26話 4日目:昼 【第三王子】面談(上)
【クラウディウス視点】
アナスタシア夫人がアダム伯爵に面会している、ちょうどその頃。
王城の一室では、クラウディウス第三王子とユヌス教団のブラッドリー司祭が面会していた。
今、私の目の前には一人の男がいる。
黒ローブの着たユヌス教団の司祭。
彼は3人ほどの信者と一緒に来たが、彼以外の者には部屋を出てもらった。
そのことに対して渋る信者だったが、司祭の指示を受けると去っていった。
彼らは王族である私の指示より、司祭のいう事を聞くようだ。
その様子を見て彼らの団結力の強さと司祭の影響力を確認した。
それらは宗教団体としては当然の事なのかもしれないが。
「第三王子様。私目にお話しとはなんでございましょうか?」
司祭は抑制が聞いた声で尋ねてくる。
その声は心地よく、聞き取りやすい。
宗教家には必要な要素なのだろう。
「用件は伝えてあると思いますが。
わが妹の慰霊祭についての話です」
「そうでしたそうでした。
私の教会でも事件の次の夜に追悼ミサをとり行わさせて頂ました。
多くの信者と市民の皆様で冥福をお祈りいたしました」
「それはいい心がけですね」
「いえいえ、国民の務めかと。人が死ぬのは悲しいですから」
それから私は、司祭と慰霊祭について事務的な会話をした。
そして会話が一段落してから。
「司祭。実は小耳に挟んだのですか」
「何でございましょうか?」
「あなたの所で我が妹を殺した罪人の母を匿っているそうで」
「はい。その通りにございます」
司祭は微笑を浮かべたまま答える。
全く動じていない。
「罪人を匿うのは教団としていいのですかな?神にそむく行為では」
「罪人の隠匿。
確かにそれは禁止されている行為です。
しかし、マリアンヌ夫人は罪人ではないかと」
「夫人は王族を殺した者の母です。
直にに死刑が下るでしょう。さすれば罪人と同じようなものでは」
「判決が下りましたらそうなりましょう。
しかしそれまで彼女に罪はありません。
無実の彼女に危険が及ぶようでありましたので、我が教団で保護したのです」
飄々としている司祭。
「そうですか。それではもう一つの噂を。
マリアンヌ夫人が暗殺されかかったと聞いたのですが、どうですか?」
「お耳が早いですね。
確かにそのような事がありましたが、賊は捕らえマリアンヌ夫人は怪我一つ負っていません」
司祭はすらりと述べた。
「やはりそうなのですか。
しかしそれでしたら、賊は騎士団に差し出してもらわなければ。
王都の治安維持は騎士団の領分になりますので。
知っていると思いますが、私刑は違法行為ですよ」
「存じております。
しかし、賊に対しては何も行っておりませんよ。
それに暗殺といっても何も被害がない以上、犯罪ではないのでは。
言葉が独り歩きしているようですね」
「それでは、そちらの教団では賊を捕らえていないと?」
「はい。教団には信者とお客様しかおりません」
「そうですか。
そのお客様の中に賊がいなければいいのですがね」
「お客様はお客様です」
この司祭は一筋縄ではいかないと感じた。
宗教家のためこういった門答には慣れているのだろう。
全く、面倒なものだ。
「それで司祭。話は戻ってマリアンヌ夫人の事になるのですが。
彼女を何故保護しているのですか?
