32話 4日目:夜 【第三王子】暗殺指示
【クラウディウス視点】
「なん・・・だと。それは本当か?本当なのか?」
「はい。間違いないかと。監視の者が見ております」
王城の自室。
クラウディウス第三王子は驚愕に震えていた。
まさか!
まさか!
まさか!
公爵令嬢とユヌス教団が手を結んでいるとは・・・
そんなまさか!
ニアは私に告げた。
『公爵令嬢が教団と手を組み、アダム伯爵の罪を覆そうとしている。
そのために、マリアンヌ夫人の証言を裏付ける証拠を揃えた。
彼女達は真犯人を見つけた』
その話を聞き私は恐怖に震えた。
この事は断じて看破できるものではない。
彼らの仮定している真犯人次第では、私は大変な事になるのだ。
ただでさえ夫人の証言に私の心は揺れていたのに。
このまま見過ごせば、その代価、私の命で支払う事になるかもしれぬ。
「二ア、その真犯人というのは誰なのか分かっていないのか?」
「はい。彼らが誰を第三王女殺しとして告発するのかは分かりませんが。
そうとう自信があるようです。何か証拠でもあるのかもしれません」
何故今頃になって・・・
審問でも今日の面会でもそれらしき気配はなかったはず。
他のもの同様大人しく指をくわえ、アダム伯爵が死刑されるのを見ていればいいものを。
「なんとかして聞き出せないのか?」
「情報秘匿が硬く、一部の者しか知らないようで。
現状の協力者では探れませんし、今からスパイを忍ばせる時間も無いかと」
くそ!
このままでは・・・まずい!
すぐにでも手を打たなければいけぬのに!
肝心な情報が手に入らない状態では、どうすればいいことやら。
下手に動くわけにもいかない。
もし彼らが見当違いな告発をするようであれば、ただ黙って見過ごせば良いのだから。
だがもしもその告発の中身が真に迫るものであれば・・・
「昨夜暗殺が失敗したばかりだというのに・・・
面倒な事をしてくれる。
よりにもよってそのような事を・・・」
私は怒りのあまり歯軋りをしてしまう。
歯がかみ合いキュッと音がする。
「それでニア。その告発はすぐにでもされるのか?」
「はい。早ければ明日にでもされるようです」
な、ななな。なんという事だ!
明日だと。そんな馬鹿な。
今は夜だ。
もし朝一で行うのであれば、告発まで1日、いや後数時間しかないではないか。
「それは早すぎだ!
そうであるならば、奴ら、今日王城に来た時にもその事を考えていたな!
公爵令嬢も、司祭も、私と顔を合わせながらも、飄々と騙したのか!
この私、第三王子であるこの私を!」
「はは。誠に申し上げにくいのですが、その可能性が高いかと。
告発をするのであれば、数日は準備が要りますでしょうから」
あーなんたる事!
なんたる事だ!
許せん!
貴族と似非宗教家如きの身分で私を欺くとは。
何様だと思っているのだ。あやつらは。
レムリア帝国の属国にすぎない小国の者共が。
宗主国の王族である私に逆らうとは・・・とても看過できない事態だ。
「司祭に、公爵令嬢め・・・許せん。
私をこけにしおって・・・あやつらめ・・・身分をわきまえず無法者共が」
そう口に出しながらも。
私は焦る心を抑え、冷静に頭を働かせようとする。
このまま感情のままに行動すれば、必ず悪い結果になると感じていたからだ。
それに時間が無い。
自分の感情に酔っている場合ではないのだ。
私は半ば無理やり深呼吸をして早まる動悸を抑えていく。
息が肺に入って出て行くたびに頭に上った血が落ちていく。
体の反応が収まれば、ゆっくりと心も落ちついてくる。
「クラウディウス様。
お気持ちは分かりますが、ここは冷静に対処される方が宜しいかと」
そうだ落ち着け。
こういう時ほどゆっくりと考えなければならない。
ここでの判断ミスは致命的なことに繋がるかもしれないのだ。
そもそも今回の原因は、私が彼、彼女達の考えを読み間違えた事だ。
公爵令嬢もユヌス教団も少し脅せば王族の権威に屈すると思ったのだ。
