45話 5日目:昼 【第三王子】来る人
私の前に現れた我が弟、第四王子ティべリウス。
「何故お前がここにいる?自分の国はどうしたのだ?」
「そんなに驚かないで下さい。クラウディウス兄様」
「だが・・・なぜここに?」
「セレステ姉様が死んだのです。
顔を出すのは弟として当然の義務です」
「しかし・・・そんな連絡は受けておらぬ」
「連絡ミスがあったのかもしれませんね。
王城もセレステ姉様の事件で忙しかったのでは」
「そうだとしても、一体いつこの国に?」
「つい先日ですよ」
「そうか・・・連絡さえ受けていればきちんともてなしたのだが」
「いいえ、大丈夫です。
昨日アナスタシア公爵令嬢に歓迎を受けましたので」
あの女・・・
私は公爵令嬢を睨むが、彼女は涼しい顔だ。
これまで強気だったのはこのためだったのか。
後ろにティベリウスがいるからこそあの態度。
「それは良かった。
では、ティベリウスも慰霊祭を見学していくか。
ちょうど死刑をするところなのだ。盛大に燃やすつもりだ」
私はティベリウスをバルコニーに案内しようとするが。
彼は不適に微笑む。
「兄上、それはおかしいのではないですか?」
「何?」
「ご自分でセレステ姉様を殺したのです。
アダム伯爵は無実でしょう」
「違う。ティベリウス。
こやつらの言う事を信じるな。全て嘘に決まっておろう」
「兄上、誠に残念ですが、私には真実に聞こえます」
「お、おい。お前まで勘違いするな。
まさか、そこの二人の女の戯言を信じたというのか?」
「兄上。戯言ではありません。
血のついたシーツに、腕の傷はどう説明するのですか?」
「それは・・違う。全部作り話に決まっておろう。
血など入手できるし、腕の傷だって・・・そうだ、グラスを落とした時に傷を負ったのだ」
ティベリウスは落ち着いた表情で私を見る。
その顔からは何も考えが読めない。
思えばいつだってそうだ。
ティベリウスは子供の頃から感情を表に出す事が少なかった。
「クラウディウス兄上」
「なんだ、信じてくれるのか?」
「兄上はいつもそうでしたね」
「そうだ、私は真実をいっている」
「小さい頃からそうでした。
覚えていますか?兄上が窓ガラスを割った日の事を」
「今、そんな昔の話をしている場合では・・・」
私は困惑するが、ティベリウスは気にせず話を続ける。
「兄上は自分で割ったのに、嘘をいって使用人のせいにしていましたね」
「一体何を・・・」
そんな昔話を今しなくとも。
私はじわりじわりと心がせいてくる。
「あの時も、今の様に右手の小指を曲げていました」
「はぁ!」
さっと自分の右手を確認すると、ティベリウスの言う通りだった。
すぐに手を握って開く。
焦りを隠す様に手を開閉する。
「クラウディウス兄様は、嘘をつく時必ずそうするのです。
その癖は直っていないようですね」
「馬鹿な・・・そんな事・・・」
例えそれが真実だとしても何になる。
私の癖がどうしたというのだ。
一体なんの証拠になる。
「それと、アナスタシア公爵令嬢」
「なんですの?」
「あなたは何故兄上が姉上を殺したか聞いていましたね?」
「はい」
「その理由は簡単なのでは」
「あら、何でしょうか?」
ティベリウスは何を言う気だ。
「兄上は姉上が好きだったのですよ。
昔からそうでしたからね。兄上がセレステ姉様を想う気持ちはずば抜けていました。
姉上が他の男と関係しているとなれば、気が気でなかったのでしょう」
「まぁ!やはりそうなのでしたか」
「嫉妬とは怖いものです」
「そうですわね」
知ったような口を・・・
私とセレステの関係はそのような単純なものではない。
決して嫉妬などという俗物感情ではないのだ。
常任に想像もつかない深い愛で結ばれていたのだ。
「ティベリウス・・・貴様。
ありもしない事を・・・のうのうと。
一体何をしにここに来たのだ!私の国に!」
そうだ。
ここは私の国であって、私が治める国なのだ。
いくら弟とはいえ、総督であるこの私に向って・・・・
「兄上。王族殺しの罪は王族にも適応されるのですよ。
勿論ご存知ですね」
「ま、待て、まさか・・・待て、私はこの国の総督だぞ」
「誠に残念です。しかし兄上には罪を償ってもらわなければなりません」
「馬鹿を言うな!
ここは私の国で、誰が私を罰するというのだ」
「王族の罪は同じ王族の者が処罰するのです。
見たところ・・・生憎この場には私しかいないようなので・・・私ですかね」
「お前、実の兄に対して・・・」
「残念です、姉上を亡くしたばかりですのに。
兄上までこうも不幸に見舞われるとは」
「よせ、やめろ。私をお前の兄なのだぞ。
家族でいがみ合う事など・・・」
「衛生兵。兄上を捕らえてください」
ティベリウスの言葉で一斉に騎士達が動き出し、私の身柄を押さえる。
先程の私は命令は無視されたというのに。
今は即座に動いた。
おかしいではないか!
