だいさんわ リメッタ・ミルティロ・ミルティロロッソ
私は、その子が信用出来なかった。色は一緒なのに、全く違う性別。書かれていなかった身体能力。あっという間に人気になっていく彼女……いえ、彼に不安を、恐怖を抱いた。
グラナータ・マンダリー・リカー
元々、ナータとして街で暮らしていた彼女がとある貴族の隠し子だったことが発覚し、引き取られ、この学園に入ってくるところから物語が始まる。なんなともおかしな話で、昔読んでいたところでは良くある設定。そして、描かれる悪役は没落し、惨めな最後を送る。もしくは、主人公がすっごい性格の悪い子だったりとか。
そんなモノを予想していたのに。
初めて見たのは転入初日。私のこれからの生命に関わると思い、こっそりと見に行った。学園の窓から、姿を確認した。
サクラの花びらが舞う中、一人遅れてゆっくりと学園の門をくぐるのだ。ゲームの中でもあった、絵だ。綺麗な、素敵な絵。でも、なんで。
男で来てるの……!
私は驚きを隠せない。それでも、私は貴族の令嬢。顔には出さないように出来ている。いや、そのように今まで頑張ってきた。
私は、チラリと見た後はオトモダチの所へ行って会話に花を咲かせる。でもやっぱり、女の子ね。噂話が好き。転入生のことばかり。
どんな方なんでしょう。
どこの家の人かしら。
外見は?
性格は?
社交会では見たことは?
知らないかしら。
そのような話題ばかり。私に聞かれても答えられないというのに。私は困ったように笑って話を変えていった。
そうして、大体二週間近くの時間が経過した。あの子は、ゲームのシナリオ通り、ネスポロを攻略していた。いや、攻略、と言って良いのかは分からないが、仲良くなっていた。それはもう、噂が立つくらいには。仲が良かった。
綺麗な主人公。
可愛い感じの攻略対象。
それは、もう。女性の妄想を掻き立てる。私はいけない扉を開けそうだった。思わず自分の頬を叩いて自身を取り戻した程。なんていうか、破壊力が、すごい。いつも笑っている二人だけど、主人公が本気で笑ったところを見るとヤバイ。取り巻きの大半が撃沈してる。なんとか、倒れなかった人も居たが、地面に膝を付いていた。
これだけでも危ない人物なのに。
三週間経とうとした時、初めての音楽の授業があった。この授業は毎回先生が変わる上に一緒に受ける生徒も変わる不思議な授業だ。多分これもゲームの仕様。その時の好感度パラメータによって一緒に受ける人が変わる仕組み。ゲームの時はなんにも不思議に思わなかったけど、現実にしてみたらすっごくおかしい……!
それに、まさか私の隣が主人公ってどういうこと……!?
もしかして、他の攻略対象より私の方が好感度が高いってこと!? いえ、そんなことはない。ないと思う。ないはずよ! そりゃ、私としても、カッコイイな、綺麗だな、礼儀正しいなって思うけど! おかしくない!? しかも、あの長い演説を真面目な顔で、微かな笑顔を混ぜながら見るなんて! お前の顔どーなってんの!? って感じなんだけど! うわぁあああああ!!
『では、隣同士で話し合いましょう』
演説の最後を女の教師は締めくくりやがったのだ。私と、彼は知り合いではない。話し合おうにもまずは自己紹介から入らなければならないし、更に私から話しかけなければならないだなんて……!
隣を見ると、こちらを見ていたのか、ニコニコとしている主人公がいた。私は、隣に向き合い、笑う。
「……ごきげんよう。私、貴方のことを知らないのだけれど。教えていただけない?」
私がそう言うと、主人公は立ち上がり、一歩下がって頭を下げる。ここで貴族の挨拶をするかー。注目されているでしょー。いや、普通の貴族としては当たり前なんだけどさ!
「お初にお目にかかります。グラナータ・マンダリー・リカーと申します。以後、お見知りおきを」
にっこりと笑って言う主人公に引きつった笑いしか出来ない。そんなに綺麗に笑わないで欲しい! 次挨拶する私が苦しいでしょう! それでも、私の中では挨拶しない、なんて選択肢はない。というか、そんな選択出来るわけない! 私もなんとか必死に笑顔を作り挨拶を返す。
「ご丁寧にありがとうございます。私はリメッタ・ミルティロ・ミルティロロッソと申します。これからも互いに頑張っていきましょう」
最後に、私は綺麗に笑っているだろうか。不安に私の心臓はうるさく音を立てているが、気にしない振りをした。