17話 4日目 【第三王子】激怒
【クラウディウス視点】
「な、ななな。なんたること!またしても失敗したのか!
どれだけ私をコケにすれば気が済むのだ!
まだ足らんのか!」
翌朝。
報告にきた従者の二アに対して、第三王子は怒鳴っていた。
「はは!申し訳ございません。
クラウディウス様。誠に不甲斐ないばかりに」
「気にするな。ニア。
私は二アに怒っているのではないのです。
私の運命に怒っているのだ」
こうも不幸続きとは・・・
いっそ神頼みでもした方がいいのかもしれない。
これまで祈祷師や占いなどは信じてこなかったが、こうなればそれらを呼ぶのも一興かもしれない。
それ程、自分の思い通りにならない事態は不快なのだ。
一部の貴族や王族が胡散臭い儀式に嵌る理由も分かったかもしれない。
決してそのような事など分かりたくもなかったが。
「それで二ア、具体的にはどうなったのです。
暗殺が失敗したのは分かりましたが」
「はい。
放っていた斥候によりますと、マリアンヌ夫人の暗殺は失敗し、暗殺者は教団とアナタシア公爵令嬢に捕らえられたようです」
くっ。
ミスミス敵の手に落ちるとは・・・
捕まるのであれば自害するような気概が欲しいものだが、所詮金で雇った者か。
そこまで望むのは無理な事か。
それよりも・・・意外な名前が出たな。
ユヌス教団はいい。
でも、もう一人の名前は気がかりだ。
「二ア。今、アナスタシア公爵令嬢といったか?」
「はい。クラウディウス様」
聞き間違えではないようだ。
でも、おかしいではないか。
何故そこに彼女の名前が出てくるのか。
何故公爵令嬢が夫人を狙った暗殺者を捕らえるのだ。
「よく分からないので説明を頼む。
何故、公爵令嬢が暗殺者を捕らえたのだ?
意味が分からん」
「はは。教団での暗殺に失敗した暗殺者は、その後、マリアンヌ夫人の家に行ったようで。
そこに偶々いた公爵令嬢に捕らえられたようです」
偶々いた・・・
夫人の家に・・・
それは本当か?
偶々いるものなのか?
「ニア、確か暗殺は深夜だったはず。
何故そのような時間に、公爵令嬢という身分の者がそのような場所にいるのだ?
貴族の間では、肝試しでも流行っているのか?」
「いえ、そのような噂はないかと。
しかし、公爵令嬢が何故マリアンヌ夫人の家にいたかについては、詳しくは分かりません。
彼女が夫人の家にいる理由などないはずなのですが」
だろうな。
私も公爵令嬢がいる理由が思いつかない。
深夜、他人の家に忍び込むのは盗人ぐらいだろうが。
さすがに公爵令嬢はそんな事はしないだろう。
それよりも疑問に思うことがある。
「だが、そもそも何故、マリアンヌ夫人が自宅に帰ってるのだ?
ユヌス教団に囚われていたのではないのか?
騎士団と争ってまで勝ち得た場所だというのに、何故それを捨てる?」
そうだ。
犠牲を払ってまで手に入れた場所から離れる意味が分からない。
マリアンヌ夫人は何故自宅に戻っているのか。
不思議でしかない。
「はは。そうなのですが。
斥候によりますと、どうやら夫人は教団から自宅に移動したようなのですが、具体的にいつ移動したのかは分かりません。
それに、自宅にいた夫人を教団に戻した事を考えると、教団の意思ではないように思えます。
わざわざそんな面倒な事はしないでしょうから。
すると、何かしらの理由があって夫人自ら教団を抜け出したと考えるのが自然かと」
夫人自らか・・・
教団に馴染めず、自宅が恋しくでもなったのだろうか。
だがそれはないか。
教団に匿われて一日でそれはない。
なら、もしくは、最初から夫人は教団に匿われたくはなかったのかもしれない。
教団の方から一方的に匿う提案をされて頷いたが、やはり嫌になったのかもしれない。
うーむ。
「分からない事だらけだ。
何故夫人は教団におらず、夫人の家には深夜に関わらず公爵令嬢がいる。
本当にその報告は合っているのか?」
そうだ。
そもそもの情報が間違っているのはないか。
「はぁ!私も疑い、何人かの斥候に確認していますので間違いないかと」
そうか。間違っていないか。
だが、それなら一体どうなっておる。
全く持って分からない。
何故私の予想通りに事が運ばない。
「ニア。公爵令嬢は暗殺者を捕らえたのだな?」
「はい」
「そうか・・・」
これまでの二アの説明を聞きつつも、不安しか抱かない。
なぜマリアンヌ夫人は教団におらず。
公爵令嬢は深夜に夫人の自宅にいたのか。
この際夫人はおいておこう。
教団が嫌になって逃げただけなのかもしれない。
しかし公爵令嬢は気になる。
彼女は夫人の元親族であるから、夫人の家に何か用事でもあったのかもしれない。
いや、もしかしたら、元々夜に夫人と密会する予定だったのかもしれない。
そうだ。
公爵令嬢はマリアンヌ夫人と合い、何か話し合う予定だったかもしれないのだ。
深夜に婦人の家で会うとなると、誰にもばれずに話し合うことが出来るだろう。
そうした場合、そうまでして話し合いたい内容はなんだろうか?
