8話 0日目:夜 【王女】第三王女殺害事件(上)
題名の【】は視点になります。
【母】マリアンヌ夫人
【夫】アダム伯爵
【妻】アナスタシア公爵令嬢兼伯爵夫人
◆主要登場人物
・アナスタシア:25歳。アダム伯爵の妻であり公爵令嬢。甘やかされて育ったお嬢様。
・アダム :25歳。アナスタシアの夫。平民から成りあがった伯爵。母を大事にしている。
・マリアンヌ :49歳。アダム伯爵の母。夫は蒸発。一人で息子を育てたので愛情深い。貴族生活には慣れていない。
【第三王女視点】
夜の王都。
噴水広場。
夜の冷たい空気が満たし、空には星が輝いている。
月明かりが水面に反射し、夜の姿を反射している。
人気の無い噴水広場の石垣に一人の女性が腰掛けている。
その女性はきめ細かく化粧を施し、身なりもきっちりと着飾っている。
見るからに高価な装いをしており、その人物が平民ではない事が伺える。
きっと、貴族令嬢であろう。
彼女はこれから逢引でもするかのような雰囲気をまとっている。
そう、彼女こそ。
誰であろう。
第三王女である、セレステ・デ・レムニア。
彼女は、これから会う人物を事を考えると心が躍っていた。
心を高揚させながらも、これまでの事を思い出していた。
◇
私、セレステは王族の生活にどこか空虚なものを感じていた。
生まれた頃から王城で暮らしていた私にとって、豪華なパーティーや食事は当たり前だった。
毎日着飾り、たくさんのメイド達が私をかいがいしく世話をした。
一時期は他の王族と同じようにパーティーに明け暮れていた。
でも、小さな頃から出ているそれに特別な魅力は感じなかったのだ。
楽しくはあるのだけど、どこか空しくて、それでは満たされなかった。
そんなある日。私は出会ったのだ。 とある人物に。
あれは数ヶ月前、ちょうど18歳になった時だった。
きっかけは王城でのパーティーから抜け出し、バルコニーで風に当たっている時だった。
多くの人に取り囲まれ、その中で愛想笑いをするのに疲れていた。
そのために外に避難していた時だった。
「おやおや、セレステ様。こんなとこでどうしたのですか?」
声の主は私が苦手な男。
有力貴族の一人。歳はたしか20代前半。
名前は、ユーリ・デ・デュポン。候爵身分の男だ。
整った顔をしているためか、貴族令嬢達には人気の様だけど、私は彼の軽薄な態度に嫌悪感を抱いていた。
ユーリは酔っているようで、顔を赤らめ千鳥足でふらふらと私によってくる。
酒の匂いが風で流れてくる。
嫌な匂い。
でも、私はなんでもない顔をする。
社交儀礼だ。
「風に当たりたかったのです」
「そうですか、私も会場の熱気に押されましてね。ちょうど同じ気分でして」
ユーリはニヤリと笑う。
でもその視線に私は悪寒を覚えた。
いやらしい目で私を見ているのがまじまじと伝わってくるのだ。
ユーリが近づいてくるので、私はバルコニーから室内に戻ろうとするが。
さっと彼に手を取られる。
「どこ行くんだい?もう少し一緒にいようじゃないか?なぁ?」
「女性は自分と話したがる。それが当然」といった装いで、ユーリは私の手を取った。
私はその傲慢な態度とその目に浮かんだ欲望、雰囲気に恐怖を覚える。
「やめて、離して下さい。兵を呼びますよ」
だがユーリは酔っているようで、酒臭い息を私の顔に「はぁー」っと吐きかける。
「いいだろ。一緒にちょっと話をするだけだよ。君も僕と話したいんだろ」
「そんな事ありません!離して下さい!」
私が手を振り払おうとすると、ユーリが強く腕を握る。
私の腕に彼の指が食い込む。
「きゃっ、ちょっと、離してったら!」
「うるさい小娘だ。少々躾が必要なようだな」
ユーリが私にもう一方の手を伸ばそうとする。
私は恐怖に震えていた。
こんな事、初めての経験だから。
(だ、誰か・・・誰か助けて)
その願いが届いたのか、一つの声が響く。
「おい貴様!何をやっている!」
