、彼の者達を地獄まで連れてきてしんぜようぞ!」
画して、五人は下界に降り立つこととなる。不幸にして死にゆく運命を辿ってしまった哀れな魂の解放の為に。不幸を作り上げた元凶を地獄へと叩き落とす為に。