それはきっと、表には出せないような情報に違いない。
他の人に聞かれたらまずく。
夫人と公爵令嬢が会っていると知れてもまずい。
もしかしたら・・・
公爵令嬢は何かしら、私の事に気づいているのではないか?
彼女はアダム伯爵の元妻であり。
不倫された側であり。
不倫相手の第三王女へ憎しみを抱いていたのは間違いないだろう。
それなら、私の事に関しても知っている可能性がある。
まずいな・・・・
もしそうなら、とてもつもなくまずい・・・
そんな彼女が今回の暗殺を知ったとなれば由々しき事態だ。
「二ア、あえて聞くが。
暗殺者からこちらへ繋がる可能性は万が一もないのだろうな?」
「はは。それはありません。
しかし、金で動く半端物を雇ったばかりに不甲斐ない結果になってしまいました。
申し訳ありません」
そこは問題ないようだな。
でも、完全に痕跡を消す事は出来ないだろう。
夫人が暗殺されそうになったという事から、ユヌス教団も公爵令嬢も、依頼元の推測ぐらいはするはず。
もし、その中に私の名前が入っていれば・・・
「ニア、終わった事はいい。
だが、公爵令嬢とユヌス教団には、夫人の命が狙われている事を知られてしまったわけだな」
言葉に出して思考を確認する。
「そうなります。
しかし、こちらの仕業と推測するのは材料は少ないかと」
それはニアの言うとおりだろう。
通常の場合、今の状況で私が疑われるのは可能性は低い。
しかし、相手が何か+αの情報を持っている場合は別だ。
公爵令嬢はその可能性があるのだ。
困った・・・
とても困った・・・
けれど、公爵令嬢が怪しいからといって、こちらから仕掛けるとさらに疑いを生んでしまう。
だが待てよ。
考え方を変えれば満更悪い事態ではないのかもしれない。
そうだ。
私は第三王子なのだ。
その権力をもってすれば、大概の事態は水に流せる。
貴族なら、誰もが王族には逆らわないものだ。
「ニアよ、もしかすると、これは好機やもしれん。
そう思わないか?」
「と、いいますと?」
ニアは私の言葉を確かめるように問う。
「ユヌス教団は、夫人を匿うのに無駄なリスクは負いたくないだろう。
暗殺されれば自分達が疑われる事は分かっているはず。
それに公爵令嬢の立場としても、不倫相手の母の事をどう思っている事やら。
憎らしい元夫の事を思い出すような人には会いたくないのでは。
よしんば、いなくなって欲しいと思っているのでは?」
きっぱりと言い切り、ふんわりとした白髪の美少年、二アの反応を伺う。
彼にも私が言いたい事が分かったようだ。
「さすが、グラディウス様。
そうしますと、双方を懐柔するのですね」
ニアは私を輝く目で見ている。
全くよさないか。
恥ずかしい。
だが心地よいのも確かだ。
「よし、すぐに二者を呼べ。反応を見る。
勿論暗殺者との結びつきを疑われないように、適当な用事向きは頼んだぞ」
「はは!それ相応のお題目をつけておきます。
いくつか利用できるものがありましょう」
「そうか、では頼んだぞ、ニア」
「はあ!」
部屋を出て行くニアを見送りながら、私は今後の策を考えた。
まだ、まだ私はまずい状況に追い込まれていないはずだ。
それならなんとかしのげる筈である。
何、焦らずじっくりと行動すれば・・・
全て上手くいくはずだ。




