25話 4日目:昼 【妻】面会直後
【アナスタシア視点】
一体アダムはどうしちゃったの?
アダム伯爵との面会を終えたアナスタシア公爵令嬢は戸惑っていた。
なんでアダムは私の事憎んでいないのよ。
なんで何度も謝って自分が悪いと言い出すのよ。
もう、意味が分からない。
アダムと話していると、正直ずっと心が落ちつかなかった。
最後に会った時はあんなに私の事を罵倒にしていたのに・・・
だから今回も当然噛み付いてくると思ったらその正反対。
しゅんと落ち込んで反省しているみたいなんだもん。
そりゃーそういう姿を少し望んでいたけど。
彼が謝っても高笑いしてやりすごそうかと思っていたけど。
どうしてもそんな気持ちにはなれなかった。
どうしてだろう?
不倫されたことに対してすっごく憎しみを抱いていたはずなのに。
アダムがああやって牢の中で謝る姿を望んでいたのに。
でも、実際に体験してみるとどうしてもスカッとしないし満足もしない。
私が望んだ事なのに。
そのために準備をして実行したのに。
なんでだろう?
全然分からない。
私は自分の感情が理解できなくて動揺していた。
頭では満足していただけど、全然心がついてこなかった。
その差が心の中で落ち着かなく私を揺らすのかもしれない。
心を静めようと思っても無理。そんな事できない。
ざわざわとする心が収まらない。
今でもアダムの声が耳に残っている。
あー全然楽しくない。楽しくない。
せっかく目標を半ば達成したのに。
私は王城で出て、馬車の中に入ってもずっと落ち着かなかった。
アダムにあんな態度をとられて、動揺しない方がおかしいのかもしれない。
「アナスタシア様。お気を確かに。
アダム伯爵の言葉はあまり気にされない方が宜しいかと」
カミラが私の様子を察してくれたのか、そう励ましてくれる。
ありがとう。
カミラはいつも私の心の機微に気付いてくれる。
頼もしい味方。
「そうよね。アダムが予想外の反応するので焦ってしまったわ」
「それは仕方がありません。
まさか私もアダム様があのような手で出てくると思いもよりませんでした」
そういえば、私がアダムと話している最中、カミラはじっと彼の様子を伺っていた。
何か感じるところでもあったのだろうか?
「カミラはどう思ったの?
アダムの対応について」
私は自分の心の動揺を抑えるために、第三者の冷静な意見が欲しかった。
カミラならそれに適していると思った。
彼女はいつも冷静に事態を見守ってくれるから。
「アダム伯爵は信用なりません。もう会われない方が宜しいかと」
「え?」
私はカミラの意外な発言に驚いてしまう。
確かにアダムが謝ったり、私の事を一言も非難しなかった事に対して疑わしいと思ったのは事実だけど・・・
そこまで強く突き放さなくてもいいとは思っている。
もう一回ぐらいは会ってもいいかなって。
だってアダムは反省していたようだし、彼の話を聞いていると昔を思い出して楽しい気分にもなれた。
それに彼の変わりようの理由も知りたいし、それが嘘じゃないかも確かめたいとも思っている。
だから会ってもう少し話したほうがいいと。
なんでカミラはそこまでアダムを突き放すのだろう?
何を心配しているのだろう?
「カミラ。そこまで言う必要はないのでは?
それに私は、審問で夫の無実を信じる妻を演じたのです。
最後までそれを突き通した方が今後の体裁もいいと思いますが」
「アナスタシア様・・・」
カミラは私の顔を見て驚いているようだ。
彼女が口をポカンと無用心に開けている顔を久しぶりに見た。
でも、彼女をそんな表情にさせるような事を私は言ったのだろうか。
そんな事を言ったつもりはないけど・・・
カミラの反応を見るに私は何か言ってしまったようだ。
何だろう?
「どうしたのですか、カミラ?」
「はい。申し訳ございません。
少々驚いたものですので」
「いいのですよ。それでカミラ。一体どうしたのですか?
私は何かおかしな事をいったでしょうか」
「いいえ、アナスタシア様。
ですが正直に申しますと、アナスタシア様は甘いのではないかと」
甘い?
