20話 4日目 【妻】記念すべき日
【アナスタシア視点】
アナスタシア公爵令嬢は自室で紅茶を飲んでいました。
傍にはいつも通り、彼女の専属傍付メイド、カミラが控えています。
なんといっても今日は記念すべき日だから。
昨日夫と離婚した私の、記念すべき独身生活一日目なんだから。
こういう日は優雅に落ち着いて過ごしたい。
何でも始めの一歩が大事だっていうしね。
だから、今日はなるべく良い日にしないとね。
私は紅茶をゆっくりと味わって飲んでから。
昨晩の出来事を思い出す。
そういえば、あの時捕らえた者はどうなったのだろう。
カミラに全部任せたけど。
ちょっと聞いてみよ。
「カミラ、元お母様の屋敷で捕らえた者だけれど、全て吐きましたか」
「はい。アナスタシア様。
少々時間はかかりましたが、あらかた聞き出せたと思います」
さすがカミラ。
でも、少々時間がかかったってどういう意味だろう。
聞いたら教えてくれるだろうけど・・・
わざわざぼかして言っているので、あまり深く聞かないほうが良いかな。
私も聞きたくないし。グロい話わね。
「それでは、内容をお願いします」
「はい。
あの者たちは金で雇われ、4人でマリアンヌ夫人の暗殺を請け負ったそうです」
「まぁ、怖い!物騒ですわね」
ほんと怖い怖い。
時々暗殺の話は聞くけど、まさかね。
知り合いがその対象になるとは思ってもみなかった。
実際は体験してみると、感じるものが全然違うわね。
あっ、カミラがこっちを見て続きを話していいか伺っている。
私が話を切っちゃったみたい。
「カミラ、続きをどうぞ」
「はい。
マリアンヌ夫人がユヌス教団に捕らえられているのは、先日の騒動で街で噂されていましたので、彼らは金で一部の信者を買収してマリアンヌ夫人の具体的な居場所を聞き出したそうです。
教会の最上階の西の部屋に夫人がいると」
へぇー。
信者もお金で買収されるんだ。
そういう人達はお金で動かないイメージがあったけど、そうではないようね。
なんだかちょっとがっかり。
何モノにも影響されず、自分の信仰を貫く姿に憧れていたのに。
でも、仕方ないかもね。信者も色々いるだろうし。
ユヌス教団には貧しいものが多いらしいから。
あっ、ヤバ。
又してもカミラが私の反応を伺っている。
しっかり返事をしておかないと。
「そうですか。教会のその場所になりますと、中々いいお部屋なのかもしれませんね。
日当たりもよさそうです。窓を開けると良い風も入ってくるのでは?」
「それは聞いておりませんので、あの者に後ほど聞いておきます」
え?カミラがすっごく真面目な顔して謝っている。
しまった!適当に返事をしすぎたかな。
「まぁ!嘘よ。カミラ。今のは冗談よ」
「そうでしたか、うっかりしておりました」
ビックリしたー。
カミラって真顔でいうんだもん。
「もう。カミラったら。かわいいんだから。
話を折ってごめんなさい。続きをどうぞ」
「はい。
依頼主からは前金を貰っており、その一部を信者の買収に利用したそうです。
そして昨夜ユヌス教団の教会に侵入したのですが、夫人はおらず、教団に見つかり逃げ、もしやと思い夫人の家に行くと私達に遭遇したとのことです」
私の会話割り込みが無かったためか、カミラは言い終えてほっとしている。
でも、そういえば何故元お母様は自宅に戻っていたのでしょうか?
教団に囚われているはずでしょうに。
司祭も答えてくださりませんでしたけど、あの様子だと教団の意思ではないのでしょう。
時々でる、元お母様のスーパープレーの結果なのかもしれませんね。
今の私はもう、元お母様が何をやっても驚きませんから。慣れました。
「そう、分かったわ。
それで、暗殺の依頼主と目的はなんなのかしら?」
「依頼主については、街のごろつきです。
人相と居場所は聞き出し済みです。
目的なのですが、暗殺だけではなかったようです」
え?暗殺の他にも目的があったっていう事?
てっきりそれだけだと思っていたけど・・・
ちょっと興味が沸いてきたかも。
「といいますと?」
「なるべく体を切り裂き、盛大に血を撒き散らし、体には釘を打ち込み、死体は教団内に放置しろとのことです。第三王女と同じような状態にしてマリアンヌ夫人を殺すということです」
ふーん。
又、変な依頼ねー。
第三王女に似せて殺すなんて、随分マニアックな指示。
「それはそれは興味深いわね」
「はい。確かに」
「元お母様をその様な形で暗殺して教団に放置したら、民衆はユヌス教団の事を悪魔教か何かと勘違いするでしょうしね。
依頼主はユヌス教団に恨みでもあるのかしら」
そうでもなきゃそんな事しないと思うし。
そうやって殺す事に何かしらの意味があるのでしょう。
まさか、依頼主趣味ってわけでもないでしょうから。
「なんらかの関係はあるのではないかと」
「でもカミラ。
教団を解体とマリアンヌ夫人の暗殺を同時に望んでいる人はあまりいないと思いますよ。
案外簡単に依頼主が分かるかもしれませんね」
自分でいってなんだけど、ほんと、簡単に分かればいいんだけどね。
それが分かればこっちの動きだってある程度決めれるから。
もし何も分からないとなれば、考慮する事が増えて大変だし。
「私もです。いくつか目星がついております」
そうなの?良かったー。
一安心。
実は、ここで「誰も疑わしい者がいません」といわれたらどうしようかと思ってたの。
「さすがです、カミラ。
でも、まだ手は出さないで頂戴ね」
そうよ。
焦って行動は起こさないでね。
元お母様みたいにビックリさせられるのは心臓に悪いわ。
「勿論でございます」
「ですが面白くありませんね。
折角私が元お母様を牢屋にお送りしてあげたのに、他の者に暗殺されては。
まるで手柄を横取りされたようです。しかも随分下品なやり方で」
もし元お母様が暗殺されていれば、私の計画がなんだったのってなるしね。
暗殺なんてダサいマネで汚されるのはもっての他。
「私もそう思います」
「カミラ、情報収集だけは頼みますよ」
それだけなら相手が誰でも問題ないはず。
情報を探ったぐらいで抵抗してくる人は少ないだろうし。
「はい。
それと、アナスタシタシア様。
王城の方から連絡を受けております。
何でも、第三王女様が慰霊祭についていくつか助言を頂きたいと」
え?何だろう?
慰霊祭についてはそれ程詳しいわけじゃないのに。
「私にですか。元夫がその事件で死刑囚になったというのに」
「はい。
アナスタシア元夫人にではなく、社交界で有名なアナスタシア公爵令嬢に、是非にと」
元夫人ではなく、公爵令嬢にか・・・
随分相手は気を使ってくれている様ね。
「まぁ!面白いですこと。
いいでしょう。出向きましょう。独身になりましたからね。
社交界にも頻繁に顔を出す必要がありましょうから」
「はい。
それでですが、慰霊祭まで時間が無いので本日城に来て欲しいとのことです」
本日?
ちょっとそれは早くない?
「性急ですね。全く」
「どうやら、王城でも上の方からの依頼のようです。
伝達兵が通常と違いましたので」
それなら仕方がないのかもしれない。
ここで無理に断る必要もないでしょう。
「分かりました。すぐに準備します。ドレスはカミラに任せます」
「はい。アナスタシア様」
「公爵令嬢として初めての登城です。
昨日までの私と違いが出るものでお願いしますね」
「おまかせを」
私は控え室に移動し、登城の準備をしました。




