表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/94

48話 5日目:夕 【夫】アナ

【アダム視点】



 アダム伯爵は、死刑台で燃える第三王子を見ていた。

 炎に包まれて燃えていく王子。

 僕が燃やされるはずだった処刑台で。

 第三王子はよく燃えていた。

 

 まさか。

 僕がこうして誰かの処刑を見ることになるとは想像もしなかった。

 この数時間は何が何だか分からなかった。

 僕はもう終わった。

 人生に対して諦めていた。

 この世をさる準備が出来ていた。

 死を覚悟して受け入れていたというのに。


 あれよあれよと事態は急転し。

 いつのまにか僕の罪、第三王女殺しは消えていた。

 

 今。

 僕の罪は第三王子に移り。

 犯人として処刑されているのだ。




 まったく現実感の薄い感覚。

 どこか遠くの国の出来事の様だ。

 たとえ、この現実を事前に説明されても信じることは出来なかっただろう。

 

 僕はコロコロ変わる展開についていけなくなっていた。

 当事者のはずなのに・・・

 僕はただ・・・

 傍観者の様に燃える処刑台をみていた。

 


 




 気づくと、隣にはアナがいた。

 いつもの様に、隙のない服装をしている。

 公爵令嬢としての彼女だ。

 彼女は常に人前ではちゃんとしていた。

 決して気を抜かない。

 どんな時だってアナはアナだった。

 その姿に感嘆し、彼女の強さを感じた。


「奇麗に燃えていますね。夕暮れの空と炎がマッチしていますわ」

「・・・」


 アナはまるで奇麗な夕日でも見ているかのような表情だ。

 その表情からは、それ以上の事は読み取れない。

 本気で奇麗と思っているのかもしれない。

 第三王子が燃える姿を。


「アダム。よかったですね。誤解がとけて。罪は晴れたのです。

 私も信じていましたわ。あなたの無実を」


 何をいっている・・・

 この女。

 信じていただと・・・

 僕をさんざん嵌めて死刑にまで追い込んだのに。


 今では立場を180度変えて。

 涼しい顔で僕の無実を喜んでいるようだ。

 まったく信じられない。


「どうしたのですか、アダム?怪訝は表情をして。嬉しくないのですか?罪は晴れたのですよ」

「・・・とっても嬉しいよ。死刑は回避できたからね」


「よかった。あなたのために頑張ったのですよ。私」


 ニッコリと微笑むアナ。

 彼女の表情を見ていると、背筋が凍りそうな悪寒が走った。

 何を考えているのか全く分からない相手は怖い。


「アナ・・・何を企んでいる?」

「まぁ!何もやましい事は考えておりませんわ。心からアダムの事を喜んでいるのです」


「・・・」

「アダム、一度は愛し合った仲ではないですか。私達」


 彼女は僕の手を取ろうとしたが。

 僕はさっとかわした。

 彼女はやや微笑んで唇を尖らす。

 僕が恥ずかしがりや何かで、彼女はそれを包んでいるかのような表情。 


「アダム。実はお話しがあるのです。聞いてくださりますか?」

「そうだと思った。それでなんだ?また僕を死刑に送り込む気か?

 今度は誰を殺したって?国王陛下か?どこかの将軍か?」


 ふふっとおかしそうに笑うアナ。

 無邪気な笑い方だ。

 僕がおかしなことでもいったかのような態度。


「違いますよ。アダム。そんな事はしません」

「なら何だ?」


「私達、やり直しませんか。再び愛を育むのです。

 不幸なすれ違いで残念な結果になってしまいましたが、やり直しませんか?」

「・・・」


 !?

