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9話

少しだけですがいつもより長いです。というか戻っただけかもしれません。


では、どうぞ。


                17


「それで妹さんはまだ見つかってないんだよね?」

「はい。先生の方もまだ見つけていないみたいです」

 あれから十分な休憩と水分を摂った朔夜は凛といっしょに学生が好みそうな街を歩いている。

 しかし、結果はすべて空振り。あの燃えるような紅い髪ならすぐにでも見つかりそうなのだが、目撃情報すらなかった。

 嫌な想像が走る。それを振り払うためにすっかり温くなった水を呷る。

「柊君が焦っても仕方ないよ。もうちょっと落ち着こう」

「分かってます。でも、やっぱり心配で……」

 正直、今にも走り出しそうだ。隣に凛がいなければとっくにそうしているだろう。凛もそれがわかっているから手分けして探そうとせず、朔夜に張り付いているのだろう。

「やみくもに走り回っても仕方ないよ。何か妹さんが行きそうな場所とか心当たりない?」

「心当たりですか? うーん、難しいですね。俺と詩音はずっと離れて暮らしていたんです。だから、今の彼女が行きそうな場所なんて分からないです」

 だから、こうしてアテもなく探している、と肩をすくめて見せる。

 そうだね、と凛も同意して見せた後、考える素振りを見せる。

 その姿も容姿と相まって素晴らしいものだったが歩きながらの考え事なんて危ないのでできるだけさり気なく人に当たらないように誘導する。

 しばらくして凛はどこか明るい声でそれを言った。

「だったら、柊君と一緒に暮らしていた時の詩音ちゃんが行きそうなところに行こうよ」

「え?」

 朔夜がそう思わず聞き返すと凛は強く聞き返した。

「だって、もうそれしかないでしょ? 闇雲に走り回るよりマシだよ」


 一理あるが朔夜も詩音もあまり遠くへ出かけることなんてなかった。

 朔夜はパイロットとしての費やした時間が多いし、詩音もよく訓練についてきていた。

 それ以前の話をするとそもそも父は仕事柄忙しかったからどっちにしろというやつだ。

 それに――――

「俺と詩音は実はあまり仲が良くなかったんです。その、本当の兄妹じゃなかったからかもしれないですけど出会った時は碌に口を聞いてくれなくて。仲が良かった時期の方が短かったかもしれないですね」

「ふーん、そうなんだ。ふーん」

 少し含みのある返答のような気がしたが何かに気付くより先に凛が言葉を続ける。

「それでもやっぱり、あるんじゃないかな? こう、思い出の場所とか」

「思い出の場所……? うーん、それこそそんなもの」

 次いで、頭に雷が落ちたような衝撃を覚えた。

 あるじゃないか。思い出の場所。家族なら誰にでも絶対にある思い出の場所というやつが。

「思いついた?」

「いえ、多分いないと思うんですけど」

 と保険をかけて

「もしかしたら家にいるんじゃないるかもしれないです」

「え、でも、家には帰ってないって」

「あ、いえ、そっちじゃなくて昔住んでいた家です。まだあるかどうかわからないけどもしかしたらそこにいるんじゃないかなって」

 昔、自分が逃げ出す前に住んでいた家。父と詩音と住んでいたどこにでもある普通の一軒家。それこそが自分と妹を繋ぐ数少ないものではないだろうか?

 凛はなるほどと頷き、その意見に同意した。

「うん、行ってみよう。ダメで元々だしね」

 そうしてアテのない捜索に希望の光が差し込んだような気がした。


 目的地に辿り着いた頃にはセミの鳴き声は完全に止んでいた。 

 朔夜の対人恐怖症なる事情を考慮し、公共の設備を一切使わず3時間ほど歩いてようやくたどり着いた一軒家は数年の時を経ても変わることなくそこにあった。

 いざ目の前にすると数々の楽しかった記憶が蘇り、目頭が熱くなるがかっこ悪いところを見られたくないという小さなプライドが涙腺に蓋をする。

 ずっと持っていた昔の家の鍵を使い、中へと入る。

「おじゃまします」

「おじゃまします。柊君が言うのはおかしくない?」

「た、確かに」

 そんなやり取りをしながら家へと入る。

 出迎えてくれた旧我が家は記憶の中と大きな差異は見受けられなかった。

 父の稼ぎの割にはそれほど大きくもない普通の一軒家である。

 幼いながらも聡い妹がどうしてもっと大きな家を買わなかったのか問いかけると父は決まって「少し狭い方がちょうどいいんだよ」などと言っていたが、幼い兄妹は納得しなかった。

