36話 4日目:夜 【夫】死刑実行の日
【アダム視点】
第三王女殺害容疑で死刑判決にになり、王城の一室に捕らえられているアダム伯爵。
いつものように部屋の中から星空を眺めていると。
王都の一角が明るく燃えていた。
そこは確か・・・教団がある場所か。
「おい、バーニー。燃えてるぞ。火事だ、火事だぞ、火事だ!」
「なんですか、公爵。騒がしい。
今何時だと思ってるんですか、夜ですよ」
「知ってる。空ぐらいしか変化するものがないからな」
「伯爵は空見るの好きですよね」
「ああ。っていうかそんな事はどうでもいい。
ほら、見てみろ。街の一角が燃えている。
そこいらの窓から見てみろ」
「本当ですか?」
僕の発言を疑いながらも、バーニーの足音がする。
どうやら付近の窓から外の様子を見るつもりなのだろう。
「見えたか?」
「今から見るところですよ」
「見えたか?」
「ちょっと待ってくださいよ」
「見えたか?」
「えっとですね・・・確かに・・・ほんとうですね。燃えてますね」
「だろ。こっちの窓からも見えるんだ」
「でも規模は小さそうですから、すぐに鎮火するんじゃないですか」
「燃え広がる事はないようだな」
「そうですね。あの方角に場所だと、教団がある位置ですかね」
バーニーも僕と同意見のようだ。
「だろうな」
「それなら問題ないかもしれませんね」
「何を言っている。バーニー。
王都が燃えてもいいのか?」
「違いますよ伯爵。
そもそも火事ではないかもしれません」
バーニーは何を言っているのだろうか?
「どういう事だ?燃えてるんだぞ」
「そうですが、火事ではなくミサかもしれませんね。
教団ではミサで炎をたく事もよくありますから」
そうなのか。
ユヌス教団についてよく知らないが、宗教的儀式という奴だろうか。
「バーニーも行った事あるのか?ミサとという奴に」
「参加はしていませんよ。信者ではありませんからね」
「それなら何故?」
「騎士団の警備で付近に行っただけです。
火が関係しているだけあって、やりすぎると問題ですからね」
「問題って、治安関係か?」
「それもありますが、多くは近所の人からですよ。
煙が家の壁についたとか、苦情が来るんです」
「そうか。それじゃ火事じゃないかもしれない可能性もあるのか」
「そうですね。火事かもしれませんが」
火事ではない可能性に、何故かがっかりした。
ここではする事が無いためか。
久しぶりに火事を見て興奮してしまったようだ。
無意識に非日常的なことを望んでいたのかもしれない。
考えてみれば、死刑になってここに囚われている事事態が異常なのだが。
暫く外を見ていると炎は消えた。
その様子からは、火事なのか、ミサなのかが分からなかった。
しかし夜空に混じって黒炎が空に昇っている。
黒煙は夜風に揺れ、上の方にいく程色が薄れていく。
あんな高い場所でも風がふていることに驚く。
それに消えた煙はどうなったんだろうとも。
そんな事を考えながら。
ぼーっと星空を眺めていると。
トントン
トントン
足音が聞こえる。
深夜だが誰か来たようだ。
これまではこの時間には誰も来なかった。
一体、こんな時間に誰が?
訪問者に興味が沸く。
足音がとまる。
位置からしてバーニーがいる場所だ。
扉付近に移動して耳を澄ますと、一部話し声が聞こえてくる。
途切れ途切れの声しか聞こえないが。
『本当ですか?』
『ええ』
『はい』
『ですが』
声からすると、バーニーは戸惑っているようだ。
『はい』
『ですが』
『はい。私はただの監視官ですから』
『おかしいのでは』
バーニーの困惑の様子が伝わってくる。
『はい』
『了解しました』
『いえ』
『はい』
『それでは』
暫くして足音は去っていく。
時間にしても長いものではなかった。
相手の声はどこか急いでいるようで、深夜にも関わらずこれから用事があったのかもしれない。
想像していたより王城の仕事は大変なようだ。
だがバーニーの足音は聞こえない。
ここで緊急の要件となると、多分僕の事しかないと思うのだが。
それなら直ぐに僕に伝えてくれてもいいのに。
中々僕のところにバーニーが来る様子がないので。
気になって彼を呼んでみる。
「バーニー、バーニー」
いつもはこうやって名前を呼ぶと。
すぐに足音が聞こえたり、彼が返事をするのだが、今回は何も無し。
どうしたのだろう?
