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39話 5日目    【夫】最後の晩餐

【アダム視点】



 死刑の日の朝。

 

 アダム伯爵はいつもと同じ時間に目覚めた。

 

 昨夜、死刑の日時を伝えられた後。

 僕は特に何かするわけもなく、物思いに耽りながら寝た。


 起きた今でも特段恐怖に襲われる事はない。

 いつの間にか死刑に対する心構えが出来ていたのかもしれない。

 

 僕は自分の心に変化がない事について驚いていた。

 直前になれば恐怖や不安に押しつぶされるかもしれないと思っていたのだ。

 だが実際にはそんな事はなかった。


 自分の精神の安定性が嬉しいのか。

 それとも、人間味をかく精神が悲しいのか。


 どちらともいえない気分だった。

 


「伯爵、朝食はどうしますか?」



 バーニーの顔がドア窓から見える。

 昨夜はいつもと違ってしゅんとしていたが。

 今朝は通常時のバーニーに戻っているようだ。


 王族殺し犯の僕にもクールで気負いしない彼。

 その姿に僕は安心する。


「どうって何が?朝食に種類かあるのか?」

「違いますよ。

 昼食が豪華なステーキとスープですからね」


「腹をすかせておこうかって事か?」

「そうです。なるべく美味しく食べたいでしょう」


「いいよ、別に。いつもどおり朝食を頼む」

「はいはい」


 バーニーが朝食を部屋の中に運び、朝食開始。

 

 彼はドア窓の向こうから、こちらをちらちら観察している。

 僕のことが気になるのかもしれない。


「バーニー。なんだ?朝食が欲しいのか?」

「違います。私はもう食べました」


「それならなんだ?」

「なんでもありませんよ。ただ、今日が終わればもう会うこともないでしょうからね。

 よく見ておこうと思いまして」


 彼は感傷的になっているのかもしれない。


「そうだな。でも良かっただろ。

 監視官の仕事はそれ程面白いものじゃないだろ。

 ただ見てるだけなんだから。本来は違う業務についているんだろ?」


「ええ。そうですよ」

「やっぱりな」


「因みに伯爵、何だと思いますか?」

「そうだな・・・」


 僕はパンを食べながら考える。


 特に何も思いつかない。

 でも確か、バーニーはキャッチボールが好きだったな。

 それに警備で教団のミサに近づいた事もあるとか。 


 うーん。

 全く手がかりにならない情報だ。

 それなら当てずっぽうだ。


「街の巡回警備か。新米騎士ならそれだろ」

「違いますよ。少しはしたことありますが」


「それなら・・・王城警備か」

「全然違います。警備ではありません」


「分からん。教えてくれ。

 いや、やっぱいい。どうもでいい」

「もっと考えてくださいよ」


「今は食事中だ」


 パンを手でちぎって、口の中で噛む。

 今日のパンはちょっと固いな・・・

 

 コップを手に取り水を飲む。


「いいですよ。それなら教えであげません」


 少し不貞腐れたバーニー。

 そんな彼を見ながらパンを噛んだ。


 やっぱり今日のパンは固い。







 朝食後は運動だ。

 いつも通り、王城のベランダに出てバーニーとキャッチボールする。

 

 彼が用意してくれた厚手の手袋をしてボールを投げあった。

 数日しかしていないが、僕の投球技術は上がったような気がする。

 

 狙ったところに正確に投げられるようになったのだ。

 

 自分の上達が嬉しく、次のレベル、変化球に挑戦。

 するとボールは見当違いの場所に飛んでいった。

 

 ベランダの外にボールが出て、行方不明。

 手すりに掴まって下を見てみたが、ボールの行方は知れず。

 下の人に当たっていないといいが。


「な、なにやってるんですか。伯爵」


 階下を見ている僕のそばにバーニー。

 珍しく慌てているようだ。


「悪い。変化球に失敗した」

「本当ですか。全然違う方向に飛んでいきましたよ。

 最初から狙ったわけじゃないでしょうね?」


「そんなことしないよ」

「まぁ、いいです。それで、どの辺りですかね?」

 

「多分、あの辺りじゃないか」

 

 ボールが落ちたと思われる王城の一部を指差す。


 バーニーは指差す先を真剣に見ている。

 あどけない顔の真剣な表情、その横顔は魅力的だ。


「何も分かりませんね」

「そうだな。下にいって探せば見つかるかも知れないが」


「そうですね・・・」

「今日のキャッチボールは終わりか?」


「大丈夫ですよ。予備は用意してありますから。

 直ぐに続きをやりましょうか」

「ボールはいいのか?」


「後で見ておきますよ」

「そうか」


 バーニーはボールを持って元の位置につく。


「伯爵。早く元の位置へ。ベランダをバックにしてはダメですよ」

「分かってる」


 僕も元の位置に戻り、王城の壁を背にする。

 

