12話 3日目 【妻】家
【アナスタシア視点】
うそっ!元お母様ったら、王城から逃げ出したみたい。
まさかそんな積極的な行動が出来るとは思わなかった。
直ぐに諦めて、10歳ぐらい老けた様にぐったりと椅子に座って、大人しく捕らえられるかと思っていたのに。
全く、フキンを投げつけてきたり、審問場で暴れたり、元お母様には驚かされてばかり。
ここまで私の予想を裏切る人は中々いないわ。
ほんと新人類で貴重種。
一体、どうなってるのよ?
私は審問から帰ってきた後。
自室で紅茶を飲みながら、元お母様のご活躍を耳にしていた。
「それでカミラ、元お母様、マリアンヌ夫人がユヌス教団に囚われた話は本当ですか?」
今さっき聞かされた話が信じられないので、ついつい確認してしまう。
「さっきの話は嘘でした」と言われたら、「やっぱり、そうよね」っと反射的に頷いてしまうと思う。
それぐらい驚いている。
だってねー、王城から抜け出したんだもの。
騎士たちが追ってきてもそれをくぐりぬけて。
そんな事ありえるの?
「はい。間違いないかと。
教団本部にて、マリアンヌ夫人を王城に引き渡すか渡さないかで、市民を巻き込んで騎士団とユヌス教徒が対立したようです。
人々の間で噂になっています」
まさかねー、あの虫も殺せないような元お母様がそんなことを。
人は見かけによらないわね。
そんな騒動の中心が元お母様だなんて。
「ですが、よくもまぁ、王城から脱出できましたね。
王城の警備が軽いとは思わないのですが」
そうよ。
城内では多くの騎士を見かけたのに。
それをかいくぐるってどういう事よ?
そもそも色々ゴタゴタがあって話題になっていないようだけど。
第三王女が夜城を一人で抜け出す事だって大問題でしょ。
それと今回の事をあわせると、王城の警備って問題大有りなんじゃないだろうか。
はっきりいってまずいと思うわ。
ざるすぎでしょ。
若い女の子や、素人集団に突破される警備はどう考えても擁護できないでしょ。
警備主任は・・・お父様のお友達のベネット侯爵だけど。
可哀相。
多分、今回の事で処分は免れないんだろうな。
良い人だし、アダムに会う為に便宜を図ってくれたけど、さすがに今回の責任は取らざる終えないと思う。
もしかしたら、アダムと一緒に打ち首になるかもしれない。
ベネット侯爵にはなんの恨みもないので、そんな事にはなってもらいたくないんだけど。
今度、王城に行ったら顔ぐらい見に行ったほうがいいかな。
私が思案していると。
カミラが返事をするタイミングを伺っていたので、私すぐに笑顔で促す。
「王城の警備にもある程度の人数は割かれていたようですが、ユヌス教徒が非武装のため躊躇したようです。
又、ユヌス教徒が人数で圧倒した事と、隙を突いた事が大きかったかと」
へぇー、そうなんだ。
やっぱり一般市民には無理な暴力は行使できないみたいね。
こんな様な話、前に本で読んだ事あるわ。
確か・・・
「人数と奇襲ですか。
古典的とはいえ、市民も集まるとやっかいですね」
「はい。アナスタシア様。
一人一人はたいした事ありませんが、数が集まりますとやっかいでございます。
他の貴族とは違った意味で注意せねばならないかもしれません」
そうよね。
もし、いきなり大人数で私の屋敷に詰め寄られてでもしたら、すっごく困るし。
彼らを無意味に敵にはしない方がいいわね。
「私も彼らに対しては軽視しすぎていたのかもしれません。
これから少し見方を変えます」
「さすがお嬢様。
環境の変化に柔軟でございます。
ですが、今回の事に関しては私も気を引き締めたいと思います」
いやいや。
カミラはいつも色々注意しているから問題ないと思うけど。
もっとゆるくても私的には問題ないんだけどね。
「でも、彼らが何故その様な行動をしたのでしょうね。
お母様はユヌス教徒ではないのでしょう?」
そうなのよ。
その点がよく分からない。
なんで元お母様をユヌス教団が文字通り体を張って守っているのか。
そんな人望がお母様にあった事に驚きよ。
確かに色々驚かされる人だけど。本当になんで?