突然現れた男が、私の腕を掴んでいた野蛮な男、ユーリを押しのける。
「貴様!何をやっている。王城で第三王女様に。気は確かか?」
見知らぬ男は、ユーリを睨みつける。
ユーリはその言葉で正気を取り戻したのか、急にはっとした顔をして、表情を改める。
酔いがさめたのかもしれない。
「わ、私は別に・・・セレステ様と楽しくお話していただけだ。
だいたい、君こそなんだ。私はユーリ侯爵だぞ。無礼ではないか」
「わざわざ自己紹介どうも。
だがそんな身分で、自分の醜い欲望を叶えるために第三王女様に襲い掛かるとは」
「わ、私は、そんな事は断じてしていない。
勝手な推測を述べるな。楽しく話していただけだと言っただろ」
ユーリは奥歯をかみ締めながら反論している。
だが、見知らぬ男は余裕の表情だ。
「本当かな?第三王女様は随分嫌がっていたようだが。
とても友好的な話し合いには見えなかったが」
「それは・・・女性とはそういうものだ。
嫌がりながらも、心では満足してるんだ」
ユーリは拳を握り締めている。
「と、ユーリ侯爵は言うわけだが、セレステ様、どうなのですか?」
見知らぬ男が私に語りかける。
急に離しかえられたので、私は一瞬間抜けな顔をしてしまう。
でも、直ぐに私が口を開こうとした瞬間。
先にユーリが答えたのだ。私が答える前に。
「私は忙しいので、これにて失礼する。
セレステ様。先程の件は決してやましい気持ちはございません。
では、お誕生日おめでとうございます。
当家からは素敵なドレスをお送りしていますので、是非後程ご覧下さい」
ユーリ侯爵は礼儀正しく挨拶してその場を離れていった。
自分がまずい状況にいるのが分かったのだろう。
見知らぬ男は私に向き直る。
「聞いたか、あの男。
君を襲おうとして、やましい気持ちはない。
おまけに誕生日を祝って帰って言ったぞ。
まるで何事もなかったように。一体どんな頭してるんだ。
これだから貴族は」
男はからかう様に話す。
私は緊張感が急に解けてしまったこともあり、脱力してフフっと笑ってしまう。
「とっても愉快な頭をしてるんでしょうね」
彼は緩んだ表情の私を見る。
黒い髪と鋭い目元が私を捉える。
その視線に私はドキッとしてしまう。
「君も君だ。
警備も就けずにこんな所に一人で。
もっと自分の事を気にかけるんだ」
「わ、私は、その・・・」
助けてもらった事は嬉しかったが、彼の態度が気に食わなかった。
私は第三王女よ。
そんな私に向かって無礼な態度をとるなんて。
「私はいいのです。風に当たりたかったのですから。
私がそう思えば、そうするのです。
あなたに言われる筋合いはありません。
そう、一人になりにここにきたのですから。
あなたもすぐに去ってくれませんか。私の庭から」
彼は私を驚いたように見つめている。
私は王女だからか、酔ってくる貴族男性は多い。
私と結婚すれば王族になれるからだ。
仲良くなるだけでも、利する所が多いと思っているのだろう。
だから、そのような人たちをあしらうのにも慣れていた。
いつもの方法を思い出したのだ。
強く、はっきりと突き放すのに限る。
そうしないと勘違いしてずっとつきまとわられる。
目の前の彼、名前は知らない彼も、きっと私にとりいるために助けたに違いない。
「セレステ様。虚言もそこまでにして頂きたい。
簡単に言うと、そうですね。
ばかいってるんじゃね!」
私はその言葉にポカンとしてしまう。
今、馬鹿?馬鹿と言った。
第三王女ではあるこの私に向かって。
信じられない。
そんな事、めんと向かって言うなんて。
「あなた、今、私に「馬鹿」といいましたか?馬鹿と」
「あぁ、そうだ。聞こえていて幸いだ。君は大馬鹿だ」
彼はもう一度私を侮辱した。
カチンときた。
だいたい、私はこの人の名前すら知らないのに。
なんて人!
「あ、あなた・・・なによ、いきなり。
それより、あなたは誰よ?
