37話 5日目 【第三王子】朝
2部。最後の日です。
【クラウディス視点】
第三王女の慰霊祭当日。
クラウディス第三王子は清々しい気分で目覚めた。
昨夜、従者のニアと夜遅くまで飲んだ。
しかし頭は重くはなく、もやもやとしてものを感じない。
逆にスッキリして体が軽い。
心なしか、空気がいつもより澄んでいるようにも思える。
呼吸をするだけでも幸せを感じるのだ。
体中が清められているかのような感覚だ。
少しすると二アが現れる。
彼はあまり寝ていないだろうに、その顔に疲れは見えない。
だが昨夜の事があるためか、どこかぎこちない。
「第三王子様。お目覚めになっていましたか」
「ああ、ついさっきな。それでどうしたのだ?
いつもは朝食時に顔を合わしていたと思ったが」
「はは。
本日の事ですので、少しでも早くお知らせしておいた方がいいと思いまして」
何の事かを一瞬思考が止まるが。
すぐに「あの事だろうな」と思い出す。
「それは・・・アダム伯爵の死刑の事か?」
「左様にございます。
死刑ですが、本日の慰霊祭に合わせる事は可能のようです」
実は無理かもしれないと思っていたが。
ニアはやってくれたようだ。
「よくやった。二ア」
「いいえ。私はたいした事をしておりません」
謙遜するニアには可愛げがある。
節目がちな目をつい覗き込みたくなる。
「それで、死刑は派手にできるのだろうな?
我が妹のセレステを残酷な方法で殺したのだ。
その罪人が通常の斬首で処されては、王族の沽券に関わる」
「勿論でございます。
第三王子様の威厳を披露できますかと」
「ほほう、どのような方法で?」
「はい。
死刑は慰霊祭の会場である第一広場で行います」
第一広場か・・・
それなら確かに多くの人数を動員できる。
私の姿も、死刑にされるあの男の姿も多くの人に見せる事が出来るだろう。
「大勢の市民が見守れるというわけか」
「はい。
同時に追悼パーティーを開催します。
有力者の皆様には、広場に隣接している建物内から鑑賞して頂きます」
「さぞ良い余興になるであろう。パーティの参加者達も満足するであろうな。
それでニア、肝心の処刑方法は?」
「十字架に磔にした後、体に釘を打っていきます。
その後、第三王女様の冥福を願い、火あぶりに致します」
「それはそれは・・・大層面白そうだな」
「市民は血なまぐさい催しが好きですので」
市民の人気取りか・・・
それなら一工夫してよいかもしれないな。
「二ア、一つ思いついたのだが・・・その前に」
「はい。なんでございましょうか?」
「釘打ちは誰がやるのだ?」
「通常の死刑担当者になりますが」
「それはいささか趣にかけるのではないか?」
「と、いいますと?」
ニアは不思議そうな子。
私のいう事を予測していなかったようだ。
「いっそ釘打ちは公募してはどうだ?
貴族でも平民でも構わん。
皆の前に立てるのなら、やりたい者もおるであろう?」
「さすがクラウディウス様。
市民を喜ばす術をわかっていらっしゃる」
「何、たいしたこと無い」
「では、そのように取り計らないます」
「うむ。頼む。それとニア」
「なんでございましょう?」
「教団の件だ。昨夜屋敷を焼いたのであろう。
その後の進展はいかに?」
「はい。騎士団を向わせ、教団の敷地内から遺体を確保して現場を封鎖しております。
信者は抵抗しましたが、朝早くであったため上手く隙をつけたようです」
「いいぞ、ニア。
やっとこちらにも運が周ってきたではないか。
いいや、これまでが異常に不運だったのかもしれぬな」
私はこれまでの失敗を思うと嬉しさが倍増する。
やっと私の予定の範囲内で事が動き出したのだ。
なんとかこのままの流れで事態が進めばよいが。
「夫人と公爵令嬢の死は広まっているのか?」
「はい。順調に。
貴族の間にも平民の間にも噂をばらまいていますので。
後は今後、正式に発表するのみです」
「正式?」
二アの言葉に疑問を持ってしまう。
「騎士団は遺体の損害が激しいためか、二人の死の発表を控えているようです。
誤発表を恐れているのでしょう。
しかし二人がいない事と、周りの者の証言を確認さえすれば。
直に夫人と公爵令嬢の死は確定できるかと」
心配したがたいした問題は出ないようだ。
「そうか。それならいっその事。
二人の死を私が慰霊祭で発表しようではないか」
