9話 3日目 【第三王子】激怒
【クラウディウス視点】
ユヌス教団から引き上げた騎士団は王城で報告を行った。
それを受けた上官は、部下の説明を聞き激怒した。
だがそこで怒っても意味がない事は彼も十分分かっていた。
だが、その不甲斐ない結果を上官自ら第三王子に伝えなければいけないのだ。
大見得を切った以上、報告の際にどんな目に合うかと考えると、怒らずにいられなかったのだ。
彼はこれからどう第三王子に説明しようかすぐさま頭を廻らした。
だが、どこからか騎士団の帰還を聞きつけたのか。
第三王子の従者が騎士の部屋まで来て言った。
「お戻りでしたか。
第三王子様が報告をお待ちしていますので、すぐに入らして下さい」っと。
騎士は白髪の美少年従者を苦々しくも思いながら、無表情で返事をする。
「勿論です。今ご報告に行こうと思っていたところです」
「そうですか。良い結果だといいですね。
では、ご一緒に」
そうして騎士は従者に連れられ、再び第三王子の部屋を訪れた。
騎士は、部下に伝えられた事実にわずかばかり脚色しながら説明した。
騎士団はあらん限りの体力と精神力を酷使して頑張ったか、とんでもない数の武装したユヌス教徒と市民の反対を受けて、泣く泣く撤退しざる追えなかったと。
本当は何日でも粘りたかったのだが、それでは王城の評判に傷をつけるのではないかと考えたと。
騎士の中には怪我を負った者までいると(この怪我は、報告に来た部下に上官が怒鳴って投げつけた椅子が当たって出来た傷だが)。
騎士の説明を聞いているうちに、第三王子は見る見る顔色を悪くし、手に持っていたグラスを地面に叩きつけた。
グラスが割れる音がして絨毯にワインが染みる。
室内にいる多くの従者がビクッと震えるが、何人かがすぐに破片を回収する。
「馬鹿者!
要は、マリアンヌ夫人を奪われながらミスミス逃がしたというのか!」
「いいえ。その、違います。
そんな事はありません。
場所は特定しておりますので逃がした訳ではありません。
今でも何人かの騎士を残し常時観察しておりますので。
考えようによっては、牢屋にいれたも同然です」
「何が同じだ。全然違うではないか!
王城の外、しかも宗教団体に匿われているのだぞ。
お前は、王都にいる住民は全員牢にいるとでもいうつもりか!」
「いえ、そうではなく・・・」
「宗教団体の一つや二つ、お任せ!と言ったのはどこの誰だ?」
「それは・・・申し訳ございません。
ですが作戦行動には不慮の事態がつきものでして。
結果的には夫人を一箇所に閉じ込めていますので、目的は達したかと」
「馬鹿者!先程からふざけた事を抜かしおって。
貴様は騎士であろう。口先ばかり役人や商人ではなく。
結果で示せ。夫人を王城の牢に繋ぐのだ」
第三王子は憤慨していた。
結果を出せ部下に対してもだが、一番はユヌス教団についてだ。
全く!
似非宗教団体如きが調子に乗りおって!
誰の許可で活動できていると思っているのだ。
あの者らは。
「それで、これから部隊を再編成して、直ぐに教団から夫人を取り返すのだろう?」
私が騎士を見ると、彼は口元をもごもごさせてから。
「いえ、それは少々問題があるかと」
「何故だ。すぐに捕らえればよかろう。
信者如きたいした障害ではなかろうに」
「それが・・・できないのです。
信者が人数に者をいわして騎士団の進入を阻止していまして。
それに夫人に同情したのか、教団に煽られたのか、多くの市民まで加わっているのです。
強引な手段に出ますと、民衆の不評を買うかと」
騎士は同意を求めるように従者のニアを見ている。
ニアはそれを受けて口を開く。
「クラウディウス様。確かに強引な軍事介入はお控えになった方が良いかと。
こちらには理由がありません」
「あるではないか?マリアンヌ夫人は王族殺しの母親なのだぞ」
「ですが。まだ彼女の罪は確定しておらず、現状は無罪です。
その彼女を捕らえるために、ある程度の規模の騎士団を動かすのは問題があるかと」
「な、なんだと!!!」
私は怒りのあまり、拳を握り締め机を叩く。
歯軋りをしながら、再度机を叩く。
バンっという音が響く度に騎士と、近くにいるニアがビクッとする。
(なんたる事か!
