7話 0日目:夜 【妻】無防備なアダム
題名の【】は視点になります。
【母】マリアンヌ夫人
【夫】アダム伯爵
【妻】アナスタシア公爵令嬢兼伯爵夫人
◆主要登場人物
・アナスタシア:25歳。アダム伯爵の妻であり公爵令嬢。甘やかされて育ったお嬢様。
・アダム :25歳。アナスタシアの夫。平民から成りあがった伯爵。母を大事にしている。
・マリアンヌ :49歳。アダム伯爵の母。夫は蒸発。一人で息子を育てたので愛情深い。貴族生活には慣れていない。
【アナスタシア視点】
あらあら。
子供みたいにねむちゃって。
寝ているときは、本当にかわいいわね、彼。
思わずほっぺをつっつきたくなるぐらい。
私、アナスタシア伯爵夫人はベッドで眠っているアダムの前髪を弄りながら、頬を2,3回叩く。
すーすーと寝息をたてる彼は目覚める様子が無い。
パチっと音が出るほど強く叩いても、アダムが起きる様子はない。
(よし!OK!完全に眠ってる)
頬を叩くのに嵌ったので、もう一度ペチペチ叩いてみる。
すると。
「アナスタシア様。睡眠深度の確認はもうよいのでは?」
カミラが私の傍で助言する。
「そうね。ばっちり、大丈夫みたい。当分、起きる事はないと思うわ。
でもカミラ、二人でいるときはアナでいいって言ってるでしょ」
困ったような顔をするカミラ。
私より5歳年下の少女、その顔がかわいい。
「ですが、アナスタシア様」
「カミラ、私達友達でしょ。ほら、周りには誰もいないわ。
厳密には、寝ているアダムがいるけど、聞こえちゃいないわよ。
だから、ほら、アナって呼んで。そうしてほしいの」
私は彼女を肩をそっとさする。
「はい。分かりました。アナ」
「よかった。でもカミラ、ありがとね。
カミラが作ってくれた睡眠薬がよく効いたみたい。
やっぱり、カミラはこういうの得意よね。
私は全然ダメなのに。お父様につけられた教師で学んだりもしたのに」
本当そう。
薬の調合って難しいの。
私は細かいことも得意なはずなんだけど、中々上手くいかないんだもん。
いつのまにか、なんかよく分からない薬が出来上がってるの。
「いいえ。覚えれば誰でも出来ますよ。
ちょっと難しいこともありますが、正確に手順を繰り返すだけですので」
「それでも凄いわ。本当に」
カミラは謙遜して、本当に「誰でも出来る」と思ってるようだけど、そんなことはない。
適性がなければできない事。
真面目な彼女の性格あってものだと思う。
だって実証として、ここに出来ない私がいるんだもん。
私はカミラをぎゅっと抱きしめる。
「アナ・・・」
「いいでしょ、女同士でハグぐらい」
「私は、そのような事は」
「カミラは真面目すぎなのよ。
あなただって20歳なんだから、もうそろそろ結婚するのでしょ。
その練習よ」
数秒彼女を抱きしめて、心があったまった。
やっぱり、不安な時は仲の良い人に触れるのが一番。
そうしてると元気が出て「よし、頑張ろう!」ってなるんだから。
それにいい気分。
つい数分前の出来事を思い出した。
「カミラ。夕食は傑作だったわね。
みた、アダムの反応。私、思わず途中で笑いそうになっちゃった」
カミラは苦笑いをする。
「あれは、少しやりすぎだったのではないですか?
クラっと意識を失うようなマネをするのは」
「いいのよ、あれぐらい本気でやらないと、人は騙せないんだから。
カミラも「奥様!」って言って、私を支えてくれたじゃない。
私、もう少しで噴出すところだったわ」
そう。
あの時私は、頬とお腹に力を入れて笑わないように耐えていたのだ。
ドレスの下では、きっと腹筋が動いていたと思う。
「私は、メイドとしてあの場で当然の仕事をしたまでです。
別にそのような意味があったわけではありません」
「分かってるわ。あなたは私の一番のメイドよ。
仕事をしただけでも、ずっと一緒だから」
「ですが、アダム様が何か気づいたのかもしれません」
「そんな事ないと思うわ。私が見る限りね。全部オールオッケーよ」
そう、それぐらいここまではずっと上手く言ってる。
私、もしかしたら演技の才能があるのかもしれない。
「だって、アダムは私が本気で部屋で泣いていたと思ったみたいなの。
彼の母にフキンを投げつけられたぐらいで、泣く分けないのに。
私は25歳で大の大人よ、オ・ト・ナ。
全く、彼は私の事を小さな女の子とでも思ってるのかしらね」
「それは、そうですが」
「それに、彼の言葉尻をとらえて怒ってみたら、彼ったらオロオロするんだもの。
彼は何か色々いっていたけど、あれは私の勝ちね」
「確かに、そうですが」
「極めつけは、「私が、離婚したい」と言ったときの彼の反応よ。
一瞬、死んだような表情になったわ、彼。
死んだ魚、生気のない顔っていうのは、ああいう顔の事を言うのかもしれないわね。
又一つ学んだわ」
「真っ白でしたね、アダム様は」
でも、あの反応からするに、まだ彼は私の事は愛してくれているみたい。
そうでなきゃ、あんな顔できないと思う。
それに、私が怒ったときも、泣いたと思った時の反応も。
全てがある一つのことを物語っている。
そう、今日の反応を見る限り、彼は間違いなく私のことを愛してるわ。
それが確認できてよかった。
カミルからメモを見せてもらったけど(やっぱり、カミルはちゃんとアダムの行動を記録してた)。
彼は私が部屋にこもっている時、ちゃんと1時間に1回会いに来てくれた。
それに、ちゃんと謝ってたみたい。
別に彼は悪くないのに。
でも私はその事を知ったとき、すっごく嬉しかった。
飛び上がってハイタッチしたくなるぐらい。
もう、急いで彼のところに行こうかと思ったぐらい。
でもだめ。
そんなことしたらいけない。
それじゃ、全部水の泡になってしまう。
ここまで上手くいってるんだから、このまま続けないと。
これからが一番大事なんだから。
一つ一つリストをこなしていかないと。
「それじゃカミラ。
分かってるわね。これからが本番よ。
今度は本当に失敗できないんだから。
これまでの様なお遊びとは違ってね」
「分かっています。アナ。
私は失敗しません」
「一緒にがんばりましょうね、カミラ」
「はい、アナ」
それから私は部屋に戻り、ローブを着、彼の香水をふんだんにつける。
私が昔「好き」といった香水だ。
彼は律儀にそれを毎日つけてくれている。
そして私は家を出、夜の街に繰り出した。




