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気付かれない乙女心

 主人とともに町に繰り出せば、洋風な建物と共に、無数の歯車が目に飛び込んでくる。金や銀に輝いていて、錆付いている物は一つもない。そのせいか違和感はなく、中世ヨーロッパを模した町並みを、より引き立てている。

 ゲーム内でも語られていることだが、この世界では歯車によるエネルギーが、全ての源だそうだ。


「何処に向われますか?」

「そうだな……。まずは、注文していた人形を引き取りに行こう。その後は、パン屋にでも寄ろうか」


 いつもよりワントーン低めな、男口調。イケボという言葉がピッタリである。

 実のところ、おネエ口調の彼が見れるのは、特定の条件を満たした特別なルートか、エミリーがメインのスピンオフ作品だけである。いわば、エミリーの特権ともいえるだろう。

 裁判官という職業柄もあってか、世間体というのを彼はかなり気にしている節がある。


「エルピディオ様、雑貨屋にも、寄りたいのですが」

「ああ、わかった」


 ちょっとした会話をしながらたどり着いた人形屋は、閑散としている。少々緊張しているように見えるエルピディオの背中を軽く押せば、彼は困ったように微笑んで、建物の中に入る。


「ウォルター、いるか?」

「あぁ、エルピディオさん。できてるよ」


 ひょっこりと建物の奥から出てきたのは、ファンから『ニンジン』と評される、人形屋のウォルター・バルトゥーニェクである。なんとなくお分かりかもしれないが、エルピディオが片想いしている相手はコイツだ。

 頭が緑で目がオレンジだから、ニンジン。物凄い単純なあだ名なのだが、販売から1周年記念のイラストでは、なぜかニンジン畑に佇むウォルターの絵が描かれたのだから、中々侮れない。


「そうそう、最近、ちょっと改良をしてね。腕の可動域がちょっと広がったんだ。ポーズも色々、とらせやすくなってると思う。だから、ちょっと肩周りに余裕があるような洋服を作ると良いかもね」


 そう説明をしつつ、彼は作業台から一体の人形を連れてくる。褐色肌に銀髪の、男の子のドールだ。

 今回は、そんなに大きなサイズではなく、16センチのものだ。そして、フルメイクで、衣装とウィッグもセット。


(これ滅茶苦茶高いやつじゃん……)


 推しが人形が好きだから、ということが発端でドール趣味を持ち始めた桜子だが、内心で悲鳴を上げる。

 人形師に直々に頼んで作ってもらったことは当然ないのだが、『リカちゃん』などとは比べ物にならない値段がするはずだ。


「そうか、ありがとう。おいくらかな?」

「12万になるよ」

「いつもより安めなんだな」


 そんなことを言いつつ、さっさと支払いを終える。


(12万で安いって金持ちかよ……。まあ、それもそうか)


 バイトしか出来ない学生と違って、社会人でしかも裁判官という職業である以上、金の自由はかなりきくのだろう。


「君は沢山ドールを買ってくれるからね。僕みたいな人形師には、ありがたいんだよ。だから、感謝の気持ちを込めてね。それに、同じ男性で人形が好きな人って、少ないからさ。この縁は大事にしたいなって思ってるんだ」

「ああ、僕もそう思うよ」


 梱包をし終えたドールを受け取ると、エルピディオは気持ち早足で店を後にする。


「また来てね」


 バイバイと手を振るウォルターに、彼は小さく手を振り返す。そして歩み出したかと思えば、少しして、すぐに膝から崩れ落ちてしまう。


「エル様」

「ごめん。すぐ、すぐだから。ちょっと、待って……」

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