私が?
どういうことだろう?
「カミラ、私がですか?」
「はい。恐れながらそう思います」
カミラは粛々と述べる。
私に言いたくない事をいう時の気まずそうな表情をしている。
「理由を聞いてもいいですか?」
「勿論です。
そう思いますのは、アダム男爵に対してお心を許しているように思われたからです。
お言葉は悪いですが、彼はアナスタシア様に死刑に追いやられた身です。
そんな男の言葉は信用しない方が宜しいかと。
自分が助かるためには心にも無い言葉をいうのではないでしょうか」
カミラがアダムの言葉。
私への謝罪と、私に対する愛情の言葉を嘘だと言いたいようだ。
それを控えめに伝えようとしている。
確かに私もアダムの話を聞きながらそう考えた。
彼は嘘をいっているのではないかと。
でも、彼の話を聞いているうちにその疑念がどんどん揺らいでいった。
少しは嘘が入っているかもしれないけど、それと同じぐらい本心なんじゃないかと。
彼は本気で反省して、私に謝っているのではないかと。
そう感じたのだ。
「カミラ。私は何もアダムの言葉を全て鵜呑みにしているわけではありませんよ」
「分かっております。
しかし、一部アナスタシア様がお優しかったと。
一度心を通じ合った仲でも、今の状態になった以上、距離を置いた対応を取られるほうがよろしいかと」
私はカミラの意見を受け止める。
確かにカミラの言う通りなんだろ思う。
復讐するって決めたときから、もうアダムを許しちゃいけないんだと思う。
もしアダムの事を許したら、一体これまでの事は何だったの?となるから。
でも、カミラの話を聞いても、私は彼女言葉にすんなりと納得できなかった。
心の隅でくすぶっている思いがあった。
アダムを突き放してもう関わらないようにしようとは思えなかった。
またアダムに会いたいと思ってしまう。
思い出すのは、彼が私の手を取って悔い改めるような顔で話してくれている姿。
彼は誠心誠意真剣に謝っているようにも思えたのだ。
それなら、またやり直せるかもしれないと一瞬思ったのだ。
「アナスタシア様?」
カミラの声で物思いから抜け出す。
「カミラ。助言ありがと。とても参考になったわ」
「はは!滅相もございません。
アナスタシア様のお役に立てて幸いです」
カミラが頭を下げる。
彼女が私によく仕えてくれていて、私のために助言してくれている事は分かっている。
でも、今回の件に関しては彼女の意見を鵜呑みには出来なかった。
私の心が落ち着かないのだ。
「ですが、例えアダムが何か考えていても相手は死刑囚です。
何も出来ないのではないですか?」
カミラは私の言葉で顔を上げる。
私の発言に対して、何か良い言葉が無いか探すように口元を動かしてから。
「それはそうですが・・・
あまり油断なされない方が宜しいかと。
もしもの場合がありますので」
彼女はやはりアダムの事を警戒しているようだ。
彼と会うことで私に不都合な事が起こると思っているようだ。
「大丈夫でしょう。いつも警戒しています。
それに、彼を会っていて問題を感じたら、その時に対応すればいい事です」
「はぁ・・・確かにそうですが。
わざわざ危険を冒す必要はないかと思うのですが」
しぶるカミラ。
私は彼女の手を取る。
「アナスタシア様?」
驚いたように目元をピクッと動かすカミラ。
「カミラ。あなたの心配は分かるわ。
でも大丈夫よ。私を信じて。情に流されて無謀な行動に出る小娘とは違うわ」
「はい。
勿論アナスタシア様はそのような人物ではないと信じております」
彼女は私の目を見てはっきりとそう告げる。
私の事を信じていると目で伝えてくる。
「よかった。それじゃ、今日はもう家に帰りましょうかね。
昨晩夜更かししたので少し眠たいのです」
「では、家につきしだいゆっくりと休養できるように準備いたします」
そうして、ゴトゴトと馬車は進んでいった。
時折揺れる馬車。
その際にカミラの表情を伺うが、彼女はアダムの件に関してはどこか納得していないようだった。




