だいいちわ 転入から三日目
入学当初、転入生の教室には休みの時間になる度に他の学年、クラスの人達が見に来ていた。もちろん、その転入生を見る為だと思われるが、いきなり話しかけるのは無礼である、というのは理解しているのか、見に来た者は皆、教室にいた知り合いに話しをしに来た、という体を装っていた。しかし、チラチラと視線が転入生と近くにいるこちらにも突き刺さる。僕は視線に気付かないふりをして転入生に話しかけた。
「リカー! 今から食事に行こう! お弁当、持ってきてる!?」
僕は元気よく転入生--リカー--に話し掛ける。まるで、食事の時間を今か今かと待っていたかのように。リカーはそんな僕の様子を見てふわりと笑って嬉しそうに言葉を返してくる。
「はい。持ってきておりますよ」
落ち着いた声でしっかりと返してくる。その事に僕はわざと頬を膨らませ、言葉を吐き出した。
「ぶぅー。そんなに堅苦しい喋り方は辞めてって言ってるじゃん」
僕は怒ってます、アピールをして言う。リカーはそれに少し困ったような顔を一瞬見せた後に優しく微笑むだけだった。
「全くー! 仕方ないなぁー!」
そう言って、僕は返事を待たずにずんずん進んでいく。後ろをチラリ、と見ると、教室からは僕の行動にヒソヒソと話す生徒が目に入るが、そっと、視界にリカーが入ってきた。僕はドキリ、と心臓が跳ねた。もしかして、後ろを伺ってるの、バレた? そう思うがリカーはキョロキョロと辺りを興味深そうに見渡している。どこにも、僕の視線を塞ぐ為に移動したような素振りを見せていない。
何も教わってないバカじゃないらしい。
僕は、リカーの評価を一つ上方修正した。
僕とリカーの間での会話はこれと言ってなく、歩き続けて5分程。着いた場所は中庭。今日みたいに晴れている日はとても良い気分で食事が出来る。自然と笑顔になるから楽だ、素晴らしい。中庭の中央、大きな木下には机とベンチが設置されている。僕はそこまで歩いて立ち止まりリカーの方を向く。
「お先にどーぞ!」
手をベンチの方へと向けてリカーに先を促してみた。リカーは僕の顔を見て首を傾げた後、小さく笑って僕に言う。
「ふふっ……ご冗談を。ジン様がお先にどうぞお掛け下さい」
よく分かってる。僕の素直な感想だ。
「あはー! そう言われたらそーだね! 先に座ろうかな!」
そう言ってベンチに腰掛ける。が、リカーはいつまで経っても腰掛けない。僕はリカーを見上げ、首を傾げた。
「どーして、座らないの?」
あくまでも、本気で思っているかのように。自分自身に気を付けながらリカーに声を掛ける。リカーは僕を真面目な顔で見つめて、答えを言った。
「ジン様に、お許しを頂いて居ないのに勝手に対面に腰掛けるなど……私にはそのような度胸はございません」
小さく頭を下げながら言い切られる。
「……あははははっ! すごい! すごいよ! あはははは!」
僕は声を上げて笑う。最近はいつも大声で話していたから思わず大きな声になってしまった。まさかリカーは僕がこんなに大きく笑うなんて思わなかったのだろう。そりゃ、僕だってリカーがそんなに教育が行き届いているなんて思ってもなかったんだ。
嬉しかったんだよ。
そう、僕は、嬉しいんだ。
君が思った以上に出来ている人で。
「リカー。私は君を認めよう。私の名前はネスポロ・フルッタ・ジン。ネロ、と呼んでくれ。あと、もう一度言い直そう。堅苦しく喋らなくて良い。今日から友なのだ。一緒に食事を共にしよう。席に掛けてくれ」
リカーは僕の言葉に目をぱちくりとさせ、満面の笑みをこちらを見て。
「私はグラナータ・マンダリー・リカーと言います。ナータとお呼びください。前、失礼しますね」
ナータは名乗り、ようやくベンチに腰掛け、僕に笑いかける。僕はナータに笑い返して食事を開始した。