夫人は信者ではないかと思いますが?」
「はい。確かに信者ではありません。
しかし、ユヌス教の教義には隣人愛というものがありまして。
無実の者を救うのは教義にのっとった行為なのです」
「というと。
あくまで教義どおりに動いただけという事ですか?」
「はい」
司祭は微笑を浮かべたままだ。
まるで自分の行為には後ろ暗いところなどないような態度。
本当のそう思っているのかもしれない。
「それはおかしいのでは。
わざわざアダム伯爵の審問を閲覧しに訪れ、王城の外では信者が待機していたと聞きます。
夫人を匿うのはかなり計画的なものだったと思いますが」
「それはマリアンヌ夫人を知らぬわけではなかったからです。
ちょうど数日前から、我が教団と夫人は知人関係になっておりましたのです。
それで最悪の事態を想定して審問を訪れると、あのような結果に。
痛ましい事です」
司祭が目頭を押さえて泣きマネをする。
その大げさな態度に私は呆れてしまう。
演技なのか、本心からの行動なのか。全く見分けがつかない。
「そうですか、あくまで教義から救ったと。
そうおっさyりたいのですね?」
「はい。その通りでございます」
「しかしどうでしょう。
それは教団として見た場合、良い行動なのでしょうか?」
「といいますと?」
「マリアンヌ夫人を匿うという事は、騎士団、ひいては王城と敵対する事です。
無実の者を救うという教団の教義はご立派ですが、それが災いにならなければいいのですが」
「第三王子様。
教義をお褒め頂ありがとうございます。
我が教団はどなたにも門徒を開いております。
勿論王族の皆様にもです」
こちらの脅しにのってこないようだ。
もう少し強くでる必要があるのかもしれない。
「ブラッドリー司祭。
ユヌス教団が活動できているのは、王城の許可が下りているからだという事を認識していますね?」
「はい。王城には日々感謝しております」
「それですと、王城に対して心をかくような行動はしない方が宜しいのでは。
今教団が解散となれば、大勢の信者が行き場を失ってしまうのではないでしょうか?
たった一人の夫人、それも直に死刑になる女性などに構っている余裕はないのでは?」
「第三王子様。
損得勘定ではそうなるのかもしれません。
しかし、教義はそれを超えたところにあるのです。
そこに価値があるのです」
「そうですか。残念です。
私は司祭の様のためを思って助言したのですが。
貧民を救う教団の活動は素晴らしいと思いますが、それが消えると思うと悲しいですね」
「ご助言ありがとうございます。
しかし、例え不幸にも教団がなくなろうと信仰心は消えません。
それに教団がなくなることはないでしょう。
今以上に繁栄すると思いますよ」
??
どういう事だ。
司祭は自分の発言に妙に自身があるようだ。
「司祭、どういうことですか?
私は教団の危機だと思うのですか」
「それは違います。
現状信者は増加の一途を辿っています。
皆さん、第三王女様の死に対して何かしら思ったのかもしれません」
そうか。
確か聞いた事がある。
国や社会が不安定になればなるほど宗教団体の勢力は増していくと。
我が妹、王族の死で民衆の間に不安が蔓延してもおかしくない。
そこを宗教団体が利用すれば信者は増える。
それにマリアンヌ夫人を一時的にでも匿えば、王城に対して意見できる組織として、ユヌス教団の立場と力のPRにもある。
この司祭、我が妹の死を利用して教団の拡大を計る気だろう。
なんたる侮辱か!
あの愛らしくて天使の様な妹の死を利用するとは。
憤慨著しい!
似非宗教かどもが。
まるで餌に群がってくるハエのようだ。
「司祭。分かっていないなら言っておく。
教団を繁栄させる事が目的ならそれは否定しない。
組織は常に規模の拡大を求めるものだ。
しかし、もし、我が妹の死を利用して行っているのであれば、教団の寿命は短いと思ってもらいたい。
これは助言ではなく警告だ」
「勿論でございます。
第三王女様の死を利用するなど、恐れ多い事です」
司祭は頭を下げてながらも飄々と答える。
こちらが強く出ても動じないため、こちらの気がそがれてしまう。
「分かればよい」
「しかし、第三王子様。一つ宜しいでしょうか?」
「何だ。申してみよ」
「はは。
実はマリアンヌ夫人から伺った事があるのです」
ドキリと心臓が震えた。
夫人からだと。
もしかして、あれのことか・・・
あの事を司祭に話したのか、マリアンヌ夫人は。
私は同様を隠しながら。
「それは何だ?」
「はい。
第三王子様が審問の内容を知っているかご存じないのですが。
マリアンヌ夫人は自分が第三王女様を殺したと証言したのです」
「それは知っている。
審問の記録には目を通している。
それで?」
「では、夫人が血まみれの服が家にあると証言したのもご存知ですね?」
「勿論」
「その繋がりなのですが、実はそれらしき服を婦人の家で発見したのです」
まずい。
それはどういう事だ。
その服がもしアレに関係しているとなれば・・・




