34話 4日目:夜 【ニア】暗殺実行
【ニア視点】
第三王子の従者であるニアは、暗殺者の集団を率いて教団内部に侵入していた。
今回引き連れているのは王国の兵士から引き抜いた者達だ。
前に使った盗賊崩れの者達とは一筋違う。
よく訓練されており、王族への忠誠心もある。
この教団の警備が厳しい事は事前に聞いている。
そのため、今もこうして協力者の信者(2人)に案内して貰っている。
因みに私も暗殺者も、他の信者に溶け込むためにユヌス教の黒ローブに身を包んでいる。
敷地内の一つの部屋にたどり着くと。
私は協力者の信者に語りかける。
「ここまででいいです」
「そうかい。それじゃ俺の仕事は終わりだな?」
「そうです」
「それじゃー、さっそくだが約束どおり残りの金を貰おうか」
私は用意していた子袋を信者に渡す。
だが、目の前の男は袋の中身を確認してニヤリと笑う。
「足りないな。全然足りない」
「規定の金額のはずですが」
確かに金は入っていたはずだ。
こういうところは職種上細かくチェックしている。
「ここにはついさっきまでの金額しか入っていないね」
「どういうことですか?」
「たった今金額は3倍になったんだ。あいにく内は時価でね。
もし断ったら・・・分かってるだろ。ここには多くの熱心な信者が多いからな。
侵入者がいると知ったら彼らは怒り狂うだろうな。異教徒を追い出せと」
目の前の信者は教団の敷地内にいるためか、随分強気のようだ。
自分の方が有利な立場にいると思っているのだろう。
裏切り者の信者の分際で。
にしてもふざけたまねを。
この場になって、私達暗殺者に対して堂々と値上げ交渉をしてくるとは。
彼ら度胸が据わっているというか、頭が回らないというか。
どこか足らないんじゃないかと思う。
協力者の信者には平均額より多く渡しているが、それが彼の考えに影響したのかもしれない。
これまでこちらが気前よく金を出してきたので、もっとたかれると思ったのだろう。
彼はさらに多くの金が欲しいようだ。
こういう輩は少しでも隙を見せれば金をせびろうとする。
よく使ってきたから分かる。それは奴らの習性のようなものだ。
やめられないのだろう。
だが今はそんな事などどうでもいい。
多少の金など今は問題ではない。
それになにより、目の前の男にとって金など直ぐに価値がなくなるだろうから。
私は懐を探り、新たな袋を信者に渡す。
「追加のものです。よく確認してください」
「物分りが良くて助かるよ。
どこの人達か知らないが、金払いが良いあんた達は好きだ。
また雇ってくれよな」
手渡された子袋の中身を確認する信者。
だが彼らは中身を見て驚く。
「お、おい、どういうことだ。石ころしか入ってないだろ」
私は彼らに構うことなく、後ろに回っていた暗殺者達に指示を出す。
「黙らなさい」
「了解しました」
その声と同時に、瞬時に信者の首にロープがくくりつけられ絞め上げられる。
悲鳴が出る事無く、1体の死体が出来上がる。
熟練の早業だ。
協力者の信者は2人。
もう一人、生き残っている信者は腰をぬかして地面に倒れている。
たった今隣で仲間が殺されたためか、激しく動揺しているようだ。
「お、おい。な、何するんだよ。
分かってるのか、ここがどこだか?」
そんな事分かっている。教団だ。
「夫人と公爵令嬢の居場所を言いいなさい。
話したら命だけは助けてやれるかもしれません」
「わ、分かった。分かったから殺さないでくれ」
「それでどこです?」
「夫人は西棟の2階の突き当たりの部屋、公爵令嬢も同じ階の部屋。
一つ手前だ。な、いったろ。だから助けてくれ」
私は隣の暗殺者と目線を合わし。
「今の答えは他の者に聞いた情報と同じですね」
「はい。確かに。これで三人の確認がとれました」
別の独立した情報源から三重確認が取れたので、この情報の信用性は高いだろう。
