10話 3日目 【夫】バーニーと(下)
【続・アダム視点】
「悪かったバーニー。ほんの出来心だったんだ。
君に不快な思いをさせたのなら謝るよ」
「急に謝らないで下さい。
別に髪を触られたぐらいで怒りません」
「そうか、よかった。それは安心したよ。
バーニーに嫌われたら、ここでの生活は大変心苦しいものになるだろうからね。
食事に細工されるかもしれない」
「随分現実的ですね。それで伯爵。どうなんですか?」
んん?
何を言ってるんだバーニー。
どうなんですって何が?何を聞きたくて僕を眺めてるんだ。
「伯爵、変な目で僕を見ないで下さい。
公爵令嬢が犯人だと思う理由ですよ?
それを私が聞いたら、突然伯爵が黙って、髪を触ってきたんじゃないですか?」
あっ、そーだった。
ついついバーニーの髪いじりに夢中になって忘れていた。
「もしかして、忘れていたんですか?」
「そんな事あるわけないだろ。
その件については、よくよく考えたらアナが殺したかどうか分からない。
でも、あの性格の悪さと僕へのとんでもなく醜い対応から考えるに、殺していてもおかしくないと思う。
そうだ、人格的に犯人だと思う。それが証拠だ。」
「はぁー」っと分かりやすいため息をつくバーニー。
ガッカリしたという雰囲気が体中からでている。
「伯爵。分かってると思いますが、それじゃ無理ですよ。
公爵令嬢を犯人として断定できません」
「僕もそう思う。そこは意見が一致したな。一歩前進だ」
「伯爵。真面目にやる気あるんですか?」
「あたりまえだろ。僕の命がかかってるんだ。後、多分母の命も。
そういえば、母はどうなったんだ?
審問の途中で強制退出になったようだけど」
そうだ。
今まではアナに対して怒りを抱いてすっかり忘れていた。
母はアナが本性を見せる前に審問場から連れ出させてしまった。
「確か、騒ぎになっていましたね。
何でもユヌス教団に匿われているらしいですよ」
え。なんだって。
ユヌス教団?
確か市民に人気の似非宗教団体だったか。
「なんでそんな事に。母は信者でないはずだが」
「僕に聞かれても分かりませんよ。
ですが良かったんじゃないですか、騎士団も簡単には手出しできないようですから。
暫くお母様は無事でしょう」
「そんなヤバそうな宗教団体に囚われて安心できるか!」
「怒鳴らないで下さい。私はなにもしてないんですから」
ついつい叫んでしまった。
「ごめん。僕が死刑になったから、母も死刑になるのか?
王族殺しの場合は、そういうのが多いのだろう?」
「どうでしょうね。まだ何も決まっていないのでよく分かりません。
貴族や市民の反応を見ながらになるのでは。
様は王族の権威が守られればいいのですから」
ほー、若い騎士にしては中々しびやな事を言うものだ。
僕はバーニーを見ながら「ふむふむ」と頷いてしまう。
「なんですか。気持ち悪い。変な目で見ないで下さい」
「別に悪い視線じゃない。
バーニーは若いのに世間慣れしているなと。
だって18だろ」
「あれ?伯爵、私、歳いいましたっけ?」
「なんとなく分かるだろ。顔とか体つきで。
僕も元18歳だから」
「そうですかー。変なところだけ鋭いのですね。
その観察眼があれば、公爵令嬢に嵌められずに済んだのではありませんか」
「今となっては遅いが、確かにそう思う。
ふふ、僕は一体この3年間、彼女の何を見てきたんだか。
一応夫婦だったんだけどね」
バーニーは数秒間を空けてから。
「相手の方は公爵令嬢ですから、政略結婚か何かですか?」
「違う。恋愛結婚に決まってるだろ。
僕がそんな事するわけ無いだろう」
彼は「それもそうか」と小さく頷き。
「そうですか。でも、よくあの公爵令嬢を好きになりましたね。
僕は無理ですね。一目見てやっかいそうな人だと思いました。
一緒にいるのに体力がいりそうな人だと」
バーニーの観察眼は若くして中々鋭いらしい。
羨ましいぐらいだ。
僕も数年前にそれぐらいの観察力がほしかった。
「昔は良い子だったんだ。つい数日前までは・・・
なんであんな女になったのか。それとも元々ああだったのか。
僕には何が何だか分からないよ」
本当に分からない。
一体、いつからアナがああなのか?
どのアナが本物なのか。
そんな僕をバーニーは若干驚きながら見る。
「伯爵。ひょっとして、こんな目に合わされたのに。
まだ公爵令嬢の事を好きなのですか?」
バーニーの言葉が心に刺さった。
どうなのだろうか?
アナの事を考えると、殺したい程の憎しみが湧き出てくる事は間違いは無い。
その姿を思い出すだけでに苦々しい気分になる。
でも、好きかと、愛しているかと聞かれれば、完全に拒否する事も出来ない。
「よく分からない。だが、憎い事だけは確かだ」
「複雑なのですね。僕は結婚した事が無いので分かりませんが」
「そうだな」
「でも、どっちにしろ伯爵の時間は短いので早くどうにかした方がいいですよ」
彼の言葉で僕の心にひやっと冷たい風が吹く。
「それを言うなバーニー。
せっかく未来志向で心を奮起させていたのに。
とたんに気分が暗くなる」
「すみません。ですが本当の事ですので」
まぁ、目をそらしても意味の無い事か。
「それで、いつ死刑は執行されるんだ?
大体の日取りは決まってるのか?」
この際だ、全く聞きたくないことだが、耳に入れておかなければ。
「まだなんとも。
ですが、死刑執行となると、ある程度の準備が要るので、最低でも前日には分かるでしょう。
もし派手に公開処刑などになれば、民衆への宣伝も含めて1週間ほど前じゃないですかね」
「ははは。
公開処刑で僕の死が民衆の娯楽になるならば、僕は国家への貢献度はかなり高いな。
余興でバーニーが手品でも披露すればいいのではないか?」
「自暴自棄にならないで下さい。
それと僕は手品が出来ません」
「それなら練習するんだな。
王族殺しを通常の処刑方法では殺すとは思えない。
さぞ豪快にやってくださると思うぞ。監視官のバーニーも目立つだろう」
「伯爵・・・死刑になりたいのですが?」
「んなわけあるか!そんな奴いるわけないだろ!」
「又、いきなり怒鳴らないで下さい。
一体、なんなんですか?」
どうやら、死刑判決を受けたせいか、元妻にとんでもなく醜い事をされたせいか。
情緒不安定になっているようだ。
「バーニー、度々すまない」
「いいですよ。それで伯爵。
もし無実なら早めになんらかの行動を起こした方がいいですよ」
「分かってる。でも、この個室にいて何ができるのか。
勿論、ここからは出られないのだろう?
それともバーニーが僕を脱獄させてくれるか?」
「それは無理です。死刑囚を逃がせば私が大変な目にあいます」
「だろうな。だが何か考えてみるよ。
手紙を出したり、面会ぐらいは許されているんだろ?」
「はい。大まかには」
「そうか、それならなんとかなるかもしれないな」
僕はこれからの事について考えを廻らした。
どうやって自分の罪を解消し、元妻に復讐するか。
するとふと疑問が浮かんできた。
アナは今頃何をやっているのだろうか?
僕がいなくなった家で高笑いでもしているのだろうか?
無実の僕が牢屋で死刑を待っているのに。
何かしらの罪を犯しているだろう元妻は豪華な屋敷で悠々自適の生活か。
そう思うと、やるせなさに苛立ちを覚えた。
許すまじ、アナ。




