崖っぷちサブヒロイン
一旦屋敷へと戻り、自分の部屋のベットへと潜り込む。
色々と想定外だ。
(いや、私のせいだけど。私のせいなんだけど……!)
だとしても、いままで赤毛に会わなかったのは何故なのだろうか。記憶から出来る限り抹消しておきたい存在だったとはいえ、外出をそこそこしていたわけだから、会わない方が稀なのだが。
(これ、もしかして、私のデータ、なのかな……?)
このゲームでのセーブデータは三つ。うち二つはイェルハルドのバッドエンドとウォルターのハッピーエンドで埋まっていたはずだ。そして、オープニングを見終え、少しだけ弄ったルートがあった、ような気がする。元の記憶が霞んできてしまっているせいではっきりとは言えないが、まだ回収できていなかったウォルターのバッドエンドの一つを回収しようとしていたのではなかったのだろうか。
基本的に赤毛は避けるルートを通っていたので、それが反映されているのかもしれない。かといって、王兵はアンヘラを探して巡回している。なので、会わないなんてことはないような気はするが。
「っていうか、プレイヤー誰よ……。裏世界みたいな? ゲーム内時間的なあれなの? わかんないよ……」
そうボヤキつつ、ぼーっと天井を見る。その後、あっちこっちに視線をさ迷わせる。確かに部屋があって、道具があって、ベットがあって、布団がかかっている部分は少々暖かい。確かに感覚はあるし、ゲームをやっている最中では聞こえなかった時計の音、風の音など、規則的なものも、変則的な音もしっかりと聞こえる。
ぐるぐると様々な憶測が頭の中を巡る。しっかりと一個解るのは、自分にはどう頑張っても正解がわかりっこないということだけ。それでも、前から気になってしまっているのは、『死』がどういうものか、という事について考えているときに似ているのかもしれない。
「……本当に、どうしようかなぁ」
はぁ、と溜息をつく。同じことをねちねちと捏ね繰り回して考えてもわかりっこない。頭を振るって、別のことに思慮の矛先を向ける。
自分の行動で攻略対象の心理に影響が出てしまうとなると、「アンヘラを妨害するために攻略対象に近付く」という行為は、もう易々とはできない。かといって、アンヘラを助けないとなると、それはそれで自分や周りはどうなるのだろうか? 見当がつくはずもない。
「でも、プレイヤーがいるならさ、こんな考えとかできなくない? 大分メタ発言じゃん……?」
乙女ゲーにメタ発言は基本的に駄目だろう。擬似恋愛を楽しむゲームだというのに、余韻などを全部ぶっ壊してしまうことになる。少なくとも、桜子にとっては言語道断だ。
ましてや、コンシューマーのしっかりとしたゲームだ。そもそも、こんなテキストは書かないだろう。
「どーしようもない、のよね。受け入れるしか、ないか」
クリアまで行ったらどうなるのだろう、だとか、色々疑問点は尽きない。気になってしまうこともたたある。だが、人生と同じで、行き当たりばったりながらもなんとかしなければならないのだろう。
「イーグル見っけてアンヘラ探す! エル様の恋路はその後なんとかしよう! うん! 同時にこなすのは無理!」
攻略対象の好感度が足りず、ヒロインが誰ともくっつかずにある意味平和に終わるルートは存在する。別に、桜子としては誰かとくっつきたい訳ではなく、単にエルピディオに幸せになってほしいだけだ。自身のことはそっちのルートに入ることにかけ、情報収集のための一人作戦会議を開始した。