13話 3日目:夜 【母】夫人
【マリアンヌ視点】
ユヌス教団の信者は皆で一緒に夕食を召し上がるようです。
大きな食堂に集まり、祈りの言葉を呟いてから食べます。
その祈りの言葉が中々長いものでして、私はついついその儀式になれずに心をそわそわさせてしまいました。
私は信者ではなくお客様なので、特に何もしなくていいようですが。
それですと物凄く浮いてしまいますので、同じようにマネをしました。
実際、私だけ黒ローブを着ていませんので、浮いている事は事実なのですが、少しは溶け込む努力をしていると示したいのです。
夕食後。
私は部屋に戻って休んでいました。
突然生活環境が変わり、多くの人との共同生活になったためですか。
一人の時間が欲しかったのです。
私は食料庫から頂いてきました、酒瓶を手に椅子に座ります。
やはり心が寂しくなるとお酒を飲みたくなるのです。
やめようと思ってもやめられません。
それに私の人生は後少しでしょうから。
今になって習慣を変える必要もないと思うのです。
夕食の時、私は勇気を振り絞って息子の事を聞いてみました。
息子は審問でどんな結果を受けたのか。
すると教徒の方は教えてくれました。
「死刑」になったと。
その情報、息子の死刑はショックでした。
ですが心の隅では分かっている事でしたので、思ったより衝撃は少なかったのです。
息子が死刑になりますと、私も死刑になる確率が高いはずです。
なんせ王族殺しなのですから。
そんな私が今さら禁酒をしても意味はありません。
余命が少ないの者が健康を気にしても意味は無いのです。
どうせなら酔ったままこの後の人生を過ごしたいと思う程です。
私が何杯目かの酒を飲んだ時、窓の外に動く影を見かけたような気がしました。
目をこすって再度見ますが、何も見えません。
きっと気のせいでしょう。
酔ってありもしない幻影を見たのでしょう。
この教団は警備が厳重そうなので、そう簡単に進入できないと思います。
それに一体、この教団に進入して何を盗ろうとするのでしょう?
有力貴族の家でもありませんし、金目のものはないでしょう。
いいえ、あるのかもしれませんね。
こちらの教団は中々ブルジョワなのかもしれませんので。
ですが、わざわざ大勢の信者がいる教団に忍び込んで盗むより、貴族の家を狙ったほうが効率がいいでしょう。
それぐらいは盗賊も考えると思います。
そんな当たり障りの無い事を考えながら飲んでいますと。
気づくとコップが空になっていましたのでお酒を注ぎ足します。
コップが空だと心が落ち着かないのです。
飲む気が無くても反射的にコップにお酒を注いでしまいます。
するとコップにお酒があるので飲んでしまいます。
さすれば、コップが空になっているのでお酒を注いでしまいます。
つまり私はこの無限ループに陥ってしまったのです。
(コップ空→お酒注ぐ→飲む→コップ空 ※以降繰り返し)
コップにあるお酒をぐいっと飲み干します。
意識がぼんやりとする程心地よいです。
気を抜くと、このまま寝てしまいそうです。
それに体が熱くなってきたからでしょうか、夜風に当たりたくなってきました。
今すぐにです。
体全身に夜風を当てたいのです。
でも、部屋の外にはメイドが控えています。
酔っている姿を彼女に見られたくありません。
肩書きだけの貴族かもしれませんが、私にもそれぐらいのプライドがあるのです。
部屋から外に出る方法は、扉以外には一つしかありません。
窓から外に出るしかないのです。
ここは最上階の部屋ですので、上手くすれば屋根に乗れるのです。
さっと上って星を見ましょう。
酔っているためかとても良い考えに思えるのです。
久しぶりにドキドキします。
酒瓶とコップを持って窓から外に出ようとしたのですが、両手が塞がっていました。
しばし考えた私はコップを机に置きましたが、酒瓶は手放しません。
そうして屋根に上りました。
◇
お酒を飲みながら星を眺めていると、少々下の方が騒がしい気がしてきました。
何かあったのでしょうか?
それとも私の幻聴でしょうか?
とりあえず持ってきた酒瓶をラッパのみして一口飲みます。
行儀が悪いですが、今はこの飲み方しかありません。
お酒が喉を通っていく感覚と、ゴクゴクという音がずれて聞こえます。
これは酔っていますね。
少し時間を置いて酔いを醒ました方がいいのかもしれません。
夜風に当たりながら、夜空一面を見ながらお酒を飲むのは実に清々しい気分です。
あっ、今、星が流れました。
それにやっぱり下が騒がしいです。
気のせいじゃない気がしてきました。
幻聴ではないのかも知れません。
ちょっと様子を見てみた方がいいですね。
少し下の様子を見たほうが。
もし火事でも起こってもいたら大変です。
私の事を探してメイドさん役の信者の方が右往左往しているのかもしれないのです。
そんな迷惑をかける事はできません。
そうです、チラッと見てみます。
私が屋根から移動し、自分が先程までいた部屋を窓の外から見ようとしますと。
見知らぬ人が部屋に入ってきています。
誰でしょうか?
黒ローブを着てはいますが、この建物内で見たことは無い人です。
『お、おい、いないぞ。ここにいるはずだろ?
何故いない?』
『情報ではここだと聞いている』
『襲撃がどこからかばれたのか?』
『いいや。そんな事はないはず。部屋の中に隠れているのかもしれない。
ベッドの下や箪笥の中を探そう』
二人は部屋の中を探しています。
一体何を探しているのでしょうか?
私も手伝った方がいいのでしょうか?
なんだか、宝探しのようで楽しそうです。
一緒に遊びたくなりました。
『いないぞ。やっぱりいない。
この部屋で間違いないのだろう?』
『それは間違いない。なら、事前に情報が抜けていたのかも』
『どうする?他の部屋も探すか。
何もしなかったら残りの金がもらえないだろ』
『撤収した方がいいんじゃないか。
情報に違いがあったか、漏れていたんだ。この案件は怪しい。
ここで逃げた方がいい気がする』
『でも、ほとんど金をもらえないぞ。
それにこの依頼をミスしてもいいのか?』
『知らん。撤収した方がいいだろ』
侵入者の二人は困っているようです。
そんな事より早く私の部屋から出て行って欲しいのですが。
ちょうどベッドで横になりたいと思ってきましたので。
『おい!貴様ら、何やってる。ここはマリアンヌ夫人の部屋だぞ』
おや。
信者の方々が部屋に入ってきたようです。
見慣れぬ二人と睨みあっています。
なんだんか面倒な事になっているようですね。
それでしたら、私は家に帰って寝ましょう。
そうしましょう。
自分の家で寝るのが一番いいのです。
酒を一口飲むと、そのとたんに良い気分になりました。
私は騒がしい部屋を後にし、屋根を伝って地面に降りました。
それから見つからないようにこっそり教団を後にしました。
◇
暫く歩くといつの間にか家についていました。
その道中までの記憶がありません。
それにいつの間にか酒瓶が消えていました。
どこにいったのでしょうか?
あの酒瓶はいったいどこに?
まぁ、いいですね。
些細な事は。
それにしてもやはり自分の家はいいです。
落ち着きます。
体が安らぎ、心に平安がおとずれます。
私は自分のベッドにドサっと倒れます。
安心の匂いです。
その匂いを嗅いでいると精神が落ちついてきます。
それにフワっと布団に包まれて夢見ごこちです。
思わず寝てしまいそうです。




