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プロローグ

初めまして、拙い文ですがどうぞ読んでいって下さい。

なお、本日中にあと2つ投稿予定です。

腰の矢筒に手を伸ばし、残り一本となった矢を手に取る。

今日の戦績は全戦全敗。手ぶらで村に帰れば待っているのは幼馴染の少女の優しい慰めだ。


そんなもの男として、狩人として受けるわけにはいかない。


自然と弓を持つ手に力がこもる。


幸いなことに標的がこちらに気付いてる様子はなかった。


絶好のチャンスを逃したくはないが、焦って残り一本の矢を無駄撃ちしては元も子もない。


まずはゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。大丈夫だ、俺ならやれる、と。


静かに弓を構え、狙いをつける。僅かに動く標的に対してこちらも微調整を加えていく。

狙うのは相手が完全に動きを止めた時だ。動き続ける相手をジっと見つめる。


……今だ!!


相手が見せた一瞬の隙をつき弓を射ると、放たれた矢は木々に当たることもなく無事、標的の元まで届いた。

動かなくなった姿と、短い断末魔から狩りの成功を確信する。


こうして青年――ノースが行った狩りの成果は、ウサギ1匹となったのだった。



※※



朝早くに出たにも関わらず、持って帰るのがウサギ1匹では格好がつかない。

わかってはいるが、あれ以上森に留まったところで矢がないのではどうしようもなかった。


いっそ護身用にと腰に差していた剣でイノシシでも狩ろうかとも思ったが止めておいた。

既に時刻は朝飯時、家で待つ人間の性格を考えると、悠長にイノシシを探している時間などないのだ。


なのでノースが今歩いているのは見慣れた故郷の村の中だ。


肩を落として歩くノースに、向かいから歩いてくる一人の男が気づいて声をかけてくる。


「よう、どうした元気が無いじゃないか!? さてはお前、またピュセルちゃんと喧嘩してベソかいてるんだな!!」

「……よう酒場のおやっさん。相変わらず元気だけが取り柄だな。あと別にあいつとは喧嘩してねえよ、何年前の話してんだ」

「お前の嫁さんになる子だぞ、しっかり掴んで離すなよ!! じゃなきゃお前みたいな目つきの悪い奴、誰も貰ってくれないぞ!!」

「だからぁ……いや、もういい。誤解を解くのも面倒だ」

「はっはっは、なんだよく分からんがまた勝っちまったみたいだな!!」


酒場のおやっさんはいつも通りに人の話を聞いていない。

時々、体だけではなく頭まで筋肉が詰まってるんじゃないかと本気で疑う事がある。


「頼むから目の前の人間と会話する努力をしてくれ。あんたのとこの息子さん、真剣な顔で親父は魔物なんじゃないかって俺に相談してきたぜ」

「何!? 俺の愛息子がそんなことを!? 愛か、愛が足りなかったのか!! だが……今以上は無理だ、俺には最愛の嫁がいる……」

「そういうとこを治せば少なくとも人間扱いはしてくれると思うぞ」


父親扱いしてくれるかは知らないが。


「それで、おやっさんはこんな朝早くから外にでて何してるんだ」

「ん?? ああ、俺はあれだ。警備の交代の時間だからな。今は村に戦える奴がほとんどいないからな。しっかり見張らにゃならん」

「ああ……なるほどな」


原因はわからないが、最近になって森の中の動物や魔物が異常に興奮しているのだ。

中には錯乱して村に近づいてくるものまで現れ、事態が大事になる前に傭兵を雇って村の警護にあたってもらう事になったのだが……


「傭兵を呼ぶ為に貴重な戦力が出かけるんじゃ、安全確保になってるんだがわからないよな」

「町まで行く間に魔物が出て全滅したら元も子もないからな。それに一番腕の立つお前さんが残ってれば大丈夫だろ!!