 しかし、今なら少しだけ父の考えが分かるかもしれない。

 二人は玄関、リビングと移動し、その間に家の中を簡単に見ていく。

 5年前と内装が変わっていないので家具などもそのままだ。

 ただ気になることにやけに整然としている印象を受けた。埃も想像より少ない。まるで人の出入りがあったみたいに思えた。

「ふーん、もしかしてここは誰かが定期的に出入りしてたのかな? 長官が管理してるんだっけ?」

「あー、なるほど。もしかしたら業者を雇っていたのかもしれませんね」

 そう結論付け二手に分かれて家宅捜索を行う。ただ、朔夜はあまり期待していなかった。

 数分後、人の隠れそうな所を含めくまなく探した二人だが、結果は空振り。そもそも隠れるのに比較的分かり易い場所を選ぶはずがない。

 ただ、僅かでも期待していた朔夜は沈む気持ちを隠し切れなかった。

 見かねた凛が休憩を提案する。朔夜も疲れが出てきたのでしぶしぶ了承した。

「見つからないね詩音ちゃん」

「はい。その、凛さんにも迷惑かけてすみません。妹のせいで貴重な時間を奪ったみたいで……」

「ううん、別にいいよ。むしろ私は詩音ちゃんに感謝しなくちゃね」

「感謝ですか?」

「うん、感謝。可愛い後輩の手助けをする機会をくれたからね」

「なるほど。ポジティブな考えですね」

 可愛い後輩にしか見られていないのは悔しいと思いつつも二人だけの時間を作ったという意味では詩音に感謝をしなければならない。

 よくよく考えればさっきまで二人で街を歩いていたのも見かたを変えればデートだったのでは!? と思考があらぬ方向へ飛んでいく。

 そのまま思考を修正せず、妄想を読み更けていると

「昨日、詩音ちゃんと会っていたんだよね? あまりいい結果じゃなかったって聞いたけど大丈夫?」

 一気に現実へと引き戻された。

「どうしてそのことを!?」

 ほぼ反射的に問うが凛は一瞬逡巡してからその白い指を口元にあてた。

「女の子同士の内緒話だからごめんね?」

「ええ……」

 秘密にされては無理に聞き出すことなぞできず、諦めるしかなかった。

 代わりに犯人に目星はついた。

 とりあえず、帰ったら隣人である不法侵入常習犯へ突撃を仕掛けようとひっそりと心の中で誓う。

「それでどうだった?」

 話を促され、初めは戸惑ったがやがて朔夜はぽつりと呟くように言った。

「はっきり言って滅茶苦茶応えました。今はこうしてあの子を捜していますけど会えたとしても何を言えばいいか分かりません」

 偽りざる本音だ。朔夜は未だに『答え』と言うものを持ち合わせていない。

 そもそも詩音の投げかけた問いをちゃんと理解できてないのだ。これでは答えに至ることなぞできない。

 朔夜はほんの少し迷った挙句、そのことを打ち明ける。

 凛はどのくらいこの件について理解しているかは分からないがうんうんと頷いた後、さして迷いもなく助言らしきものをくれた。

「なら、もう一度会おうよ」

 どこぞやの精神科医と同じ結論に達したらしい。

 朔夜が押し黙ると気楽そうに言葉を続ける。

「まあ、難しいのは分かるけどね。でも、答えどころか詩音ちゃんの問いかけすらわかってないんでしょ? なら、もう一度聞くべきだよ。それに私が思うに詩音ちゃんは言葉が足りてないんだと思う。自分の事しか見てないというか考えてないのかな?」

「……先生も同じようなこと言ってました。二人はお互いを見てないんだって」

 でも、と言葉を続ける。

「俺にはそれが分からない。俺は詩音のことを考えてます。彼女の父親を奪ったことを申し訳なく感じているし、父親を失った悲しみも理解できます。だからこそ分からない。どうしてあの子が泣いたのか。どうして俺が詩音のことを見ていないのか」

