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美味さの秘密

作者: 大鳥居

 今日は川崎の奢りということで、私は赤坂の老舗料亭に赴いていた。

 

 川崎は地元の繁華街で焼き鳥屋を経営しているのだが、ここ最近は売り上げも良いらしく、旧い付き合いの私は「久しぶりに飲もう」と、彼に誘われるままに赤坂に来たのだった。


 「随分と高そうな料亭だが、そんなに儲かってるのか?」

 私は遠慮なしに川崎に訊いた。なぜなら先日、彼に同業の焼き鳥屋――しかも人気のある有名店の支店が隣のビルに入ったいう話を聞いていたからだ。


 「あぁ、儲かってるよ。隣のビルに焼き鳥屋が入ったって話はしたっけ? おかげさまで商売繁盛だ」

 川崎はそう言って、含みのある笑いを浮かべる。



 そして、川崎は経緯を話し始めた。



 彼の経営する焼き鳥屋はどこにでもある代わり映えのしない店だ。

 地元の繁華街には飲食店の入ったビルが集中していたが、焼き鳥屋は彼の店以外にはなかった。

 美味いことは美味いが、普通の焼き鳥屋だ。常連客が付いていることで何とかやっていける程度の店でしかない。


 ある日、隣接するビルのテナントだったラーメン屋が閉店した。

 彼は隣接するビルのオーナーである鶴見とは旧い付き合いで、その跡地に何のテナントが入るのかを聞き出した。

 すると、驚いたことに焼き鳥屋だというのだ。飲食店が入るのは当然のことだが、よりによって焼き鳥屋。しかも、美味いと評判で、行列の出来る有名店が支店を出すというのだ。


 相手も当然、隣に焼き鳥屋があるのを承知の上で出店するのだ。勝算があると踏んでの事なのは間違いない。


 彼は、鶴見にどういった条件での出店なのかを聞いた。自分の焼き鳥屋が潰れるようなことがあったら、お前の嫁に過去の浮気をバラすぞと脅しながら。


 ビルオーナーの鶴見によると、賃料条件は歩合だが、最低売り上げ保証が設定されている。その最低売り上げ保証の賃料さえ確保出来れば、オーナーとしては困らないということだった。


 それならばと、彼は鶴見にあることを頼み、彼の店も改装のために休業した。


 

 そして、隣の焼き鳥屋が開業する。

 彼の店はそれ以前に改装を終えて営業再開していたが、隣が開業してからはいつもの半分ほどに客足は落ち込んでいた。

 隣の焼き鳥屋はさすがに有名店の支店だけあり、開店してからは連日の大盛況だ。彼の店の少なくとも5倍は客が入っていた。その上、外にまで行列が出来ている。



 彼は相手の店が大盛況なのを見て、満足そうに頷く。


 「よし、今日からあれを使うぞ」

 彼は、アルバイトの店員に指示を出す。アルバイトは彼の指示に従い、壁にあるスイッチを入れた。




 「――というわけさ」

 川崎はそこまで言うと、私の反応を伺うように視線を向ける。


 「それでどうして売り上げが上がるんだ?」

 そう言って、私は彼の答えを待った。



 「隣の焼き鳥屋の焼き場から出る煙を、ウチの店の前から出るようにダクトを繋げたのさ。スイッチはそれの起動スイッチだ」

良くある話(短編的に)

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