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烏の医者

 言葉というのは、時に人を生かして、時に人を殺す。

 優しい言葉をかければ誰しもが元気になるわけでもないし、時には放置しておいて欲しいこともある。だが、声をかけて欲しいこともあるから人間って言うのは面倒くさい。


「エルピディオ様」

「すまない、わかっている。……もう、大丈夫だ」


 彼は、すくっと立ち上がり、再び歩み始める。

 言葉がなくとも通じてしまうというのも、それはそれで困りものなのかもしれない。


(今のあなたは『エルピディオ』であって『エル』じゃない、なんて。……言いたくなかったけど、なんか、な)


 相手も察してくれたようではあったが、それが傷つけてはいないか、と心配になる。そんな自分も嫌になってきて、内心で小さく溜息を付く。結局は、自分も意思をちゃんとは告げられない、気の弱いやつだ。

 歯車の町並みを眺めながら目的のパン屋へと向う最中、ペストマスクに真っ黒なマントを羽織った長身の男性に遭遇する。


「イーグルだ」


 桜子の記憶が確かならば、195センチあったはずの、闇医者イーグル。最後のエピローグでしかマスクを外さないという、癖の強めのキャラである。

 向って歩いてきていた彼は、ぴたりと桜子の目の前で止める。最早完全に見上げる形だ。


「えっと……、何用ですか?」


 ペストマスクを実際に見たのは初めてだが、この鳥のようなマスクは威圧感が凄い。当時はこんなマスクをつけた医者が街中をうろついていたのかと思うと、だいぶ気味が悪い。小さい子は泣かなかったのだろうか。

 それ以上に、ペストマスク姿しか見ていないにも関わらず、よくイーグルと付き合えたなと、ヒロインに少々感心してしまう。全身を覆うマントのせいで、はっきりわかるのは靴の大きさくらいだ。


「何故、貴様が私の名前を知っている」


 表情も読めなければ、声質も無機質。

 ゲームをやっているから顔は知っているものの、エミリーからしてみれば、今が初対面。必死に頭を回転させる。


「あー……、あーっと。あなたの風貌的に、そうかなって。黒いマントの、ペストマスク。で、すっごく、背が高い。そんな医者がいて、名前がイーグルだって、聞いてたので」


 自分でもビックリするほど出まかせが下手糞だ。そのせいか、何ともいえない沈黙の空間が広がる。一つ言えるとすれば、とにかく空気が重苦しい。


「うちの使用人に何か用かな」

「エルピディル様」

「不躾に人の名前を呼ばせるな。私は見世物ではない」

「それは申し訳なかった。注意しておこう」


 では失礼、と言うと、エルピディオはイーグルを避けるようにして、目的のパン屋へと入る。桜子は、イーグルに一礼をしてから、その後を追いかける。


「あんまり、ああいうのは相手をしちゃ駄目だよ。不用意に喧嘩を売るような奴はろくなのがいない」

「でも、あれは私が悪かったかなと。ありがとうございます、エルピディオ様」

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