「マリアンヌ夫人はここ数日ユヌス教徒と頻繁に会っておられますが、信者ではないようです。
どういう関係なのかは定かではありません。
ユヌス教徒の目的についても不明です」
さすがのカミラも不明か。
「でしょうね。
お母様を助ける事が彼らの利益になるとは思えませんもの。
隣人愛が教義だと言っていましたけど、まさかそれが理由でしょうか?」
「一部はそうなのかもしれません。
宗教団体は一般の組織とは別の動機で動く事もありますでしょうから」
別の動機ね。
その言葉が鍵になってか、私はつい数時間前のこと、王城内で一場面を思い出す。
ユヌス教徒の集団とすれ違った時の事を。
「そういえば、王城ですれ違った時、あの黒ローブの中にお母様もいたのね」
「そのように思います。あの時気づいていればよかったのですが」
カミラは申し訳なさそうに頭を下げる。
まるで自分の失態を深く嘆いているかのように。
「カミラ、頭を上げて。
あの時の事は仕方がないわ。それに気付くのは無理でしょう。
私だって自信はなかったもの」
「はい。申し訳ございません」
カミラが今だに悔いているようなので、早急に話を変えなきゃ。
あまり彼女が悲しんでいる顔は見たくない。
「でも、城から浚ったり、教団で匿っているという事は、ユヌス教団は元お母様を救いたいのでしょう。一体、どうするつもりなのでしょうね」
「その件に関しては、難しいと」
でしょうね。
死刑になるような人を庇うのは無理でしょうから。
「やはり、お母様の死は決まったようなものですね?」
「はい。
アダム様が死刑になるのであれば、追ってマリアンヌ夫人も死刑になるかと。
さすがに王族殺しで裁かれる人が一人だけでは、王城の面子にも関わりますので」
それは良かった。
このまま元お母様に生き延びられては、私のプライドが許しません。
一度消えてもらうと決めた人には、ちゃんと死んでもらわなければ。
でも、元お母様が死刑になっても、犠牲者は二人。
第三王女様の死に対して、貴族二人の死。
それで王城は満足するのでしょうか。
足りないような気もしますね。
そこまで王族の命が軽いとはなりませんでしょう。
それで追加となるならば・・・
今思いつくところでは、王城の警備主任のベネット侯爵が最有力なのかもしれないわね。
生贄の。可哀相です。
ですが、最終的にはその辺りは政治力の問題かな。
ともかく、元お母様については死刑確定のままでしょう。
「という事は、死刑までの元お母様の居所が変わったぐらいですか。
教団の本部と王城の個室。
元お母様にとってはどちらが居心地がいいかは分かりませんけどね」
「はい。そうなりますかと」
それじゃー問題ないかもね。
元お母様が残り少ない余生をどこで過ごそうが、私は気にしないから。
あれ?でも、待って。
そうよ、あれよあれ。
思い出した。
元お母様は審問でちょっと気になる事を言っていたんだった。
「カミラ」
「はい。アナスタシア様」
「そういえば審問で、元お母様は耳に残る発言をしていたと思うのだけど。
確か、自分が第三王女を殺したと。血まみれの服がどうこうと」
「確かに、その様なことをおっしゃっていました」
「あの件、どう思いますか?
ただの苦し紛れの嘘でしょうか?」
私はあの証言がひっかかっていた。
いくら息子を救うためだとしても、あの様な事を彼女が言うだろうか。
それはどこか奇妙な発言の様に思えた。
「どうでしょうか。完全に嘘だとは思えません。
マリアンヌ夫人は策をろうするタイプではないかと。
それに第三王女様を殺してはいないと思います。
それならば、血まみれの何かは本当に家にあるのかもしれません」
やっぱりそうよね。
元お母様の性格を考えると作り話をするタイプだとは思わないし。
それならちゃんと処理しておかないと。
「それは見逃せないわね。
ユヌス教団が元お母様を庇う理由もそのあたりにあるのかもしれません」
「はい。アナスタシア様」
「カミラ、すぐに手配をして元お母様の家の捜索を。
彼女が家を離れているのは確かなのですから。
それなら難しくはないのでしょう」
「はい。お嬢様。
今夜中に終わらせます」
しゃきっと返事をするカミラを見ていると、私は笑みがこぼれてくる。
この前は騎士団に家の中をめちゃくちゃにされたけど。
実は私、宝探しは大好きなの。
それに夜となれば、神秘的でドキドキするし、とっても楽しそう。
私も一緒にいっちゃおうかなー。
「ふふ、頼みますよ」
「お任せください。アナスタシア様」
部屋を出て行くカミラを見送りながら、私は紅茶を喉の奥に流し込んだ。
彼女を見て、一つの妙案について考えながら。