「二人とも難儀な性格してるんだね。もっと簡単に考えればいいのに。そういう言わけにもいかないのかな?」

「それはどういう意味ですか?」

 言葉の意味が理解できず、首をかしげる。凛はその疑問には答えず、逆に尋ねてきた。

「それは自分で考えるべきだよ。――――朔夜君はもう一度会いたい?」

「俺は……」

 言葉に詰まった。答えを持ち合わせてなからだ。

 しかし、もう一度分からないと答えることもできなかった。心の内に棲む何かが必死に押留めてくる。

 言い淀んでいると凛が静かに、それでいて力強く言葉を重ねる、

「……少し昔の話をしよっか」

「昔の、話ですか?」

「そう、昔の話。といっても5年前くらいだけどね」

 凛はどこかもの寂しげに笑う。その笑顔でさえ朔夜は魅了された。

「うん、確かその日は、ママの久しぶりの休みだったの。私のママは女手一つで育ててくれてさ、毎日それこそ休日も返上して働いててくれた。で、ようやくできた休みを私の新しい服を買うために使ってくれたんだ」

 嬉しかったと凛は憧憬を慈しむように話す。

「私もママと久しぶりのお買い物ではしゃいでた。あんまり、はしゃいじゃうもんだから叱られちゃったけどね」

 照れくささそうに笑う凛。どこか違和感を覚えながら朔夜も小さく頷く。

「俺もそういう覚えはあります。俺も父さんと詩音のことが好きだったから3人で遊びに出かける時はいつもより元気でした」

「フフ、昔の朔夜君はやんちゃだったんだね。私は……あんまり変わらないかな」

 その言葉に釣られて凛の幼い姿を想像するが精々スケールダウンした彼女を空想するくらいが限界だった。

 ただ、幼い頃の彼女も詩音に引けを取らない容姿の持ち主であることは明白だろう。

 そんなことを夢想していると凛は話を戻すねと前置きを入れる。

「いい気分だった私は叱られたのが気に食わなくて珍しく、もしかしたら初めてママに反抗した。口論の末、私はママの腕を振り払って飛び出しちゃった」

 それが間違いだった、といつになく平坦な声で彼女は続きを語る。

「それからしばらく走ってると不安になって足を止めたんだ。周りにはたくさん知らない人がいて、ここがどこかも分からなくてほんの少し泣きそうになったのを覚えてるよ。そのまま怖

くなってその場にいるとね、声が聞こえたんだ」

「お母さんですか?」

「そう、ママが見つけてくれたんだ。その時、ママの化粧が崩れてるのを見て私すごく後悔したの。ああ、ここまで心配にさせちゃったんだなって。馬鹿なことをしたんだなって反省したよ」

「いいお母さんですね。凛さんのことすごく大事に想ってることが伝わりました」

「うん、本当にいい人だったよ」

 その物言いにずっと感じていた違和感が顕著になる。何かがおかしいと警報が頭の中で鳴り響く。

 だから、欲に負けた。

「凛さんのお母さんは今どうしてます?」

 違和感を解消するためだけにそんな問いをした。いや、してしまった。すぐに聞かなければよかったと後悔した。

「死んじゃったよ」

 びくりと体が反応した。人の死に敏感になっている証拠だ。

 朔夜はどのような顔をしていいか分からず、ただただ申し訳なさそうに頭を下げる。

「ごめんなさい。知らなかったとはいえ、その、凛さんの思い出したくないことを聞いてしまって……ごめんなさい」

「ううん、大丈夫。元からこの話をするつもりだったから。それに私の中でお母さんとのことは折り合いはつけてるからさ。だから、顔を上げて? ね?」

「……分かりました」

 奥歯を噛みしめながら朔夜は顔を上げた。ただ、凛の顔をすぐに見ることはできなかった。

 視線を合わせることができなかったのは何も罪悪感だけではない。もちろん、それもあったが原因の大元はそこではなかった。

 彼女は言った。母親の死に折り合いをつけたと。

 彼女はできたのだ。立ち止まらず、前へ進むことが。朔夜にはできないことができた。

 一方、朔夜は御覧の通りいまだに父親の死を引きずっている。朔夜はずっと停滞したままだ。

 凛の強さに強く憧れた。自分もそうあれたらと思わずにいられない。半面、劣等感さえ抱いた。あるいはこの黒い感情は嫉妬かもしれない。

 そんな朔夜の心を露とも知らず、凛は話を続けた。

「……私とママが合流してすぐに地鳴りが遠くから聞こえた。初めは地震かなにかかなって思ったんだけど音がだんだん大きくなっていったの。その音が大きくなるにつれ何か良くないものが私達に迫ってるんだって理解したときは目の前の壁が崩れたの」

