10話 3日目 【夫】バーニーと(上)
【アダム視点】
審問で死刑を求刑されたアダム伯爵。
彼は特別審問場から連れ出され、お馴染みの個室、これまで拘束されていた王城の一室に戻ってきていた。
死刑囚様の牢獄につながれるかもしれないと思っていたけど、どうやらそうではないようだ。
僕の監視役のバーニーもそのまま。
審問で死刑を受けても、それ程変わったような気を受けない。
僕は死ぬというのに。
「アダム伯爵。あまり良い結果にならなかったみたいですね」
僕がついさっき死刑を受けたというに、監視役のバーニーの表情は変わらない。
少しは哀れんでくれてもいいのにと思ってしまう。
「そうだな。バーニーがいう通り、死刑はそれ程良い結果ではないな」
「伯爵、また皮肉ですか。
暗くなっていますよ。求刑は求刑ですので仕方がないです」
「仕方がないもなにもあるか!僕は無実で死刑を受けたんだぞ!
これ以上仕方がない事態があったら教えて欲しいよ!」
「私に当たらないで下さいよ」
死刑判決に納得できないので、ついつい叫んでしまった。
「ごめん」
「それで伯爵、本当にやってないんですか?」
バーニーのその問いは、審問での大公と同じ問いだけど、受ける印象は全く違う。
多分、問う本人がどう思っているかの違いだろう。
大公は最初から僕が犯人だと思っていたようだが、バーニーは違うようだ。
「ああ、勿論だ。
審問で何度も言ったけど、僕は何もやっていない。
大体、セレステ、いや、第三王女様の事は好いていたんだ。
そんな僕が殺すわけないだろ」
「そうですね。
会場で読まれた恋文を聞く限り、伯爵様が第三王女様を愛していたのは伝わってきました」
僕はあのにっくき騎士の朗読を思い出すと恥ずかしくなる。
あの騎士め、無駄に感情を込めて煽るように読みやがった。
僕に何の恨みがあるって言うんだ。
一体僕が彼に何をしたと。
「そうだ。バーニー、僕は無実だ。
でも、恋文の件は忘れてくれ。思い出すだけで恥辱に震える」
「なら一体誰が犯人なんですか?
一回審問で犯人だと断定されたのなら、別の真犯人でも見つからない限り罪状は取り消されませんよ」
確かにバーニーのいう通りだ。
一度決まってしまった結果はそう簡単には覆らない。
なら、真犯人を見つけなければ。
でも、真犯人か・・
「それは・・・」
僕は思い出す。
判決が下った後、僕の元に寄ってきた悪魔のような女を。
彼女の姿を思い出すだけで憎悪の感情が沸き上がってくる。
「妻だ。アナスタシアがやったんだ。
僕の不倫の仕返しをするために」
バーニーは僕を疑うような視線だ。
全く信じていないのが伝わってくる。
あの特別審問場の者と同じように。
「信じてくれ、バーニー。
あの悪魔みたいな女が全て仕組んだ事なんだ」
「伯爵・・・。それ、本気でいっています?
つい最近、今朝までは、自分の妻がどれだけ素晴らしいか語っていたのに。
そんな急変されても正直困ります。
すみません、いい間違えました。元妻でしたね」
確かにバーニーのいう事も分かる。
今朝まで、いや、審問のあの瞬間まで、妻が本性をみせるまでは僕は妻の事を素晴らしい女性だと思っていたんだから。
「ついさっき本性を知ったんだ。本当だ。
こんな事よくあるだろ。
いい子だと思っていた子が、ゴミみたいな女だった事は。
女はいつも本性を隠したがるんだ。
それで、アナはそれがとびきり上手い女だったんだ。
思い出すたびに怒りが湧き上がってくる」
「そうですか。伯爵が何をいっているかよく分かりませんが。
アナスタシア元夫人が一風変わったの人なのは、この部屋に来たときに感じました」
「さすがバーニー」
そういえば彼は、妻に臆せず注意していた記憶がある。
確かクッキーの事とか、時間の事とか。
あの当時は妻に意識が言って、それ程気にしていなかったが。
妻に会った男としては珍しい反応だった。
「それじゃ、僕の話を信じてくれるという事か」
「いいえ、それとこれとは別です。
しかし伯爵が殺したとは思っていませんよ、初めから」
その言葉を受けて、僕はほっと肩の荷が降りる。
例え誰であれ、一人にそう言われる事は嬉しいのだ。
「そうか。良かった。本当に良かった」
「でも、アナスタシア元夫人が・・・」
僕は彼の言葉に心がむずがゆくなった。
「バーニー、バーニー」
「なんですか?名前を連呼しないで下さい」
戸惑っているバーニー。
僕が反応した理由を分かっていないようだ。
「あの女を元夫人とは呼ばないでくれ。
結婚していたという事実を思い出すだけで腹立たしい。
虫唾が走る」
そう、あんな女と結婚していたなんて。
人生の汚点でしかない。
「分かりました。ではアナスタシア公爵令嬢と」
「それで頼むよ」
他人行儀になった分、彼女に対する怒りが僅かに薄れた。
「それで、アナスタシア公爵令嬢が。いえ、ちょっと言いにくいですね。
公爵令嬢が第三王女様を殺したという件はよく分かりません」
「そうかい。それは残念だ。その・・・伝わらなくて」
でも確かに。
僕はなんとなくアナが第三王女を殺したと直感的に思ったが、それは何故か。
それは・・・
審問で上げられた証拠を、アナなら工作できると思ったからだ。
具体的には以下。
・事件の夜、僕が急に眠くなったこと。
・現場で見つかった証拠(腕輪と指輪)はアナなら簡単に持ち出せたもの。
・僕の部屋で何故か見つかった第三王女からの手紙。他の場所に隠していたはず。
アナなら仕込む事も可能。
・審問であることない事言って、僕に妙な趣味と暴力癖があると皆に思わせたこと。
こんな感じだ。
アナが僕を犯人にしたがっているのは分かるが、彼女が第三王女を殺した証拠は無い。
「どうしたんですか、急に黙って?」
バーニーが心配そうに屈んで、頭を下げた僕の顔を見ようとする。
「考え事だよ」
彼が屈んで頭が接近してきたためか、柔らかそうな金髪が悩ましげに僕を挑発する。
なので、その髪をわしゃわしゃする。
「な、何するんですか、やめてください」
いつもはクールな彼が、少年の様に僕から逃れようとする。
その無邪気な反応を見ていると、ますますいじりたくなってくる。
なので、もっと髪をわしゃわしゃする。
「おらおら、いつもはすかしたバーニーはどこにいったんだ?」
「伯爵様。ダメですって。止めてください。怒りますよ」
僕は嫌がるバーニーの髪をそっと撫でて整える。
「ほらよ。髪を直してやったんだよ」
「も、もう。何をするんですか。
私は監視官で、あなたは囚人なんですよ」
バーニーは乱れた髪を直しながら。
赤くなった頬と息を整えながら僕を睨む。
「分かってるよ。でも、僕とバーニーの関係はそんなものじゃないだろ。
そう・・・もっと違う何かだろ」
「アダム伯爵がどう考えているか分かりませんが。囚人と監視官です。
勘違いしないで下さい」
バーニーがちょっと本気で怒っているので、僕は少々ばつが悪くなった。




