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42話 5日目:昼 【第三王子】夫人の記憶

【続・クラウディウス視点】



 マリアンヌ夫人がセレステを殺す私を見ていただと・・・


 そんな馬鹿な・・・

 一体、どこにこの女がいたというのだ・・・

 あの場所にこの女はいなかったはず。


「夫人。公爵令嬢にもいいましたが。

 嘘を言うとどうなるか分かっていますね?」


「はい。しかし第三王子様。これは本当の事なのです」

「なら、なぜ審問で黙っていたのですか?

 息子さんの無罪を信じているようでしたが」


「昨日やっと思い出したのです。

 恥ずかしながら、私は記憶を失う事があるのです。

 しかし幸運にも恵まれたようです」


 とんだ幸運だ。


「何か証拠はあるのですか?」

「勿論です。

 私の記憶を裏付ける証拠も残っています」


 教団から夫人の血の服は回収したはず。

 なら、なんだ・・・


「こちらです」


 公爵令嬢のメイドが袋から赤く染まったシーツを取り出す。


 まさか、服の他にもあったのか・・・

 もっと詳しく調べておくべきだった。


「第三王女様の血がついたものです。

 私はあの晩、第三王女様が殺された現場にいたのです」


「夫人、大概にして頂きたい!

 よくもまぁ、そのような作り話を!」


 私は大声で夫人を威圧するが、彼女は引き下がらない。

 逆に手をギュッと握り締める。


「本当です。その際に彼女の血と、犯人の血が体につきました。

 それが家に帰ってベッドのシーツにもついたのです」


「馬鹿な。荒唐無稽な話だ!

 犯人の血がつく程近くにいたのなら、なぜ夫人は無事なのだ。

 おかしいではないか!」


「理由があります。

 私はあの晩、第三王子様と第三王女様の下にいたのです」

「下・・・だと」


 どっと体から力抜ける。

 予想外の言葉が飛んできたのだ。

 

「はい。下です」

「どこにいたというのだ。噴水広場の下など・・・」


 私は記憶を思い出す。

 噴水広場の地形を。

 上流から水が流れ込み、広場に設けられた噴水で水が溜まっている場所を。



 下。


 下。


 下。


 

 となると・・・


 まさか・・・

 

「夫人。道路の下の水路、溝の中にでもいたというのか?」


 半ば突拍子も無い思いつきだった。

 ただの思いつきで真面目な質問ではない。


 しかしマリアンヌ夫人は神妙な顔でコクリと頷く。


「はい。恥ずかしながら・・・

 私はあの晩、溝に入って星を見ていたのです」


 んな馬鹿な!

 そんな事があってたまるか。

 大きな子供を持つ、妙齢の貴族であるはずの女性が何故そんなところにいるのだ。

 ありえない。

 そんな事がありえるわけがない。

 子供でもそのような事はしないはずだ。


「夫人、本気で言っているのですか?」


 夫人は羞恥心で頬を染めながら。


「・・・はい」

「・・・・」


 彼女は本気のようだ。

 全くふざけた女だ。

 さすが、私の妹をたぶらかしたアダム伯爵の母親といったところか。


 公爵令嬢といい、夫人といい。

 次から次へと荒唐無稽な話を・・・


「マリアンヌ夫人。私は分かりません。

 この場にいる他の皆さんも分からないでしょう」

「・・・はい」


「何故、そのような場所にいたのですか?

 普通の人は、溝に入って天体観測はしないでしょう?」


「その・・・お恥ずかしい限りです。私は・・・あの晩酔っていたのです」

「しかし・・・」


「何かの拍子で噴水の中に落ちてしまったのです。

 気づくと水で流されたのか、水路で寝転んでいたのです」


「いえ・・・」

「ですので、犯人には見つかりませんでした」


 夫人の告白に周りの貴族は言葉がないようだ。

 50歳を超えた貴族夫人が、道路の下。

 やっと人が通れるような狭い水路の中で寝そべっていたのだ。


 皆口をあけてポカンと夫人を見つめている。

 

 公爵令嬢と夫人が生きていたこと。

 私がセレステ殺しで疑われていることよりも、衝撃の度合いは大きかったのかもしれない。


 全くふざけた話だ。


「おかしなことを・・・そんな話・・

 そんなたわごとを信じられるわけが無かろう!」

 

 大体あの溝に人が入れるのか?


「万が一そうだとしても、犯人など見えるわけがない。

 酔っていたなら尚更だ!」


「水路の水で頭が冴えていたからでしょうか。

 下からですと、星明りでよくお顔が見えたのです」

「馬鹿な・・・そんなことが・・・」


「それにお二人のお声も」

「虚言を吐きおって!

