だいにわ リカー
ネロは、あれからよく私に絡んでくるようになった。移動教室、昼食、下校時、移動という移動で私に気を使っている。それは、気に入っている、という理由ではなく、試している為。ネロは自分自身でそう思っているみたいだけど、全くそんなことない。私がしているのは普通の貴族なら誰だって出来ることなのだ。確かに、この学園には子供は多いと思うが。
私は隣を歩くネロをチラリと見て笑う。元気そうに、あくまでもアホそうに見せるネロ。いつの間にか、表にアホが定着してしまって剥がせない可哀想なネロ。私の為に、踊っておくれ。
フワリ、フワリと笑顔を飛ばしながら歩く。目指す先は音楽ホール。書物と羊皮紙と羽根ペンを詰め込んだ小さな鞄を持って。
「そういえば、ナータは何か楽器は弾ける? これから弾く機会も増えていくと思うんだけど」
くるくる回りながらネロは私に聞いた。私は顎に手を触れて、考える。
「そうですねぇ。ヴァイオリンは人前で弾ける程度の腕はあると自負してますが……他の楽器となると……難しいかな」
「そっかそっか! 一つでも弾けるなら問題ないよ! 弾く機会があったら一緒に演奏しよ」
んふふ、とネロは笑う。私もそうですね、と返して微笑んだ。
心なしか、微笑むと視線が集まる気がしてしまうのは、自意識過剰ではないと思う。
目の前を向いて、音楽ホールへ歩き続けて三分ほど。この学園はすごい広さだ。中庭に行くのだって教室から十分程度掛かるのだ。金持ってるところは違うな、ていうくらいの感想だ。音楽ホールに入っても、やはり貴族の学園。何に使うんだってほどの大きな空間で、一体どれ程の人を呼ぶのか分からないが観客席がブワッと後ろに並んでいた。煌びやかな照明に、椅子。
私とネロはホール中央に立っている女性教師の指示に従い、最前列の観客席に座る。
そして唐突に始まる意味も分からない女性教師の演説とBGM。よく見ると女性教師の後ろの方に楽器を持ったたくさんの人がいた。なるほどね、と自分自身納得しながら演説は殆どが右から左。聞くに値しないことをじっと座って聞かされるなんて、どんな拷問だ。それでも、笑顔を貼り付けて聞き続ける。笑顔は私の武器。にっこりニコニコ。
ネロと、似ているな、なんて思いながら演説が終わるのをじっと待つ。
話が終わったのは、あれから二十分を過ぎるくらいの時間を要し、ここから授業が始まった。無駄な時間を過ごした、と思わなくは無いが、大事な時間だ。
二人目の重要人物。
前世での小説や話題のワードで言うなら。
『悪役令嬢。
リメッタ・ミルティロ・ミルティロロッソ』
まだ入ったばかり、しかもネロしか話し相手が居ない状態では、どんな人物か聞くことも出来なかった。良く聞く話なら悪役令嬢というのは転生者が多いらしい。
さて、リメッタさんはどんな反応をくれるのかな?
(2017/05/14)
誤・改行修正。