 言葉が出ないとはこの事だ。

 まさか・・・

 まさかまさか・・・

 僕を死刑に追い込んだアナが復縁を求めてくるとは・・・

 彼女は何を考えているんだ。

 一体・・・


「どうですか、アダム?」

「何を言っているかさっぱりだ。本気でいってるのか?」


「本気ですよ。私はアダムの罪を許します。

 一度裏切られて深く傷つきましたが、乗り越えられると信じています」

「・・・僕は・・・断る」


 「まぁ」っとため息をつくが。

 アナは微笑を絶やさない。

 初めから断られることを予想していたのかもしれない。

 


 思えば・・・

 彼女はいつも準備している。

 僕の一歩先をいっている。

 そんな彼女に僕は翻弄されてきた。

 常に僕より先が見えていたのかもしれない。

 僕が今回の様な目にあったのは必然だったのかもしれない。


 なぜなら。

 常に僕はアナに負け続けてきたのだから。

 僕はそもそもゲームが行われていることすら察知できなかった。

 ならば負けるのは当たり前だ。

 彼女はとびきりゲームが上手いのかもしれない。

 ここまで僕は何もできなかったのだから。


 そういえば・・・

 チェスでもカードゲームでも。

 彼女と本気でゲームをして勝った事は一度もなかった。

 どうでもいい勝負の場合は勝たせてくれるけど。

 大事な場面では、いつも何故か負けていた。


「実は、第四王子のティベリウス様からこんなお話しを貰っているのです」

「・・・・聞こうか」


「王族を不倫相手に選んだ罪は重い。王族を汚す行為です。

 しかし、国の失態で無実のアダムを死刑に追い込んでしまった事もある。

 そこで私、アナスタシアと復縁し。

 今回の死刑関連について、国に対して批判を一切行わないのであれば。

 伯爵から公爵に位をあげても良いと。

 どうですかアダム、悪い話ではないでしょう?」


 やはり・・・

 理由があったか。

 何も無いわけがないと思っていた。

 彼女はいつも何か考えているのだから。



「一つ分からない」

「なんですか?」


「どうしてアナと復縁しないといけない?」

「第四王子様は、今回のことで、貴族の評判が低下される事を危惧されているのです。

 民衆は力だけでは抑えられないのですよ。妙な教団もおりますし」


「・・・」

「私とアダムが復縁することで、皆様に暖かい風を届けるのです。

 今でも表向きは、私は夫の無実を信じている元妻。

 あなたは、間違いを犯してしまいましたが、妻を守るために直前になって離婚した夫です。

 私達が復縁するのは当たり前の話です。こんな良い夫婦が他にいるでしょうか?」


 ははっ・・・

 良い夫婦か。

 笑えるよ。

 アナにしては久しぶりに面白いことを言ったな。

 体から思わず力が抜ける。


 だけど。

 彼女は・・・

 又僕に操り人形、ピエロになれというのか。

 死刑で散々僕を振り回しておいて・・・

 

「仮面夫婦を演じたいのか?」

「違いますわ。私はこれでもアダムの事を想っているのです。

 もし、私との復縁に応じなければ、あなたは非常にまずい立場に追いやられます。

 第三王女様との不義の責任を取り、貴族爵位の取り上げ、禁固刑は確かでしょうね」


「僕を脅す気か?」

「アダムのためです。やり直しましょう。もう一度。

 それによく考えてください。アダムを誰よりも知っているのあたしですよ。

 だからこそ、今回の事を起こせたのです。あなたの考えを読めなければ、こんな事はできません」


「僕の考えを読めたのなら、死刑に送り込むマネはさけてほしかったね」

「アダム・・・人は過ちから学ぶのです。

 あなたも間違いを犯しましたが、私も間違いを犯したのです。

 これでおあいこですね。良い教訓になったでしょう」


 隣で微笑んでいるアナ。

 そんなアナに対して僕は。

 不思議と嫌悪感を抱かなかった。

 彼女が隣にいることが自然とさえ思えてきたのだ。








 僕はここ数日間。

 アナに対して実に様々な気持ちを抱いた。


 最初は、いきなり逮捕されたことで何がなんだか分からなかった。

 牢獄にいる僕を、献身的に支えてくれたアナには愛情を感じた。

 深く感謝した。

 彼女といっしょになれてどんなに良かったかと思った。

 確かに彼女に愛情を感じ、自分のした行為を深く恥じた。



 しかし、裁判で死刑においやられ。

 彼女の暗躍。

 僕に対する裏切りを知ってからは。

 彼女に対して抑え切れない怒り、憎しみを抱いた。


 