 そもそも溝に入るような者の証言など・・・信用できるか!」


「第三王子様」


 公爵令嬢が割り込んでくる。


「証拠のシーツには第三王女様の血と犯人の血がついています。

 調べたところ、もう一つは第三王子のものでした。

 皆さんの前で調べてもらっても構いませんよ」


 くっ。

 面倒なところで割り込んできおって。

 いまいましい。

 

 目の前には、悠然と微笑む公爵令嬢と。

 羞恥心のためか、今にも消えてなくなりそうなマリアンヌ夫人。


 周りの貴族を伺うと、どうやら話を信じているようにも思える。

 極めてまずい状況だ。

 この場ではまるで私が犯人の様なありさまだ。


「ええい。この二人の話は出鱈目だ!

 証拠も信じられん。例え私の血が出てこようと、どうやってか作ったのだ。

 そうに決まっておる!」


 だが、目の前の二人は全くたじろがない。


「第三王子様。なぜ、セレステ様を殺したのですか?」


 公爵令嬢が同じセリフを私にぶつける。

 彼女の微笑が私の気に障る。


「黙らんか!」


「いいえ。失礼ながらそれは無理でございます」


 全く誠意がこもっていない言葉を吐きおって。


「私は殺してなどいない」


 ニヤリと微笑む公爵令嬢。


「それでは質問を変えましょう。

 何故、私とお母様も殺そうとしたのですか?」


 彼女は全く私の権威におびえていない。

 王族たる私にこのようなふざけた態度を・・・

 何故、そこまで強く出られる。


「今は関係ないであろう。

 暗殺とやらの証拠でもあるのか?」


「はい。勿論です」


 公爵令嬢がニアをチラリと見ると。

 彼が私の元ではなく、彼女の元に近寄り。


「第三王子様。こちらの者をご存知ですね?」

「あたりまえだ。私の従者のニアだ。それがどうした?」


「彼はあなたの従者なのですね?」

「そうだ。私の一番のな」


「彼はこの場で告げたい事があるようです」


 んん?

 二アが・・・だと。


 何だ?

 何を言いたいのだ?


 それより何故、その事を公爵令嬢が知っているのだ。

 おかしいではないか。 

 二アは私の従者だぞ。


「二ア。どうした?

 急用でなければ、この場ではなくとも良いと思うが」


 彼は柔らかそうな白髪をいふわっと揺らし、僅かに頭を振る。


「いいえ。クラウディウス様。

 今、言わなければならないのです。この場でなければいけないのです」


 何やら決意は固そうだ。

 それにいつもと雰囲気が違うような・・・

 

 前にも同じように思った気が。

 いつからだろうか?そう感じているのは・・・


「そうか。それで何だ?申してみよ」


「はい。皆様。クラウディウス様。お聞き下さい」

「うむ」


 私を含め、皆の視線がニアに集まる。

 彼の後ろで微笑んでいる公爵令嬢が憎たらしい。


 何故彼は私の傍ではなく、あの女の傍にいるのだ。

 すぐにこちらに来ればいいものを。


 二アは私の視線をさけ、周りの観衆を見ると。



「私は第三王子様に命令され、夫人と公爵令嬢を暗殺しようとしました」



『まぁ!』

『そんな!』

『なんてこと』


 彼の発言を受けて騒がしくなる観衆。

 だが、そんな雑音は私の耳には入らない。


 

 ???????

 はああああああ!

 ???????



 二アは何を言っているのだ。

 どうした?

 どうしてしまったのだ?


 一体、彼はどうしてそんな事を言うのだ!

 何がどうなってる?


 二アは何故暗殺の事をばらしているのだ?

 そんな事をすれば私とニアは終わりだ。


 一体何故そんな事を。

 しかもよりにもよって、私の大切な二アが。

 私を裏切るようなマネを・・・



 私の意識は衝撃の連続でふわふわと浮遊してきた。

 怒りと困惑と驚きがごちゃまぜになり、頭の中がぼんやりとし。

 現実感が薄れてきている。


 まるで酔ったような、夢の中の様な世界に近い。


 歪む世界の中では私は、なんとか意識を保った。

 

 今この瞬間、おかしな世界に捕らえられれば、私の将来に重大な影響を与えることになる。

 そのために、平常心をなんとしても保たなければならない。


 相対する公爵令嬢達に立ち向かうために。


一話の前に。

プロローグを追加しました。

※これまでの内容が変化するものではありません。

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連載始めました↓
彼女が二股していたので、腰が砕ける程衝撃を受けた。

 

連載始めました。よろしくお願いします。↓
転生したら吸血鬼さんだった件~チートで世界最強です~

 

さくっと同時連載中。↓
もう、結構ですわっ!

 

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