「18の子供に期待している時点で間違ってるだろ!!」

「はっはっは、まあいざとなったら鍛え上げられた俺の肉体で……おっと。迎えが来たみたいだな。また今度な、ノース」


仲良くしろよ、と最後に告げるとおやっさんは村の入り口へと再び歩き出していった。


「おかえり、ノース。怪我はない?? 今は森が危険だから」

「ただいま。いつも通り五体満足、健康快調だよ」

「そう。よかった」


おやっさんの言っていた迎えとは背後から声をかけてきた少女のことだ。

金髪碧眼の小柄な少女は、穏やかな笑みを浮かべながらノースの横に並んで歩き始める。


「いつも思うんだが、どうして俺が帰ってくる時に丁度良く迎えに来れるんだ?? 日によって帰ってくる時間なんてバラバラなのに」

「ふふっ。女の子の勘、だよっ」

「それ、おばさんもこの前言ってたんだよなあ。子って歳じゃないだろって返したら鍋で叩かれたけどな」

「お母さん、ノースとお父さんに対しては容赦しないからね」

「ピュセルには甘いのになあ」


そうかなあ、と少女――ピュセルは首をかしげる。


狩りを終えた後、迎えに来たピュセルと家に帰るのもこれで何度目かわからない。

そのままいつも通りの他愛ない話を続けていく。


「それで、今日は何を獲ってきたの??」

「……………」

「えっ、どうして黙るの?? ……あっ」


ピュセルはノースの手に握られた袋を見て何かに気付いたような声をあげると、こちらを気遣わし気に見つめながら、


「だ、大丈夫だよノース!! 今は動物も警戒してるし一匹も獲れなくても仕方ないよ!!」

「これ、小さいけどウサギが一匹入ってるんですよ」

「あ、うん、その、えっと。……お疲れさま!!」

「やめてくれ、今はお前の優しさが辛い」


死んだ目をするノースの顔を、心配そうにピュセルが覗き込んでくる。

これ以上、幼馴染に負担をかけてはいけない。


気持ちを入れ替えて顔を上げる。


「弓じゃなくて剣ならもっと獲れてた!!」

「気持ち入れ替わってないよ」


その後も会話は続いていく。家に着いたのは話題が2、3回変わった頃だ。


「ただいま、ミロスおばさん」

「この……バカ息子!!」

「回避ぃ!!」


扉を開けると同時に飛んできた鍋を、咄嗟に避ける。

突然の攻撃に対処できた理由は、これが初めてではないからだ。


目の前に立つ金髪碧眼の――目が勝気な性格を物語るようにつり上がってることを除けば――ピュセルにそっくりな女性に抗議の声を上げる。


「血が繋がってないとはいえ、それが息子に対してすることか!!」

「バカ言ってんじゃないわよ。息子だからこそ厳しく躾するんじゃない」

「躾のレベルを超えてるから言ってるんだよ!!」

「いちいち口答えするんじゃない!! いいからさっさと座んなさい。朝ご飯にするわよ」


これ以上何かを言えば、次は包丁が飛んでくることを身をもって知っている。


仕方なく鍋を拾ってから席に着くと、隣に素知らぬ顔でピュセルが腰かける。


最後におばさんが座って三人が揃うと、いただきます、と言ってテーブルの上に既に並べられていた朝食に手を付けていく。


「ノース。今は危ないから森に行くなって注意したわよね」

「村が襲われたらすぐ戻れるような場所にしか行ってないって。それに危険がないか事前に調べるのだって重要だし」

「違うよノース。お母さんは今ノースが危ないことをしたから怒ってるんだよ」

「んっ??」


ピュセルが言っている意味がよく分からない。答えを乞うようにおばさんの方を見る


「あたしが怒っているのはあんたが村を守るはずなのに離れたことじゃない。息子が危険な森に行ったことを怒ってるの」


おばさんは相変わらず怒ったままだが、その声にはわずかに不安さが見え隠れする。


「たとえ親友の子供でも村で一番強くても、あたしにとってはただの手のかかる息子よ。何よりも自分と、それからピュセルの命を第一に考えて行動しなさい。余裕があれば村の子供達もね」

