43話 5日目:昼 【第三王子】ニア
【続・クラウディウス視点】
「二ア。どうした?君はなぜそんな事を言うのだ?」
愛らしい顔をしている美少年従者ニア。
私は彼に問いかける。
先程の発言は嘘だと自分から言って欲しかったのだ。
厚顔無恥な公爵令嬢と可笑しな夫人はともかく。
二アだけは信じたかったのだ。
私とニアの絆は本物だと。
だがそんな私の期待に彼は答えてくれない。
「皆様、私が言った事は本当です」
「なぁっ!」
「第三王子様は、公爵令嬢と夫人の暗殺を命じたのです。
私が率いた暗殺者の集団は既に捉えられています」
「おい!」
さらに追い討ちをかけてくる。
「しかも、これは二度目なのです!」
「二ア、さっきから何を言っているのだ。
どうしてそんな事を言う?ニア、こっちを見るんだ。
私の目を見て話せ」
私の訴えも虚しく、彼は私と目を合わそうとしない。
プイッと顔を背けて視線をそらすのだ。
彼に拒絶の態度をとられて落ち込む。
これまではずっと私に従ってきてくれていたのに。
どうしてなんだ・・・二ア・・・
君だけは私の味方だと思っていたのに。
「あらあら、まぁ。第三王子様、お辛そうですわ」
目元を緩めてにやついている公爵令嬢。
このクソ女が。
今の私の状況を楽しんでいるのがありありと伝わってくる。
「あなたのなんでした・・・
えっと、そうですわ。そうそう、『一番』の従者が言っているのですよ」
「・・・」
わざとらしく一番を強調する公爵令嬢。
二アは私と目を合わそうとはしない。
私が顔を動かしても無視される。
「第三王子様。私、とっても怖いですわ。
命を狙われていたなんて。心臓が止まりそうです」
ふらっと貧血気味にふらつく公爵令嬢。
だが、メイドに体を支えられる彼女。
「アナスタシア様。お体は大丈夫でしょうか?」
「ええ、カミラ、ありがとう」
「どこか悪いのでしょうか?」
「いいえ。昨晩の、その・・・暗殺の恐怖のせいだと思うわ」
「立派でございます。アナスタシア様。
目の前に暗殺犯がいますのに、その堂々としたお姿」
「いいのよ。カミラ。恐怖に負けてはいけません」
「さすがアナスタシア様」
「それに私だけでなく、お母様も暗殺者の恐怖を乗り越えたのです」
「ありがとう、アナスタシア」
「いいえ、お母様こそ」
「さすがアナスタシア様」
励ましあう彼女達。
その姿を見て私は首の裏がジンジンと刺激された。
なんだこの茶番は。
こいつら、よってたかってふざけた事を・・・
第一、公爵令嬢が恐怖に震える事などあるわけがない。
それならこの場に現れるはずがなかろう。
これまでの態度を見るだけでも、相当神経が図太いのが分かる。
彼女達は思い出したように、一斉にこちらを見る。
「第三王子様。何故私とお母様を暗殺などしようとしたのですか?」
「そうです。第三王子様。理由をお教え下さい」
白々しいその姿。
だが今はそんな事よりも、どうにかして暗殺疑惑を逸らさなければ。
二アの証言があるからといって焦る事は無い。
この場さえ乗り越えればどうにかなるはずだ。
後でゆっくりと対応方法を考えればよいのだ。
とにかくシラを切り通すのみ。
「私は何の事だか分からない」
「まぁ!」
大げさに口に手を当てる公爵令嬢。
「ニアは確かに私の従者だが、きっと錯乱してるのではないか」
「ご自身の従者を疑うなんて・・・なんてあさましい」
「私は疑うのではなく、ニアを心配しているのです」
「見損ないましたわ」
私は公爵令嬢から視線を外し、ニアを見る。
「二ア?なんとか言ってくれないか?
君が発言を取り消してくれれば、直ぐにこの問題は解決すると思うのだが」
ニアの顔を良く見ようとするが・・・
あろう事か、公爵令嬢が私とニアの視線の間に入ってきた。
なんという事!
許せん!