私は知らないわよ。
今日は私の誕生日パーティーよ。
その私に向かって馬鹿なんてよく言えたわね」
「おっと、一応あなたから招待状は頂いているのですがね。
きっと召使がやっていて覚えていないのでしょう。
私は、○○○です」
私はその名を聞いて思い出した。
確かにその名の人物は知っているが、会った事はなかったのだ。
「そうですか。では、私を大いに侮辱なさってくれた○○○さん。
私は風に当たりたいのです。
そうそうに立ち去って頂きますか。
助けていただいたことに感謝はしていますが、私はここに一人になりにきたのですから」
私は彼の目を見てはっきり言う。
吸い込まれそうな瞳をしているけど、きっぱりと。
私は誘惑には負けないんだから。
でも彼は動こうとせず、フっと笑う。
「そうですか。私と同じですね。
私も貴族同士のやりとりに飽き飽きしてここにきたのです。
勿論、一人になり。
お互い一人になれそうにはありませんが」
「いいえ、私はなれますわよ。
あなたがここから離れてくだされば。今すぐにね」
私は目線を室内への入り口に動かし「さぁ、立ち去りなさい」と目で合図する。
だが彼は、私の視線を見て笑うだけだ。
「悪いですね。お嬢さん。
あいにく私はあなたに媚へつらう気はないのでね。
あなたがここから離れてもらいたい」
「え?」
私は彼の反応に驚いた。
今まで私にこんな反応をしてきた人はいなかった。
「あなた、私が誰だか分かってるの。私は第三王女よ。
この王城は私の家みたいなものよ。
その私に出て行けっていうの?」
「そうです。今はパーティーのために開放されています。
ですから厳密にはあなたの場所ではありません。
それに王城は国のものです。王族のものではありませんよ」
私は、ムカッとした。
「へりくついわないで。
あなた、今日は私の誕生日を祝いにきたんでしょ。
それなら、ちゃんと私を喜ばせなさいよ。
もっと気の効いた事いって褒めなさいよ」」
つい、無意識に言ってしまった。
「そうですね。
確かにあなたの言うとおりです。
お誕生日おめでとうございます。セレステ様。
随分大人になられたようですね」
嫌味ったらしいその言葉に私はプイッと顔を背ける。
「全然誠意を感じないわ!
ほんの1mもよ!少しも感じないわ!」
「これでも気持ちは込めていつもりですよ」
その言い方に私の心はさざ波をうった。
「私は感じないの!私が言ってるんだからそうなの!」
「おやおや、それではそろそろ戻ります。
あの男ではありませんが、当家も誕生日祝いを贈っていますので、是非ご覧下さい」
「ええ、ありがと。とても嬉しいわ。
さぞ素晴らしいプレゼントなのでしょうね。
あなたは私の事を祝ってくれているようだから」
私は全然「ありがたくない風」に言ってやった。
彼は、そんな私を見てまた笑っていた。
「それはよかったです」
「よくないわよ!」っと言い返しそうになったけど。
それをいうのはやめた。
またどうせ笑われるだけだと思ったので。
その代わりに。
私は彼を無視してやった。
「おやおや、お怒りのようだ。
では、私は体が冷えてきたので室内に戻ります。
まだ挨拶回りがすんでいない貴族の方がいましてね。
では、ごきげんよう」
そうして彼は去っていった。
その後、私は今のことを思い返しながら月を見ていた。
一体、今日はなんだったんだろう。
変な人たち。
でも、私は彼の事が気になっていた。
勿論野蛮ユーリではなく、私を彼から助けてから罵倒した男のほうだ。
誕生日祝いをくれたって言ってたけど、何をくれたんだろう?
早くメイド達に聞いて確認したいな。
でも、それは明日になるまでできないだろうな。
プレゼントが多すぎて、整理しないといけないから。
それに目録もつけて、どの家が何をくれたかメモしてから、お礼状も書かないのといけない。
ほとんどの事はメイド達がやってくれるけど、私も一言書かないと。
そうするのが礼儀だから。
私は、あの男にどんな言葉を書いてやろうか色々想像した。
とんでもなく失礼な言葉をいくつか頭の中に浮かべた。
でも、急に体が冷えてきたので、室内に戻ることにした。