彼に何かあったのか?
僕は再び声を出す。
「バーニー、どうしたんだ?
今の話はなんだったんだ?
僕に関係があることなら、隠さず話して欲しいんだ」
すると数秒後。
足音が聞こえ、ドアの窓枠からバーニーの姿が見える。
彼の姿がみえてほっと安心するが、どこか落ち込んでいるようだ。
僕は彼の表情を見ると、彼が何を聞いたか悟ってしまった。
それぐらい僕は彼のことを知っているのだ。
ここ数日間接していて分かるようになった。
「伯爵・・・」
バーニーの声は迷いと戸惑いを含んでいた。
いつもは言いにくい事もずばっという彼だが、今回はその彼でも気まずいようだ。
だから僕が先を促す事にした。
それぐらいの義理はあるし、彼にはよくしてもらっているので。
「バーニー。分かってる。時が来たんだろ」
「・・・はい」
「早すぎるとは思うが王族殺しだからな。
それで、いつだ?」
「・・・」
「五日後か、それとも一週間後ぐらいか?」
「いいえ。もっと短いです」
「それなら、三日後か?」
「伯爵・・・違います」
「いつなんだ?焦らさずに教えてくれ」
「・・・落ち着いて聞いてくださいね」
「あぁ、何を聞いても大丈夫だ」
「そうですか・・・」
「それで、いつなんだ?」
「・・・・」
バーニーは目を伏せてから。
「・・・明日です」
「え・・・」
僕は言葉をなくしてしまう。
今彼はなんていった?
一瞬、言葉が理解できなかった。
耳から音は捕らえたが、頭の中で処理されるまでに出て行ってしまったかのように。
でも、すぐに言葉が浮かんでくる。
明日・・・
まさか・・・そんなに早く。
明日だなんて。
予想もしていなかった速さだ。
「伯爵、明日の夕方だそうです」
バーニーは気を取り直したようにはっきりと述べる。
明日の夕方・・・
それじゃ、もう、再び夜も迎える事も無いのか・・・
先程まで見ていた星空を思い浮かべる。
「明日は昼食は好きなものが食べられます。
時間がありませんので、今希望をお願いします」
「そうか・・・」
僕は自分の死刑について現実感が無く。
何も考える事が出来なかった。
なのでとりあえず頭に浮かんだことを音にした。
「ステーキとスープ」
何故それらを食べたいか分からない。
特に好きなものでもないのに。
でも、頭に浮かんだのがステーキとスープだった。
「分かりました。伝えておきます」
バーニーはすぐに離れていった。
いつもなら僕の選択について色々聞いてくるだろう彼。
だが今日はそんないつも通りの彼ではなかったようだ。
でも僕は正直ほっとした。
今は一人になりたかったのだ。
バーニーとは仲良くなりすぎてしまったためか。
彼が気を使ってくれていると感じると、一緒にはいずらかった。
ここで自分の死刑について彼と語るには、少し受け止める時間が欲しかった。
だが、死刑は明日だ。
受け止められるかは分からないし、その必要も無いのかもしれない。
それなら、死刑の告げられず、いきなり刑にふせられた方がよかったのかもしれない。
僕は最後に見る事になるであろう星空を見ながら。
自分の死刑について考えた。
明日、僕は死刑に処されるのだ。
バーニーから告げられ、自分の死刑を認識できても特に恐怖は無かった。
「ついに来たか」という気持ちだけだった。
部屋の中を見回すと、机の上に目が留まる。
そこには書きかけの手紙が何枚も散らばっている。
もう手紙を書く意味もないのだ。
僕の死刑の取り下げを訴える必要も無い。
いくつかの手紙は今日出したが。
あれらの手紙が届く頃には僕はもう死んでいるだろう。
その中には元妻、アナに出したものもある。
彼女を懐柔するために、偽りの懺悔と愛を書いたものだが。
今になって思えば、それはそれで良かったのではないかと思った。
どうせ死ぬなら。
憎らしくて殺したい彼女に対しても、少しぐらい良いイメージを持ってもらいたかった。
彼女に憎まれて死ぬのと、少しばかりイメージが回復されるのを比較するならば。
後者を選ぶのは必然だった。
僕はいつもより静かに感じる夜の闇の中。
不思議と心は落ちついていた。
まるで夜の闇にとけるようだった。
これで僕もセレステと同様、この夜から旅立つのだ。




