19話 4日目 【母】ほろ酔いの朝
【マリアンヌ視点】
起きて布団をめくりますと。
(痛!)
ぼんやりとした頭に、ズキズキとした痛みが走りました。
でもそれは始めての痛みではなく、慣れた刺激です。
その痛みは一度では終わらず、一定のリズムで痛みを頭に刻みます。
その刺激のリズムが頭を覚ましていきます。
これは飲みすぎた次の日に感じる、今となっては恒例の頭痛です。
昨晩はお酒を飲んだので、きっと二日酔いでしょう。
私が痛みから逃れるように辺りを見回しますと。
見慣れぬ部屋に、見慣れぬベッドです。
(あれ?ここは一体どこでしょうか?)
数秒頭をかしげ、今の光景に驚きますが。
すぐに私は落ち着きを取り戻します。
そうでした、昨日王城からユヌス教団に向かったのです。
騎士団は、息子が死刑になった私の身柄を押さえようとしましたが、教団の方が守ってくれたのでした。
それで暫くここに住むことになったはずです。
私の現状認識が追いつき、「ふぅー」と深呼吸すると。
再び頭痛がし、痛みをスイッチに昨晩の事を思い出します。
えっと、確かですが・・・
昨日はこのお部屋でお酒を飲んでいて・・・
それから・・・
だめです。
それ以上のことを思い出せません。
でも、何か色々あった気がします。
この部屋から出たような気も。
それに、外で星を見たような気もしますが・・・
(気のせいでしょうか?)
しかし、思い出そうとしても記憶を進められません。
又です。
やはりお酒を飲むと記憶が怪しくなるようです。
もうお酒を飲まない方がいいのかもしれません。
こんな風に頭痛がし、記憶がなくなるのはつらいのです。
記憶がない間に私が何をやっていたかと思うととても不安になるです。
その間の私は、私であって私でないのかもしれません。
自分で自分が信じられなくなるのです。
こんな思いをするのであれば、もうお酒は飲まない方がいいでしょう。
でも、いくら今そう思っても効果はないのです。
今までも同じような気持ちを抱いた事はありましたが、現に今日までお酒を飲んできているのですから。
私の行動がその考えを証明しています。
今は止めたいと思っても、夜になればお酒を飲みたいと思ってしまうのです。
それが私なのです。
トントン
トントン
悲観にくれていると、扉をノックする音。
私は気を取り直して調子を取り戻します。
「はい」
「マリアンヌ夫人。朝食をご用意ができております。
ご準備が出来ましたら、食堂までお越しください」
「分かりました」
「失礼します」
私はすぐにベッドから移動し、顔を洗って化粧をし、身支度をします。
これから食堂ですか。
多くの信者の方がいると思いますが、仲良くできればいいのですが。
昨日はあまりお話できませんでしたから。
食堂に下りると、そこにはブラッドリー司祭。
司祭はいつもの様に柔和な笑みを浮かべています。
彼は私と目が合うと、目元を緩めて。
「マリアンヌ夫人。おはようございます」
「ブラッドリー司祭、おはようございます」
「どうでしたでしょうか。昨夜はよく眠れましたでしょうか?
初日ですと、中々上手く寝付けない信者もいるものですから」
「いいえ、心配要りませんわ。ぐっすりと眠れました」
「それは良かったです。
昨夜は少し騒がしかったですから心配しておりました」
はて?
何やらあったのでしょうか?
私はお酒を飲んで記憶があやふやなため心当たりがありません。
ですが、ここは話を合わしておきましょう。
お酒の事は知られたくありませんので。
「ご心配なく。私はあまり気になりませんでしたよ」
「そうですか。それはよかったです。
しかし、体に違和感もないのでしょうか?
普段と違う寝具ですと、疲れが取れないこともありますから」
そういわれて体に意識を向けると、確かに疲れの様なものを感じた。
でも、それをわざわざ口に出す必要もないと思う。
気を使わせてしまってはいけない。
私はこちらの施設でお世話になっているのですから。
「大丈夫でしたよ。お布団の良い物の様でしたので。
私にはもったいないぐらいです」
「それは幸いです。
では、こちらに朝食を用意しておりますので」
そうして私は朝食の席に着きました。
朝食の席でも、やはり祈りの言葉が入りました。
昨夜の夕食と同じように、私はその文言を聞きながら、彼らと同じポーズをとります。
やはり一人だけ浮くのはさけたいのです。
その後、朝食を終えた私は部屋に戻ってゆっくりする事にしました。
この建物についてまだ一日も経っていないのです。
昨日の夕方頃にここに来たばかりですから。
私は部屋に用意されている服や化粧品を確認しました。
教団の方が私のために揃えてくれたのです。
十分な量の物がありました。
普段私が使用しているものよりも質が良い物ばかりです。
彼らは気を使ってくれたようで、申し訳ないです。
しかし、やはり服や化粧品は自宅にある馴染みの物がないと寂しいですね。
自宅に帰って取ってきたいところですが、私が教団の敷地の外に出向くと騎士団に囚われてしまうかもしれません。
折角教団の方々に匿われているのですから、みすみす危険を冒すことは出来ません。
その行為は彼らの行為を無駄にするものなのですから。
それですと、教団の方にお願いして服や化粧品を取ってきて貰う事は可能でしょうか。
いいえ、少しづうづうしいかもしれませんね。
それは止めておいた方がいいかもしれません。
でも、もし教団側から聞かれれば・・・
その時はお願いしてみてもいいのかもしれません。
私は椅子に座りながら窓の外を見ます。
青い空がよく見えますし、いい風が入ってきます。
今日は良い天気のようです。
ですが、こうして窓越しに空を見ていると。
ふと、何かデジャブを感じるのですが。
確か・・・
自信はないのですが・・・
昨晩もこうして外を見ていた気がします。
私は椅子から立ち上がり、窓によります。
この部屋の窓は人が通れる程大きいです。
それに、窓枠の直ぐ下には屋根があるので外に出る事も可能です。
屋根の上で日光浴をすれば、とても気持ちがよいのかもしれません。
屋根に上って王都を眺めると、一体どんな風に見えるのでしょうか?
そう思うと、ふと景色が頭の中に浮かびます。
それは漠然としたものではなくとても鮮明な画像で・・・
しかも辺りは暗く、夜の王都の姿で・・・
あれ?
あれあれ?
あれあれあれ?
私はこの屋根の上に上った事があるのかもしれません。
もしかしたら。
昨晩記憶を失っている内に私は、この屋根の上に上ったのでしょうか?
そんな事がありえるのでしょうか?
もしかしたら、記憶を失っている間の私は屋根の上から夜の王都を眺めていたのでしょうか?
ですが、今の私にはその答えが分かりません。
上っていないともいえませんし、上ったともいえません。
頭の中に浮かんだイメージ、風景は私の想像に過ぎないかもしれないのです。
これまで見た色々な風景が混ざり合い、自動的に頭の中に描かれたのかもしれません。
私はそのイメージを実際に見た景色と勘違いしたのかもしれないのです。
そうです。
そうに決まっています。
私に教会の屋根に上った経験などないに決まってます。
昨日初めてこの教会に来たのですから。
私はそう思うことにしました。
なぜなら、その方が私の心にとっては良かったからです。
もし、私が屋根に上っているとなれば、何か良くない事に関わっている気がしてならないのです。
屋根に上っただけならいいのですが、他にも何かしているようでならないのです。
それが思い出したくない記憶の入り口なのかもしれないのです。
そう、心がぞわぞわしたのです。