「いきますよ」

「おーらい」




 それからキャッチボールを続けた。


 バーニーの球はいつも以上に早く、手袋越しでもヒリヒリした。

 





 昼食。

 運動をした後だったのでお腹はすいていた。

 

 個室にジュージューと刺激的な音をさせたステーキが運ばれてきた。

 事前にバーニーから渡されたナプキンを胸にさげていたが、油がとびちる。


 目の前の机の上にはステーキとスープが。

 距離が近すぎて、スープの中に油が入っているような・・・



「熱っ!」

「伯爵、気をつけてください」


「分かってる。でも、これ熱すぎだろ。油が顔まで飛んできた」

「なるべく覚まさないように注意していたんです」


「でも・・・熱っ!」

「伯爵、気をつけてくださいって」


 いや、本当にめちゃくちゃ油が飛んでいるだよ。

 はじけすぎだろ、この肉。

 自己主張しすぎ。


「バーニー、分かってる。何度も同じ事を言うな。

 でも、熱すぎないか、熱っ!」

「それぐらいが丁度いいんですよ。

 冷めないうちにどうぞ。一口サイズに切ってありますから」


「お、おう。でも大丈夫か?火傷しないか?」

「熱々の方が美味しいんですよ」


「熱いってレベルじゃないだろ、これ」

「伯爵、もしかしてネコ舌なんですか?」


「そんな事は無いが。って、熱!」

「ほら、ブツブツ言って食べないから肉が怒ってるんですよ」


 んなわけあるかー。

 と思いながらも、僕は顔に向って飛んできた油をヒョイッと避ける。


「分かった。直ぐに食べる。

 火傷しても直ぐに死刑だから。治療する必要もないしな」

「きっと美味しいですよ」


 飛び散る油を避けながら、肉を刺し、口の前で「ふーふー」して冷ます。


 目の前に持ってきた肉は「ジュージュー」と肉汁を出している。

 思わず唾を飲み込んでしまう。 


 よし!食べよう。

 熱いのは一瞬だろう。


 よし!いくぞ。



 パクっ。


 ?!



 旨い!


 旨いぞ!


 とんでもなく旨いぞ!



 久しぶりに食べたステーキだからか。

 それとも最後の食事になるためか。

 尋常ではないぐらい美味しく感じてしまう。


 肉が口の中でとろけて、甘みさえ感じる。

 口の中で広がる肉汁が唾液を分泌させる。

 喉が渇き、口が、体が肉を求めている。


 直ぐにもう一切れ食べる。

 

 パク


「熱っ!」


 しまった!


 「ふーふー」するのを忘れていた。


 だが旨い。

 火傷するかと思うぐらいの熱さはあったが、直ぐに口の中で溶けていく。



 パク


 熱っ!


 旨い!



 パク


 熱っ!


 旨い!



 パク


 熱っ!


 旨い!



 夢中になってステーキを食べ。

 喉が渇くたびにスープを飲む。


 パク


 熱っ!


 旨い!



 パク


 熱っ!


 旨い!

 


 パク


 熱っ!


 旨い!

 


 気付くと皿は空になっていた。

 僕はナプキンを外してリラックスする。


 ふぅー、なんだか凄い食事体験だった。

 全然記憶は無いが、とにかく旨かった・・・


「どうでした、伯爵?」


 誰だ?と一瞬驚くが。

 いつものバーニーだった。

 食事に夢中すぎて暫く彼の存在を忘れていた。

 

「旨かった。いい食事だったよ」

「良かったです。王城でも一番腕が良いシェフに作って貰ったんですよ。

 滅多に食べれないんですからね」


 王族殺しの食事を、王城最高のシェフが作って問題ないのか? 

 通常の手順なのだろうか?


 いいや、そんなわけないか。

 きっとバーニーが僕のために頼んでくれたのだろう。


「ありがとう。バーニー」

「別に・・・

 私は何もしてませんよ。料理を運んだだけです」


 照れくさそうに笑うバーニーを見ていると心が和んでくる。

 いつまでも彼は素直にならないらしい。


 だが昼食を終えたという事は・・・


 すぐに運命の時間だ。




 僕は満腹になった体でベッドに横になる。


 最後の自由時間は目をつぶって安らかにしていようと思ったのだ。

 今さら何かする気も起きない。

 書きかけの手紙を完成される必要も無いだろう。


 僕は目を閉じて心の世界に入っていった。






 

 数時間後。

 僕はバーニーに告げられた。


「伯爵、時間が来ました」

「分かった」



 とうとう死刑の時間が来たのだった。

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連載始めました↓
彼女が二股していたので、腰が砕ける程衝撃を受けた。

 

連載始めました。よろしくお願いします。↓
転生したら吸血鬼さんだった件~チートで世界最強です~

 

さくっと同時連載中。↓
もう、結構ですわっ!

 

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