出会いを封じる戦法、ありですか?
「人形ねえ。しょーもないわ。お金にだってならないじゃない」
「はいはい、金金金金って煩いですよ。じゃあ、とっとと出てってください。わざわざ店主に聞かすような言葉でもないですし。はい、さよならー。お城に帰りましょうねー」
アンヘラと名乗った彼女の身体を反転させ、入り口を開け、店の外へと出す。いくら姫だろうと、言っていいことと悪いことというのは存在する。そしてなにより、ウォルターには出来る限り近付いてほしくない。
出会いを拒めば拒むほど、恋愛へと発展し辛くなるのは明白だ。
しかし、彼女は彼女でそう簡単にはめげてくれない。
「ちょっとー、開けなさいよ! なによー!」
ガンガンと彼女はドアを叩く。姫という身ながら品がない。入ってこられると嫌なので、背中で扉を押すようにしてドアを塞ぐ。内開きで助かった。
「なんなら、私が城へと送り返してやっても良いんですよ、アンヘラさん。嫌だったら、今日は他所を当たってください。私は手段を選びませんから」
自分で言ったものの、なんに対する手段を選ばないつもりなのだろうか。だが、言ってしまったものは取り消そうにも取り消せない。理由もわからないのに謎の過激派に絡まれるというのは、ある意味なによりも怖いのではなかろうか。
「あなた、何者なのよ。私のこと、知らないって言ってたじゃない!」
「知ってますよ、一国の王女の顔くらい。面倒だから知らないって言っただけです。どうします?」
「しょーがないわね。わかったわよ」
耳を済ませて、足音が聞こえなくなるまで待ってから、店内を改めて見回す。手のひらサイズのドールから、エミリーより全然大きなサイズのドールもある。また、カラフルに店内を彩る洋服は、様々なものがある。
(流石に不味い……? でも、ね。うん。嫌いなタイプだしね)
何より、エミリーはヒロインにはなれないのだ。アンヘラと名乗った彼女がヒロインで、エミリー自身は恐らく、誰ともくっ付くこともなく、この物語は終焉へと向っていくはずだ。
暫くすると、奥からウォルターが大量の紙を持って出てきた。それを、ドサリと盛大な音を立てて机の上に置くと、エミリーを手招きする。近付いて覗き込んでみれば、多種多様なサイズのドールの洋服の型紙だ。ワンピースやTシャツだけでなく、エプロンや帽子などのものもある。
「凄い。これ、全部自作なんですか?」
「そうだよ。師匠代わりの姉に教えてもらいながら作ってる。ここら辺のやつは、昨日の子も着れるサイズのやつだね。好きなのを持って言っていいよ」
中には、フリルや刺繍のレシピなどもある。刺繍も全部一人でやるのだそうだ。それだけでなく、ウィッグの染色・作成もそうらしい。
「お金はどうすれば良いですか?」
「いや、良いよ。いらない。僕は自分で作れるからね」
「そうですか」
彼がそう言う以上、受け取ってはもらえないだろう。
出来る限りシンプルな、応用のきくスタンダードな型紙を譲ってもらい、その日は店を後にした。
(なんか、悪役令嬢ってこんな感じなのかね)
『令嬢』なんて役職のキャラが出てくる乙女ゲーは一切やったことがないが、小説を読むぶんには読んだことがある。楽しいとも悲しいとも思わないが、自分の歪んでいる部分が露骨に出ている気がして、少々嫌気が差しそうだ。
なんせ、キャラが好きだからと、他人の幸せを妨害するようなもんだ。
(まあ、止めないんだけどさ)
お屋敷に帰れば、午後の作業を開始するのだった。