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幸せへのピースを集めて  作者: 一和人
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日常

「亨~!お待たせ~!」

 僕、霧島亨が高校の授業と部活動を終え、帰ろうとした矢先に僕の背中に声を投げかける者がいた。

 その声は、とても元気でこの初冬の澄み切った空気に負けないほどの純粋な声だった。


「うん」


 僕は、そんな澄み切った声とは裏腹に声をかけてきた者に聞こえる程度の声で返事をした。


「帰ろ~」


 その者は僕の肩をポンッと叩き僕の横に立った。


「灯里、部活はもう終わったのか?いつももう少し早いじゃねえか」


 僕は横に立った、灯里という女子生徒に質問をした。灯里は僕より背が20㎝くらい小さく僕の肩と同じくらいの身長だった。とは言っても僕は170㎝で女子にとっては割かし背の高い部類に入っている。


「うん、でも今日は先生たちが飲み会みたいでこの時間で終わりなんだ~」


「なるほどな」


 こんな会話をしながら僕と灯里は肩を並べて歩く。

 

 言わずもがなだろうが、僕と灯里は付き合っている。付き合い始めたのは高1の夏前だった。こんな人と話すことが苦手な陰気な人間でも彼女はできるものなのだなと思っていたのを思い出す。

 僕と灯里は高校までバス通学である。僕は灯里よりも2つ前の停留所で降りるため、行きは僕が先に乗り、帰りは灯里が先に降りる。僕と灯里が出会ったのもこのバスの中でだ。僕の横にたまたま座った灯里が学校近くの停留所で降りようとしたとき、座席にストラップを落としていき、僕が慌てて追いかけ渡したのがきっかけだった。それからというもの僕らは一番後ろの一個手前の席に二人で腰を掛けている。


「そういやさ、今週の日曜って暇?」


「ん?ああ、暇だけど」


「じゃあさ!デート行こうよ!久しくどこも行ってないじゃん!」


 僕は少しため息をつきながら答えた。


「いや…来週から中間テストだろ…?」


「そんなこと言うなよ~…ずっと勉強詰めだと気が滅入っちまうぞ?」


 そうだとしても。

 僕らだってもう高2の冬だ。

 多少なりとも受験というワードを気にし始めている。

 僕の高校は普通科だから一般受験が主流だ。推薦とかのように学力以外で補えるものがないのだから必然的に学力がものをいう。まあ灯里は推薦狙いのためあんまり関係のないことなのかもしれないが。


「うーん…前回の生物のテストやばかったし…」


「亨って不思議だよね。あんまり生物が苦手って人いないのに亨、苦手だし」


 ほっとけ。

 自分でもよくわからないが生物は苦手なのだ。暗記が苦手とかそういうわけではない。なんというか苦手なのだ。


「それに比べて、灯里は生物得意だもんな」


「そりゃあまあ、お父さんがそういう仕事だし」


「あれ?何の仕事だっけ?」

 そんな生物に関するような仕事をしていたかと思い出しながら聞いた。


「だって、バイオテクノロジー研究所の人だし」

 バリバリそっち系じゃないか。

 というか、そんな話は初めてだった。


「そうだ!今度のデート、私の家に来なよ!そしたら生物の勉強もできるよ!」


 それなら、悪くないかも。と僕は思った。

 こんな日々が続くと思っていた。

 こうやって二人で話しながら、流れていく車窓を眺める日々が続くと思っていた。

 でも、そんな日々がずっと続くわけではなかった。

 勿論、喧嘩とかをして別れてしまうことがあるということを忘れていたわけではないし、そうはなりたくないと気にしていた。

 でも彼女は。

 灯里は。

 忽然とある日、姿を消した。

 何もない、普通の日。

 いつも通り、バスの中でさよならと言って、次の日にはおはようと言えるはずだった。でも、言えなかった。

 その日から彼女は、行方不明になった。

 勿論、灯里の両親にも聞きに行った。

 だけど、両親も警察に捜索願を出したっきり、何も進展はなかった。

 それから一年。もう、灯里は戻ってこないと悟った。

 そして、大学に無事入学して、就職もした。

 だけど、ずっと。ずっと。

 灯里の事が頭から離れなかった。

 それから、よくその夢を見る。

 灯里と過ごした日々を。

 そして、いつも。

 あの日の「さよなら」で目が覚める。

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