「おばさんたちの事は??」

「子供が大人の心配をするのなんて50年早い!! さあ、この話はこれでおしまい。ちゃっちゃと朝ご飯を食べて仕事するわよ!!」


そういったおばさんの声には既に不安さなど欠片も残っていなかった。



※※



朝食を食べ終え、家事や稽古などそれぞれの日課に戻り、気付けば既に夕暮れ時を迎えている。


村の片隅にある稽古場での鍛錬を終えたノースは、再び迎えに来たピュセルと一緒に座って休んでいる。


二人とも口を開いていないが、辺りには音が満ち溢れている。

音の発信源はピュセルの手の中にあるリラだ。

彼女の小さな手が絃に触れるたび、軽やかな音色が空気を震わせる。


昔からリラを弾くのが好きな奴ではあったが、ノースがこうして鍛錬をするようになってからは更に熱が入っている。

この時間に演奏をするのは日課になっており、一日も欠かしたことがないはずだ。


聞き惚れること数分、楽譜などない即興演奏を終えたピュセルはペコリと一礼をする。


「いつもご清聴ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして」


冗談めいたやり取りの後、どちらともなく笑みがこぼれる。


ピュセルが立ち上がり、背中と背中がくっつくように座り直す。


「ねえノース。やっぱり村から出ていくの??」

「どうしたんだいきなり」


背中合わせになった彼女の表情をこちらから伺うことは出来ない。

なぜ彼女はこんな事を聞いてくるのだろうか。


「ノース前に言ってたでしょ。ノースのお父さんとお母さんを探しに行きたいって。それにこうやって毎日、体を鍛えてるのも。村を守るためもあるけど、本当は冒険者になりたいからじゃないの??」

「あー……まあそうだな」


ピュセルが言っていることは間違っていない。ノースの両親は彼が小さいときに二人揃って村を旅立ってしまった。

息子のノースは母の親友のミロスおばさんに預けられ、今もこうして生活している。


なぜ二人が幼いノースを残して旅に出たのか。当時のミロスも疑問に思い、両親に訊ねたのだが返事はなかったという。


『だけどね、あの時の二人の目を見てあたしはわかったわ。あの目は自分の子どもを捨てる時の目なんかじゃない。優しい、悲しい目だったわ』


「おばさんが正しいなら、俺の親は俺のことを捨てたわけじゃない。なら探して、見つけ出して。それから……」

「それから??」

「……それからはわからないな。ぶん殴るかもしれないし、泣いて抱き合うかもしれない。とにかくその為にも、村を出て冒険者になる。それが俺の夢、だったんだが……」

「今朝のお母さんの話??」

「ああ。大人は守らなくていいってのはひとまず置いとくが。おばさんは俺がお前や、村の子供たちを守ることを期待している。それに俺自身だってそうしたいと思ってる」


それもノースの本心だった。ピュセルも村の子供たちも彼にとっては守るべき対象だし、ミロスに何を言われてもそこには大人たちも含まれる。

身寄りのない自分に対して親身に接してくれた彼らを見捨てることなどできない。


「それなら、生きているかもわからない両親より、村の皆を守って平穏に暮ら……痛いっ!! 耳がちぎれるほど伸びている気がする!!」


ピュセルは気付かないうちに背から離れていたらしく、今は耳を引っ張りながら上から顔を覗き込ませている。


息も触れそうなほどの距離に近づくのは幼いとき以来だ。

同年代の少女たちと比べやや幼さが残るものの、彼女容姿は間違いなく美少女に分類させられる。


今更になって見慣れた幼馴染のことを意識させられる。


そんな気持ちを知ってか知らずか、花のような笑みを浮かべながら彼女は話し出す。


「村の皆は守られようだなんて思ってないよ。確かに村で一番強いのはノースだけど、だからって守らなきゃいけないって決まってるわけじゃないもん。ノースが安心して村を出れるようにするのが傭兵さんたちを雇う理由でもあるってお父さんたち言ってたよ」

「おじさんがそんなことを……」

「それに、ね。ノ―スはどこにいたって私のこと守ってくれるでしょ??」


冗談めかしてはいるが、長い付き合いからノースには彼女が本心でそう思っているのだとわかる。


ならノースも真剣に応えなければいけない。


「当たり前だ。俺が守ってやらないとお前は危なっかしいからな」

「うん。お母さんが言いたかったのはきっとそういうことだよ」


ノースの返事を聞き、より一層ピュセルの笑みが濃くなる。


これ以上は赤くなる顔を抑えられない気がして、ピュセルから顔を離すために立ち上がった。


しかし黙っていれば緊張していたのがばれてしまう。

気を紛らわす為に何か話題を振らなければと、頭の中はフル回転で稼働中だ。


「しかし、なんでお前には悩みが筒抜けになるんだ。それも女の勘てやつか??」

「ううん、違うよ。今回は確信があったもん」

「なんでさ??」


質問に、長い髪を耳にかけながら嬉しそうにピュセルは答える。


「秘密っ!!」


その顔は夕焼けに染まる茜空よりも見事な赤色になっていた。

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