寝オチイベントも定番です
裁判官の仕事は長い。型紙をもらってきたと自慢しようにも、エルピディオが帰ってくるのは夜遅くだ。彼女は頼まれごとは断れないタイプ、というのも手伝って、さらに時間がかかる。非常に優秀な人ではあるのだが。
午後の仕事はあらかた終わってしまった。エルピディオの帰りに合わせなければならない食事の用意や、風呂などはまだやれない。暇な時間ができてしまった。
「どーしようかな……」
そう呟いてから、雑貨屋に寄って来ればよかったと後悔する。行っても良いのだが、仕事をするためにもう着替えてしまった。また着替えるのは面倒だ。
することがないので、なんとなく屋敷の中を探索するが、これといって特別な発見はない。仕方なしに自室に戻ると、タンスの中を漁って、使わないハンカチや着ないワンピースを取り出す。ものは試しで、それらを使ってドールの洋服を作成使用と考え付く。
「大丈夫かな……。いや、洋服はやめとこ」
大半が、給料とは別にエルピディオが買ってくれたものである。
『良いのよ、私が買ってあげたいの。それに、折角女の子なんだから、貴方は全力で女の子を楽しみなさい。何事も、楽しまないと損よ』
そうもの悲しそうな笑顔で言われてしまうと、どうにも拒否は出来ない。
あの人は、いつもそうだ。人には自由であることを押し付けるというのに、自分のことは自分で雁字搦めに押さえつけてしまう。本当は、自分が可愛い服を着たいのだということくらい、誰が見ても明白だろう。
(アイツが馬鹿でさえなきゃな……)
適当にかき集めたハンカチを机の上に置き、裁縫道具一式を棚の奥から引っ張り出す。そして、型紙を机の上に広げ、作業を開始する。型紙を元にハンカチを裁断し、一思いに縫っていく。
適当な思い付きな上に、小学校以来の裁縫にも関わらず、それなりに形になっている。やはり、エミリーの身体・頭だからなのだろう。
「作ったけど……、うん」
人形を着せ替えようにも自分のものではないので、勝手には出来ない。少し考えて、『作ってみました エミリー』と書いた紙と共に、彼女の部屋の前に置く。入ってもいいわよ、とは言われているが、彼女が男性でもあるという部分に触れてしまう要素もあるため、あまり気は進まない。
洋服を作るのに1~2時間かけられないかな、と考えていたが、全然だ。30分で終わってしまった。勢いよく伸びをしてから、ばたりとベッドに倒れこむ。
「寝ちゃ駄目、寝ちゃ駄目。うん、これからまだ仕事ある。寝ちゃ駄目」
口に出して言うものの、瞼が重くなってくる。目覚ましがないというのが不安だが、睡眠は三大欲求の一つ。抗えず、意識が遠のいていった。
「……リー、エーミリー」
随分と聞き覚えのある、そして、デジャブ感のある声。
「待って……」
「ご飯作ったのよ、エミリー。私の手料理は嫌?」
耳元でいい声で囁かれたら、誰しもが一発で目が覚めるだろう。
「手りょ、え……。あの、今何時ですか」
勢いよく起き上がったと思えば、すぐに正座に直る。当然、声の主は、相変らず可笑しい距離感の主人である。
寝落ちして仕事をすっぽかすというのは、当然ながらやってはならないことだ。
「まだ19時よ。いつもより、ちょっと仕事が早めに片付いたの。気にしないで良いわよ」
「いえ、その、ごめんなさい」
良いのよ、と言ってはくれるものの、当然平謝りだ。
「人形用のお洋服、作ってくれたんでしょう? それでチャラ。さぁ、ご飯にしましょう」
「エル様……。はい!」
彼女の作る夕食は、短時間で作ったというには随分と豪勢で、えらく美味しかった。