 緊迫した状況に思わず唾を飲み込む。ごくりと生々しい音が嫌に響いた。

「私が最後に見たのは崩れる壁とそれから守ろうとして私に覆いかぶさったママの姿だけ。私はそのまま気を失ってたみたい。……しばらくしてから目を覚ますとそこは知らない場所だったよ。舞い上がる砂埃。辺りの壁や建物は崩れ落ちてあっちこっちに火も上がっていた。周りの人たちは悲鳴を上げながら逃げまどっているから私も釣られて逃げようとした。でも、できなかったんだ。なんでだと思う?」

 いきなりの質問に思わずたじろぐ。

 ほんの少し考える振りをして真っ白な頭のままそれらしい答えを取り繕う。

「母親を探したんじゃないでしょうか? 子供なら親の心配をするだろうし……」

 後半しりすぼみになっていくが、凛は笑って「正解だよ」と答えた。

「ママはすぐに見つけることができたよ。でも、ママは頭をぶつけたみたいで意識を失っていた。出血もひどくてね。血の水溜まりができてたんだ。とてもじゃないけど一人じゃどうにもできなくて……周りの人も誰も助けてくれなかった」

「なんでそんなことになったんですか? 俺の記憶じゃそんな大きな災害はなかった……は、ず……まさか」

 心当たりが一つあった。忌々しい、可能な限り思い出したくない事件。

 朔夜の記憶に間違いがなければ、近年建物が崩れるほどの事故や災害はなかったはずだ。

 だが、あったじゃないか。事故や災害に決してひけを取らない――むしろ、それ以上の出来事が。

「ルーツが現れたんですね?」

 こくり、と凛が頷く。その弱々しい顔を直視することができなかった。

 恐らく、凛はできる限り自分の感情を殺して語っていたのだろう。声を平坦にしていたのも恐らく冷静であろうと務めていたのだ。

「私もどうすることもできなくて、でも、ママを置いていくこともできなかった。ずっと傍でママの名前を呼ぶしかなかった。名前を呼びながらこのまま死んじゃうのかなって思ってたら大きな音が聞こえたんだ」

「……音ですか?」

 なぜだか悪寒がした。これ以上は聞いてはいけない気がしてならなかった。

 自然と腰が浮く。逃げ出そうと体が勝手に動いだ。

 しかし、語り部はゆっくりとこちらを見て微笑む。それだけで逃げる気など失せてしまった。本当にずるい。

「壊された壁の向こうにはX・プリメントがいたんだ」

 朔夜がこれ以上失態を犯さなかったのは幸いだった。何の反応を見せることなく、息を潜めた小動物のように俯く。

「戦況は何にも知らない私でもわかっていた。かなり不利な状況。熊のルーツはあまりダメージはなかったかな。対して機体はボロボロ。肩で息をしてる鉄の人形が今にも壊れそうだった。でも、乗り手が全く諦めてないのがよく分かったよ。まるでX・プリメントが一つの生き物みたいだった。私はまだあんな風には操れてないからプリンセスちゃんは本当にすごかったんだね」