宗教団体如きに婦人の身柄を奪われ手出しできんとは!
それでも国に仕える騎士なのか!
奴らは日頃デカイ態度で騎士道だの馬鹿げた事をぬかしているのに。
危機になったらとたんにこれだ!)
それよりも早く夫人をどうにかしなければ。
もし、あの集団に「あの情報」を知られたとなっては・・・
本格的に私がまずくなる。
「しかし、王城で無礼を働いた罪があるだろう。
そのような無法共、一斉に排除すればよかろう」
「それも難しいのです。
何せユヌス教徒は数が多いですし、貴族の中にもマリアンヌ夫人に同情的な方も多く。
貴族と民衆の同意を得られるかは分かりません。
ここで騎士団が強く出る事で、王城のためにはならないかと。
ですので、母の罪が確定するまでは一旦保留とするのが通例かと」
「な、ななな、なんだと!
どうなっているのだ。彼女は王族殺しの母親なのだぞ。
それなら息子の罪を背負うべきだ!それが母親だろう!」
それでは奴らの主張を認めているようなものではないか。
王城に楯突いてもお咎め無しですむわけが無い。
それに時間を与えれば与えるほど、夫人が持っている情報が彼らに渡るかもしれないのだ。
「はい。
その辺りはこれから、民衆、貴族の反応を見ながらになるかと。
少なくとも、第三王女様の慰霊祭が終わるまでは事態は動きにくいかと」
なんと情けない!
王族が殺されながら、罪人の母に手出しをできないとは。
だが、このまま指をくわえて危険を放置しておくわけにもいかない。
危険は少しでも排除しなければ。
そうしなければ、私自身が消えていった兄弟と同じようになってしまう。
「状況は分かった。下がってよし」
「はぁ!本件は真に申し訳ありませんでした。
是非、次回の機会にて、挽回したいと思っております」
騎士が懸命に謝罪した後、部屋を去っていく。
それに合わせて、ニア以外の従者も下がらせる。
ニアと二人きりになってから。
「ニア、このまま安穏と時間を過ごすわけにはいかない。
こういう所でミスをすれば、消えていった兄弟と同じになるのだ。
私はあのような者たちと同じになるつもりは無い。
騎士団が動けないのであれば、分かっているな」
「はい。クラウディウス様。
こちらと繋がりがなく、金で動く者が何人かおります」
「それなら任せた。
しかし、確か審問でアナスタシア公爵令嬢が言っていたな。
王族殺しのアダム伯爵は血を飲み、塗りたくるのが好きだと」
「はい。確かにそう証言したようです」
「それなら、民衆は当然興味を抱くだろうな。
伯爵は一体何故そんな事をしていたのか?
誰から、どんな組織から影響を受けてそうなったか。
急身が尽きない話題だと思う」
「クラウディウス様。まさか・・・」
ニアは私が言いたい事を理解したようだ。
「そうだ。マリアンヌ夫人にはセレステと同じ目に合ってもらえ。
盛大に血をばら撒かせろ。
釘を打て。
それで死体を放置し、次の日に騎士団に教団を調べさせれば終わりよ。
王族殺しで教団ごと潰せばいい」
「さすがクラウディウス様の知略。
素晴らしいです」
「褒めるニア。これぐらい朝飯前だ。
それより、任せたぞ、ニア」
「はい!お任せを」
部屋を出て行くニアの姿を見送りながら、私はセレステの事を思い出していた。




