24話 4日目:昼 【夫】面会(下)
【続・アダム視点】
アナは室内を観察し、最後に僕に視線をとめる。
前回は部屋に入ってきた瞬間抱きついてきたが、今回はそれはないようだ。
あたりまえか。
無実の僕を死刑においやった女であり。そのことが今では僕にばれているのだから。
さすがに抱きついてくる程頑丈な神経の持ち主ではなかったようだ。
「アダム、差し入れを持ってきましたの。カミラ」
「はい。アナスタシ様」
カミラが僕にクッキーを渡す。
前に貰ったものと同じだ。
思えば、僕はこのクッキーを涙を流しながら食べていた。
アナの愛情が詰まっていると勘違いして。
思い出すだけでムカムカして、その時の僕を殴ってやりたい。
『騙されるな!アナは悪魔だ!お前の事を恨んでいても愛情など少しも無いと』
でも僕は、満面の笑みを浮かべてクッキーを受け取る。
「ありがとうアナ。
前回も今回も。僕は君からクッキーを貰うだけで心が癒されるよ」
「そ、そうですか・・・」
彼女はまだどこか僕を警戒しているようだ。
「アナ。僕は許されない事をしてしまった。
その罪は簡単に消えるとは思わない。
でも、僕はまだ君の事を愛してるんだ。
それだけはわかって欲しい。例え、死刑になっても」
僕は彼女の手を両手で包み込みながら話した。
アナはどうしていいか分からないような表情で。
「え・・・はい」
とだけ。
アナの隣のカミラは、無表情で僕を観察している。
僕がアナに何かするんじゃないかと警戒しているのが伝わってくる。
僕はぱっと手を離す。
「アナ、ごめん。ついつい手を握ってしまった。
もう夫婦ではないのにね。
僕は離婚した事については仕方がないと思うよ。
君に被害を及ぼしたくは無いから、君から離婚を切り出されなかったら、僕の方から切り出したぐらいだ」
アナは驚いたように瞳をパチパチさせ。
「本当ですか?」
「勿論だよ。アナには僕がいなくなっても幸せに生きてもらいたいからね。
でも、僕は死刑になるような事はしていないんだ。
第三王女様は殺していない。別の犯人がいるはずだ。勿論、アナじゃないよ」
「そうかもしれませんね。
でもアダム、あなたは最後に会った時、私に何を言ったか覚えていますか?」
その事は言われると思った。
対処方法は考え済だ。
「あぁ、覚えてるよ。あの時はどうかしていたんだ。
死刑になって気が動転していたんだと思う。
だからアナにはひどい事を言ったと思う。本当に悪かったと思ってる。
でもあれば全て嘘だよ。口から思ってもいないことが出たんだ。
自分でもあんな事をいったなんて恥ずかしい。ごめん、アナ」
「そうですか・・・」
アナは僕の言葉をかみ締める様に聞いてから。
「ではアダム、私の事を恨んでいないのですか?」
「なんでそんな?そんな事思ったことも無いよ。
確かにアナは審問でよく分からない事を言っていたけど、あれは僕のためなんだろう。
君は自分の身を守らなければいけなかった。
だからそうしたんだろ。僕は納得してるよ」
「納得・・・ですか」
「そうだよ。全ては僕が不倫した事が悪かったんだ。
アナは何も悪くないよ。全て僕のせいだよ」
「そうです。悪いのはアダムですよ。
それを理解してくれて嬉しいです」
「アナ。悪かった。
出来れば、僕が死刑になるまでの間、こうして又会ってくれないから。
死ぬまで一度でも多く君と会って話したいんだ。
それが僕の最後の願いなんだ」
「・・・考えておきます」
「嬉しいよ。アナ。そういえば、あの時の事を覚えているかな」
僕は昔のアナとのエピソードを語った。
まだ仲が良かった頃の話だ。
新婚生活時代の楽しかった日々を一日を彼女に伝えた。
するといつの間にか時間が経っており。
「アナスタシア公爵令嬢、時間です」
バーニーの声が遮る。
「もう時間ですか?」
「はい」
僕は彼女の手を握り。
「アナ。とても充実した時間だったよ。
出来れば、もう一度会いたいんだ。
お願いだアナ。僕が死ぬ前にもう一度だけ来てくれないか」
「・・・考えておきます」
彼女はそういって部屋を出て行った。
アナの傍にいたカミラは、始終を僕を疑わしい目で観察していた。
全く僕の事を信用していないような目だったが、僕がそれを気にしなかった。
大事なのはアナであってカミラではないのだ。
確かにカミラはアナへの影響力は強いだろうが、アナ自身の感情よりは低い。
僕はアナがドアの窓から見えなくなるまで、ずっとアナの事を思って笑顔を作った。
アナが去ってから、バーニーがドアの窓に戻ってきた。
「伯爵。一体さっきのはなんですか?」
「なんだ、その漠然とした質問は?」
「さっきの事ですよ。
まるで本気で懺悔しているような姿でしたよ」
「それは感情を込めたからな」
「それに、なんですか。あの思い出話は?」
「良い話だろ。手紙に書こうと思っていた事を話すことにしたんだ。
おかげで数枚紙が無駄になった。
でも、実際にあの頃は楽しかったからな」
バーニーの目が白い。
何を言いたいかは分かる。
僕の嘘演技を批判したいのだろうが、気にしない。
これは駆け引きなのだ。
この勝負で勝たなければ僕は死ぬ。
「それでバーニー。どうだろう?
アナはもう一度来てくれるだろうか?」
「どうですかねー。分かりません。
彼女は戸惑っているようにも思えましたから」
「そうか、そう見えたよな。やっぱり」
「ええ」
「それじゃー、可能性はあるな。
早く手紙も頑張って書かないと」
「元気ですね。伯爵」
「当たり前だ。これを失敗すると僕は死ぬからな。
命がけとなれば元気も出るさ」
「そうですか・・・・」
呆れたようなバーニーの声。
「なに、バーニーも僕の立場。
元妻に嵌められて死刑になったら分かるよ」
「絶対に分かりたくないですし、その立場にはなりません」
「そうか、人生何があるかわからないぞ」
「そうですか。
多分伯爵と同じ事にはならないと思います」
バーニーのいう事も尤もだと思いつつ。
僕は手紙を書いた。