視界が一瞬で穢れた。
ニアを見る目で公爵令嬢を見てしまったのだ。
ニアと公爵令嬢の差異に吐き気がこみ上げてくる。
見た目は美しい公爵令嬢だが、内面のドス黒さがありありと見えたのだ。
胸のムカムカを抑えながらも、彼女の後ろに隠れているニアの断片を見逃さなかった。
彼の白い髪がふわっと揺れたのだ。
「二ア・・・」
彼の名前だけが虚しく口から出る。
きっと何か理由があるのだろう。
魔女の様な公爵令嬢に何かされたのかもしれない。
いいや、そうに決まっているだろう。
ニア自身は私を裏切っていないはずだ。
「第三王子様。暗殺をお認めにならないのですか?」
視界を汚す女の声。
「認めるも何も、一体なんのことやら」
「まぁ!とぼけるおつもりですか」
「いいえ、そもそも私にはお二人を殺す動機が無いのですから」
「まさか・・・私のお話しが嘘だと。そう言いたいのですか?」
「違います。教団の屋敷が燃えたと聞いています。
ですので、私ではない誰かの犯行なのでは?」
「お聞きになりました?お母様。皆様。
第三王子様は、自分の従者が自白したのにお認めにならないのです。
暗殺者が捕まっているというのに」
「第三王子様。息子に罪を擦り付けないで下さい。お願いします」
「違う。私は暗殺に関与などしてはいない」
言い切るしかない。
この場はこれで乗り切る。
「でしたら第三王子様。
右腕をまくって見せてくれませんか?」
右腕?
なぜそんな場所を見たい?
とっさに自分の右腕に触れると、とある事を思い出す。
相手の狙いが分かったのだ。
まずい・・
この腕を見せてはならない。
「理由をお聞きしましょうか?」
「お母様は見たのです」
「何をですかな?」
「セレステ様を殺す際に、第三王子様が自分の腕にナイフで傷をつけるところです」
やはり知っていたか・・・
「またしても、そのような虚言を・・・いい加減にしてもらいたい!」
「もし何も無ければ犯人でないと証明できます」
「私はそもそも証明する必要など・・・」
「これは第三王子様にとっても良い事では?」
周りの貴族の視線が私の右腕に集まる。
だが私は服の袖を強く握る。
絶対に腕を見せる事は出来ない。
腕にある傷を見られれば・・・ますます私の容疑が強まってしまう。
「私は人前で皮膚をさらす気は無い」
「第三王子様。見せられないのですか・・・残念です。
犯人ではないと思いたかったのですが」
戯言を・・・
少しも悔いていないだろうに。
「違う。勘違いするな。
私は人前で皮膚をさらす気が無いというだけだ」
「それでしたら、どなたかに確認してもらえば宜しいのでは?」
ぐぬぬ。
「一人か二人、私がお選びしましょうか?」
「結構」
「それでしたら。
第三王子様、自らお選びになっても構いませんよ」
「・・・・」
歯軋りをしながら周囲を伺うと、皆、私と視線を合わせないように目をそらす。
もし確認係りに選ばれ、私の腕に傷があった場合の事を懸念しているのだろう。
なんていえばいいのかと。
見たまま傷があると言ったら、確実に私の不興を買う。
あるものを無いと言ってしまえば、公爵令嬢に追及されるだろう。
だが、彼らを観察して部屋を見回していると。
部屋の入り口が混雑している事に気づく。
どうやらこの部屋でのやりとりが長引いたためか。
慰霊祭の行事が遅延しているようだ。
その人ごみの中にとある人物を発見する。
彼の姿を捉えた私は自然と頬が緩む。
頭に良い考えが浮かんだのだ。
これまで抱いていた混沌とした気持ちが吹き飛んだ。
やはり今日は良き日のようだ。
セレステが私の事を見守ってくれているのかもしれない。
私は公爵令嬢を見てニヤリと笑った後。
この場に呼び寄せるために、入り口で待機していた人物に向けて手の伸ばす。
「皆様。お話の途中で残念ですが
どうやら話を終えなければならないようです」
「一体何を・・・」
怪訝そうな表情をし、部屋の入り口を見る公爵令嬢。
彼女の顔がぱっと変化する。
「皆様、セレステ殺しの犯人、アダム伯爵が到着しました」