 でも。

 自分の死刑が近づくにつれ。

 その気持ちが薄れていった。



 よく。

 牢屋の中でアナのことを考えることがあった。

 怒りや憎しみといった気持ちは長続きしない。

 ただ怒っている。

 憎んでいるという状態は心地よくないから。

 長続きはしないのだ。


 それに不倫をしていた手前。

 彼女には負い目を感じている。 

 しかし。

 さすがに死刑に追いやられる程の罪でもないと思っている。

 



 今。

 僕がアナに対して何を思っているのか。

 自分でもよく分からない。

 認識できない。


 好き嫌いの問題ではない。

 そんな段階ではない。

 アナといて幸せを感じた事もあったけど、怒りを感じた事もあった。

 様々な感情を彼女に抱いた。

 彼女の事を考えると心が乱高下して落ち着かなかった。

 とても正常ではいられない。

 でも・・・

 それだけ僕にとっては刺激的な存在であるともいえる。




 牢獄で日がなぼーっとしていると。

 何の刺激のない生活を送っていると。

 特別な存在。

 刺激になる存在。

 アナの存在に寂しさを覚える事もあった。

 僕にとって彼女は間違いなく特別だった。



 ・・・




 認めたくはないけど。 

 決して認めたくはないけれど。

 

 僕にとっては、アナは必要な存在なのかもしれない。

 好き嫌い、怒りと憎しみを超えた存在なのかもしれない。

 ここまでの経験をすれば。

 彼女に対する想いは他の人とは違う。

 精神的な強い結びつきを感じる。 

 離れなれない引力のようなものを感じる。

 逃れられない力を感じる。 


 正直、アナには適わないと思うし。

 絶対に敵に回したくないと思った。

 同じようなゲームももう一度しても勝てないと思う。

 

 計画を実行し続ける精神的な強さと。

 心の読み合いでは絶対に勝てないと感じた。

 それらが女性に備わった強さなのか。

 アナ特有のものなのかは分からない。


 それに・・・

 彼女になら、翻弄されても仕方がないと思ってしまう。

 逆に彼女がいない生活に寂しさを覚えるのだと想う。

 お酒や薬物と同じようなものかもしれない。

 好き嫌いを超えて惹き付ける何かが彼女にはあった。

 いいや。

 今回の騒動で。

 僕にとって彼女は特別な存在になったのかもしれない。

 離れられない存在に。



 やはりアナは特別だった。









 アナが僕の手をゆっくりと取ったが。

 僕は今度はさけなかった。

 逆に軽くその手を握り返した。



 久しぶりに触れた彼女の手は。

 女性らしい小さく細い手で。

 なんともいえない感触だった。






「アダム。きっと決断してくれると思っていました」

 

 アナが笑顔で微笑む。

 その表情を見ていると。

 僕はほっと体から力が抜けた。

 妙な意地を捨てさったからかもしれない。

 心がちょっと軽くなった。

 彼女と一緒にいるのも悪くないと思えてきた。

 彼女になら、ゲームで負け続けてもいいと思ったのだ。

 

 色々取り払ってアナを見ると。

 かわいい顔をしていると思った。

 まるで出会った時を思い出す表情だった。

 心が洗われる。

 彼女は魅力的だと感じた。


「あぁ、君と復縁するよ」

「嬉しいです」





 僕はアナと再び夫婦関係に戻った。



 







 一度目にアナと結婚した時は。

 今思えば恋愛の熱に押されていた。

 彼女の事を深くは知らなかったのだと想う。



 でも、今回は違う。

 彼女の裏も表を知り尽くしての結婚。

 嫌なところも見たくないところも知っている。

 でも。

 それを受け入れられる。





 これでようやく。

 僕達は本物の夫婦になれたのかもしれない。

明日。

複数話投稿で完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拍手ボタン設置中。なろうユーザーでなくても、一言感想を送ることができます。

 

連載始めました↓
彼女が二股していたので、腰が砕ける程衝撃を受けた。

 

連載始めました。よろしくお願いします。↓
転生したら吸血鬼さんだった件~チートで世界最強です~

 

さくっと同時連載中。↓
もう、結構ですわっ!

 

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