「クラウディウス様がですか?」
「そうだ。彼女らに哀悼の意を述べよう。
国が死刑にするのであれば反発もあったかもしれぬが、自殺となれば王族への非難もなかろう」
「素晴らしいかと。
慰霊祭までには騎士団の見解も出揃うと思いますので、実現可能かと思います」
決まりだな。
二人の死は私の人気を押し上げてくれる糧となるだろう。
「後は、教団の問題のみか・・・
彼らは何か問題を起こしそうか?」
「いいえ、今のところは。
二人の殺害容疑でブラッドリー司祭を捕らえましたので。
教団の動きは鈍くなっているようです」
「いいぞ。そのままだ。下手に教団に動かれれば面倒だからな。
願わくば一生檻に閉じ込めておくべきだろう」
「可能な限り対処します」
「完全に私に流れが来たようだな。
天国のセレステが私の味方をしてくれているのかもしれない」
「きっと第三王女様もお喜びでしょう」
セレステの笑顔をつい思い出してしまう。
なんといっても今日は彼女の冥福を祈る慰霊祭なのだから。
「教団の問題はあるが、今日が終われば一区切りだ」
「はい」
「では、ニア、引き続き頼む」
「はは!」
「私は慰霊祭での文言を考えなければな」
ニアは私の言葉に首をかしげる。
何か変な事を言っただろうか?
そんな気はなかったのだが。
「クラウディウス様、自らですか?
王城の者に原稿を用意してもらっておりますが」
その事か・・・
そういえば、この手の催しではいつも原稿を読んでいたのだったな。
「ニア。気遣いご苦労。
しかし、我が妹セレステに関しては自分の言葉で語りたいのだ。
私以外に適任者もいないであろう」
「分かりました。
もし、お気が変わりましたらお申し付け下さい。
念のため予備原稿は用意させていただきます」
「変わる事はないと思うがな」
セレステヘの想いは他の誰よりも強いのだから。
私に匹敵するものなどいるはずがないのだから。
彼女にとっても、私程必要なものはいなかっただろうに・・・
「それではニア、私はセレステへの言葉を考える」
「はは!失礼致します」
二アは深く例をすると、部屋を出て行った。
私は壁の絵画に近づき、その絵を裏返す。
裏面に描かれたセレステの美しい姿を確認し、つい絵の中の彼女に触れてしまう。
「セレステ・・・なぜ、あんなことに・・・」
私はずっと君の事が好きだったのに。
なぜ、あのような事を君はしてしまったのか。
私に対する裏切りを。
セレステが微笑む絵に触れながら、胸に湧き上がってくる想い。
君があの男、アダム伯爵と裏切りを交わさなければ。
ずっと私だけの妹、可愛いセレステでいてされくれれば。
私と君はずっと幸せでいられたというのに・・・
何故、君はあんな事を・・・
私は絵の中のセレステに触れながらも、指に力が入ってしまう。
指につく絵画のインク。
血の様に赤く染まった指・・・
汚れた手を見ながらも、私はあの夜の事を思い出す。
冷たい夜風と噴水の水。
誰かを期待するように待ち、夜の闇に紛れているセレステ。
星空の下の彼女はまるで天使のようだった。
するとその瞬間。
急に吐き気がしてトイレに駆け込む。
そして吐く。
胃の中の物が全て出ていった。
はぁーはぁー。
荒い息を静めようとする。
はぁーはぁー。
高まった心音を戻そうとする。
激しい心音と高まった体温。
鼓動を早める体の落ち着かせながらも自分に言い聞かせる。
私は何も間違っていない。
正しい事をしたのだ。
私は正しい。
全てはセレステのためにしたことだ。
私は彼女のためにいて、彼女も私のためにいたのだ。
二人のためにやったこと。
愛は約束であり。
約束を裏切れば罰を受ける。
罰が愛と約束をより強くする。
それは当たり前の事で。
誰であってもそのルールからは逃れられない。
ルール違反者は処罰される。
例え、いとおしいセレステであっても。
それは変わらない。
愛するセレステであるからこそ激しく執着してしまう。
あーセレステ。私のセレステ。
君がもうこの世にいないなんて・・・
運命は残酷だ。
短編投稿しました。
宜しければ、ご覧下さい。
タイトル:「なろうテンプレが滅びる日」
なろうテンプレが、「小説化になろう」から消えるまでの日々。未来予想です。
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