 違う。あんなやつはすごくもなんともない。ただ、与えられたおもちゃでめいっぴあ楽しんでいただけだ。

 そう言えたらどれだけ楽になれただろう。彼女が過去の自分を賞賛する度に胸が張り裂けそうになる。

「でも、負けちゃった。私を庇ったせいで」

「…………そうですか」

 ここまでくればいくら鈍い自分でも分かる。彼女はきっとあの時の少女だ。自分が勝機を捨ててまで選んだ結果だ。

 その彼女がC・ユニットに搭乗しているなんてなんて皮肉だろう。

「じゃ、凛さんがC・ユニットに乗っている理由て敵討ちですか?」

「うーん、どうだろう。それもあるかもしれないけど違うかもしれない。私はルーツを全部倒して私やお母さんみたいな被害者をこれ以上増やしたくないから戦ってるかな?」

「それが凛さんがいう正義の味方ですか?」

「うん、それが私が目指す正義の味方だよ」

 一体どこまで彼女は自分を辱めるのだろう。あらゆる点で朔夜は凛と自分の差を見せつけられた。

 再度強い劣等感を感じながらも朔夜はおずおずと尋ねた。これだけどうしても聞かなければいけない。でなければ自分は彼女に顔向けできない。

「凛さんは前のパイロットのことを恨んでますか?」

「? なんで?」

「その、彼女のせいで凛さんのお母さんは死んでしまって、ううん凛さんだけじゃない。多くの人々を守ることもできなかった。それにその後の責任も果たさず彼女は逃げて、今はその役を凛さんに押し付けている。こんなの最低じゃないか」

 後半ほとんど自分を責めるようだった。いや、実際心臓に針を刺した痛みが走っている。

 なのに彼女は顔色一つも変えずに言った。

「プリンセスちゃんのせいじゃないよ。だって、悪いのはルーツでしょ? 街を滅茶苦茶にしたのも人をたくさん殺したのも。それに逃げたんじゃないよ。お休みしているだけ。私は信じてるもん。いつか彼が帰ってくるって。だから、それまで一人ででも戦うよ」

 その言葉にどれだけ救われたか分からない。心が洗われたような気分になる。

 しかし、すぐに聞き捨てならない言葉があった。凛は彼が帰ってくるって言ったような気がする。言い間違いはあるまい。なら、彼女はプリンセスの正体を知っている?

「だからね。私待ってるから君のこと。いつか一緒に戦ってくれるって」

 はしばみ色の瞳がこちらを覗いた。その目を奪われる色に朔夜は首を振ることを忘れた。

 やがて、呆然としたまま朔夜は呟くように言った。

「知っていたんですね。俺のこと」

「うん。本当は秘密にするつもりだったけど、やっぱりフェアじゃないかなって思ったから」

 正直なところ朔夜の心は穏やかはなかった。

 ただ、それでも自分に何かを言う権利なんてないのは承知していた。それを承知で朔夜は言葉を紡ごうとした。

「ごめ――――」

「それ以上言ったら怒るから」 

 静かに凛は朔夜の言葉を遮った。朔夜はそれ以上何も言えなくなる。

「私が聞きたいのはそんな言葉じゃない。私の母親が死んだのが自分のせいだと思っているのならもう一度言うよ? あなたのせいじゃないって」

「でも、俺は……」

「やめよう。この話は。お互いによくないと思うから」

 なだめる凛に朔夜はしぶしぶ従った。先方から拒否されているなら仕方ないのかもしれない。そう自分に言い聞かせた。

「話長くなっちゃったね?」

「いえ、俺は別に大丈夫です」

「結局、私が言いたいのはね、後悔してほしくないんだ。昨日今日元気だった人がもしかしたら明日には死んでるかもしれない。人は本当にいきなり死んじゃうからさ」

 だから、と一拍置き

「柊君の本当にやりたいことをしようよ。余計な事は考えないでさ。だから聞かせて? 君が本当にしたいことって何?」

「俺が本当にしたいこと。それは――――」

 まだ答えは見つかっていない。会ってどうするかも分からない。居場所すら判明していない。それでも朔夜は自然とその答えを口にした。

「――――詩音に会います」

 会いたいではなく会います、と朔夜は言った。その僅かな変化は決意の表れなのかもしれない。

 凛はその答えなぜか何かを思い出すようにくすりと笑う。

「やっぱり、二人は兄妹なんだね」

 それだけ言うとなぜか荷物をまとめて立ち上がった。

「じゃあいこっか」

 突然の申し出に目を白黒させる。もう探すアテはないのでこのまま解散するのだと思っていた(勿論、朔夜は一人でも探すつもりだ)

「どこにですか?」

 その問いかけに凛は意外な言葉を発する。

「詩音ちゃんのところにだよ」

 彼女の澄ました顔と共に聞きなれたエンジン音が外から聞こえた。


感想やダメ出しお待ちしております。

次回もできるだけ早く投稿したいです。

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