まさか王族である私に立てつこうなど考えもしなかった。
そんな恥知らずの者達だったとは。
しかし中途半端な対応でかえって彼らを助長させてしまったのかもしれない。
そうであるならば、ここは徹底的に強く出る必要があるだろう。
王族がどういうものであるのか彼らに知らしめる必要がある。
決して忘れないように。
彼らの他にも協力者がいるのかもしれないのだ。
その者達に思い知らせるのだ。心に刻みつけるのだ。
属国の身でありながら、王族に逆らうとどうなるかという事を。
第三王子である私の忠告を無視して事を起こそうとしている事など、断じて許せはしない。
「二ア。こうなればやむ終えない。夫人達には断固とした対応をとる」
「はは!私もそれが宜しいかと」
「王族という者を彼らは軽く見すぎているのだ。
そもそもこんな国に大切な我が妹、セレステを連れて来たのが間違えだった。
あぁーセレステ。セレステ・・・私のかわいいセレステ・・・」
死んだ妹の事をつい思い出してしまう。
先程も部屋の中で彼女の肖像画を見ていた。
あの絵の中の彼女を見ていると心が満たされるのだ。
絵の中に収まった彼女の笑顔を見ていると、私は幸せな時間を過ごせる。
時が止まった空間の中で私は幸福に包まれる。
妹の事を想っていると、二アが伺うように私を見つめている。
私が物思いに耽っている事を心配しているのかもしれない。
今は今後の事を優先しなければならないな。
セレステの幻想を振り払い現実に集中する。
「ニア。私の邪魔をする者は誰であろうと排除する。
公爵令嬢も司祭も、それに夫人もだ。彼らにはこの地に沈んでもらう」
「はは!それでクラウディウス様。
具体的にはどうされるのでしょうか?」
「何、単純な事だ。言葉どおり邪魔者には消えてもらう。
ここで小賢しい策を弄する必要も無いだろう。
王族たるもの、格の違いを見せつけるのだ!
公爵令嬢も、夫人も、司祭も暗殺する」
ニアは口元にしわをつくり、苦い顔をする。
前回の暗殺が失敗した事が脳裏に浮かんでいるのかもしれない。
「意義は分かるのですが・・・宜しいのでしょうか?
アダム伯爵の件もあり、夫人も公爵令嬢も王都では有名人です。
夫人はともかく、令嬢のお父様、クリント公爵はこの国に影響力のある重鎮です」
ニアの懸念は分かる。
この国を無難に監督しようと思った場合、公爵の一団の影響力は無視できない。
だがしかし、今はそんな小さなことに構っている場合ではないのだ。
王族たるものの違いをみせる時だ。
「何、問題ない。
夫を失った元妻と息子を失った母親。
あまりの悲しみで自殺してしまうこともあろう。
それで皆納得するはずだ」
そうだ。
死を偽装さえ出来れば問題ないのだ。
「それに彼女らにはさぞ盛大な葬式を国で開き、公爵には便宜を図ればよかろう。
さすればニアが懸念している問題も起こらないだろう」
「はは。お二人はそうだとして、司祭の方は。
宗教団体が暴走すると面倒な事になりかねないかと」
確かに。
あやつらは何をするか分からぬからな。
「司祭は生かして、令嬢と夫人の罪を被ってもらおう。
教団を潰す理由に使えるだろう。教団解散危機に瀕すれば告発などしている暇は無い」
「はは。分かりました」
ニアは厳しい表情だ。
美少年の顔が歪むのは好きではないが、今回ばかりは彼の働きが重要だ。
前の様な暗殺の失敗は許されぬ。
そもそも、前回の夫人暗殺が成功していればこんな事にはならなかったのかもしれないのだ。
「ニア、難しいかもしれんが。今回は絶対に失敗が許されん。
そのため君が指揮を執るんだ」
「了解しました。精鋭で事にあたりたいと思います」
「うむ。頼んだぞ。今度こそ私の期待にこたえるのだ。
必ず夫人と公爵令嬢を亡き者にするのだ」
「はは!お任せを。
きっとお望みの成果をあげてご覧にいれましょう」
さっと部屋を出て行くニアを見送りながら、私はこの先の事を考えた。
邪魔者さえ消えれば、きっと何事も無く日は過ぎていくはずだ。