これで夫人と公爵令嬢の居場所の特定はできた。すぐに行動に移れる。
「よろしい。ではこの者の処理を」
「ば、馬鹿。やめろ、なんで。
俺は話しただろ。全て本当だ。嘘は言っていない。
二人はそこにいるはずだ」
「それは知っています。情報の信用度は高いようです。ご苦労様です」
「ならなんで。話したら助けてくれるって言っただろ」
「よく人の話は聞いいた方が良いですね。
かもしれない、といっただけだ、必ず助けるとは言っていませんよ」
「んなあ、んぐあ」
叫ぶ信者の首に、暗殺者が同じようにロープを巻きつける。
抵抗するまもなくもう一つの死体が出来上がる。
やはり安定の技術だ。
これで不安要素の一つは消えた。
そもそも私達の顔を知っている信者を生かしておくつもりはなかったのだ。
協力者は殺すと事前に決めていた。
もし今回の暗殺が問題になった場合、彼らが生きていると私達に繋がる恐れがある。
「死体は自殺に見せかけるのです。
この者達が教団を裏切っている事を知っている奴もいるでしょう。
罪悪感にさいなまれての自殺とみせかけます」
「了解しました」
暗殺者達がてきぱきと動き、すぐに死体が部屋に吊るされる。
自殺現場の出来上がり。
これで大丈夫だろう。
彼らは元々教団の裏切り者だ。
教団にとっても彼らが死んでくれた方がよかったはずだ。
そのため事件化して騒ぐ事も少ないだろう。
自分達の中に裏切り者がいたとは宣伝しなくないだろうから。
私は自殺現場を見回してから。
「では、いきますよ。
標的は夫人と公爵令嬢ですが、邪魔するようなら最小限の被害は許可します」
「了解しました」
私は暗殺者を引き連れて西棟に急いだ。
◇
信者に見つかることなく西棟につく。
この建物は2階立て。
目標はその最奥の2部屋。
奥がマリンヌ夫人の部屋で、手前がアナスタシア公爵令嬢。
私は暗殺者を引き連れて建物内に入る。
公爵令嬢と夫人がいるためか、この建物には武装した信者が巡回している。
隙を突いて目的の部屋にたどり着くことも出来るだろうが、無意味な危険は冒さない。
巡回者を無力化た方が危険を抑えられるはずだ。
私は暗殺者と目を合わすと。
「頼みます。無用な殺しは控えてください」
「了解しました」
暗殺者は廊下の角で信者を待ち伏せし、訪れた者を後ろから羽交い絞めにして気絶させる。
意識を失っている信者は縛って空き部屋に放り込む。
それを何度か繰り返して2階の廊下にたどり着く。
目的の部屋の前には警備の信者が椅子に座っている。
彼を倒さない限りは部屋の中には入れないようだ。
暗殺者に対処させようと思ったが、ここは自分でやる事にした。
絶対に失敗できない部分だからだ。
部屋の前で騒がれては、最悪窓から逃げられるかもしれない。
私は黒ローブのフードを被り、信者のふりをして部屋に近づいていく。
警備の信者は、私に気付くと椅子から立ち上がり。
「あれ?どうしたんだ?もう交代の時間か?
それより、フードをそんなに深く被るなよ。顔が見えないだろ」
信者がそういい終えた瞬間。
私は瞬時に近づき相手を気絶させた。
相手が倒れた際に音が出ないよう、悲鳴を上げさせないように慎重に。
意識を失った男を縛り上げて空き部屋に放り込む。
これで最後の障害も排除した。
ここまではたいした事なかった。
所詮は宗教団体の警備だ。
素人が武器を持っているに過ぎない。
そんな彼らを過大評価したのは、前回の暗殺失敗があったためだが。
それを加味してもいささか気負いすぎたのかもしれない。
私は暗殺者達を部屋の前に招きこみ、扉の前で待機する。
目的の2部屋を一気に攻めるのだ。
夫人と公爵令嬢と捕らえ、自殺に見せかけて殺す。
私は公爵令嬢の部屋を担当し、夫人の方は暗殺者に任せる。
扉に体をつけながら、彼らと頷きあい。
「行きます」
「3」
「2」
「1」
私はドアを勢いよく開けて、公爵令嬢の部屋に飛び込んだ。