ここは私の国なのだぞ!
彼らは私の僕なのだぞ!
「やめろ!よせ!愚か者!
私の国の騎士だろ。なぜティベリウスの指示に従う」
「兄上。既にあなたに権限はありません。
姉上を殺した事が分かった時点で兄上は罪人です」
「だからといって!彼らが今来たお前に従う道理などないではないか」
「兄上、その様子では少しも気づいていなかったようですね」
「何がだ?私に見落としなど・・・まさか!」
私の脳裏を駆け巡る一つの答え。
「事前に話はついていたのですよ。
もう少し部下の様子を見守った方が宜しいのでは。
ですよね、アナスタシア公爵令嬢」
「そうですわね。
第三王子様は少々視界が狭いのかもしれません」
「それに・・・」
ティベリウスはニアを見ると、彼は申し訳なさそうに頷く。
まさか・・・
ニアが私を裏切っていたなんて。
だが、いつだ?いつから奴と通じていた?
ニアの様子がどこか違うのは気づいていた。
しかしそれ程心配していなかった。
てっきり、ここ最近の出来事で私の方が疲れているためだと思っていたのだ。
おのれティベリウス!
弟の分際で私の国を、私のニアに踏み入りおって!
「貴様ら。私にこんな事をしていいと思っているのか!
ティベリウス、お前もだ!
私の国を乗っ取るような事をして・・・
国王陛下、お父様が許されると思っているのか!」
きっと国王陛下は許されないはずだ。
王族同士でこのような事。
帝国の規律が乱れる原因になろう。
「陛下には私の方から説明しておきますのでご心配なく。
兄上はゆっくりとあの世でセレステ姉様にお会い下さい」
「貴様・・・私をはめて良い気分か。
こんな事をすれば、他の王族だって黙ってはいないぞ」
「私を心配してくださり感謝致します。
ですが一つ勘違いをしていますね。私は嬉しくなどありません。
深く嘆き悲しんでいるところです」
飄々としおって。
ティベリウスはいつも何を考えているか分からないところがあったが。
その事が恨めしい。
「覚えていろ!ティベリウス。
必ずこの復讐は行うからな。私にこんな仕打ちをしてただで済むと思うな」
「兄上・・・。残念ながら、それは難しいかと・・・」
「?」
どういうことだ?私を侮っているのか。
この国から追い出されたとしても、必ず復帰の機会は来るはずだ。
何かしらの罰を受けたとしても、時間は十分にあるはず。
「衛生兵、兄上に頭巾をかぶせ死刑台に。
アダム伯爵の死刑台がありますので、それを拝借しましょう」
「ば、馬鹿な・・・。ティベリウス。
今すぐ私を処刑する気か?」
そんな事が出来るはずが・・・
国王陛下の許可もなしに出来るはずが無い。
「はい。折角ですので兄上が用意されたものを使わせて頂きます」
「やめろ、そんなこと・・・いいわけがない」
「この国に来て初めての私の仕事が、まさか兄様の死刑になりますとは。
感慨深いですね」
「よせ。私は王族だ。それを見世物のように・・・。
権威はどうなる。王族の威光は」
「心配ご無用です。盛大に炎をもってみせましょう。
さぞ民衆は兄上に威厳を見出す事になるでしょう」
「今日はセレステの慰霊祭なのだぞ。そんな日に・・・」
「集まった市民は死刑を望んでいるのでは?
確かついさっき兄様が言っていたと思いますが」
ぐぬぬ。屁理屈を。
「頼む。ティベリウス。
私はお前の兄だぞ。兄弟で殺し合いなどしてはいけない」
ティベリウスは可笑しそうに笑う。
「兄上。その言葉をあなたが言うのですか。
セレステ姉様を殺す前に考えてほしかったですね」
「待て、おい。待ってくれ。
分かった。分かったから」
「何がですか。兄上?」
「私はお前を恨んでなどいない。
二人で協力してこの国を治めていこうではないか。
兄弟は手を取り合うものであろう?」
「そうできるといいですね」
「クラウディウス。では・・・私と手を取り合って」
「いいえ。少し遅かったようです」
「なっ!」
「衛生兵、兄様に頭巾を。口も塞ぐように」
私の口に布がつめこまれ。
頭に黒い袋がかぶせられ視界は塞がれる。
私は首を振って、声を出して抵抗しようとするが。
「んんん、んんん」
(おい、やめろ。貴様ら離せ)
口の中に布が詰め込まれているためか、声にならない。
「罪人を死刑台に」
私の体は持ち上げられ、自由を奪われる。
暗闇の中を運ばれる。
風と民衆のざわめきが聞こえる。
どうやら建物の外にでたようだ。
乱暴に扱われ。
気づくと背中を台に押し付けられ、鎖で手と足を固定された。
私は悟った。
たった今、死刑台に磔にされたのだと。




