4話 3日目 【母】脱出(下)
【続・マリアンヌ視点】
そう思って椅子に座っていると。
部屋の外から。
『おい、お前ら、なんだぞろぞろと?』
『マリアンヌ夫人に会いに来たのです。
我らの仲間を返して頂きたい』
『馬鹿を言うな。すぐに戻れ。
この部屋には関係者以外立ち入り禁止だ。
おいすぐに立ち去れ。誰か、仲間を呼べ』
『入りますね』
『だめだ、ここには夫人はいない。他の部屋だ』
『おかしいですねー。ここに入るのを見た方がいるのですが』
『それは知らん。分かったなら、立ち去れ』
『中を確認されていただきます』
『ま、待て、ちょ、押すな、押すなって』
『皆さん、その調子です』
『お、おい。待て。俺は騎士だぞ。その俺に向かって。待て』
『皆さん。怪我をさせてはいけませんよ』
『『『はい。司祭様』』』
それから鈍い音がし、扉が開けられました。
部屋の中にいた騎士達は腰の剣に手をかけますが、扉の向こうから現れたのは黒ローブの集団は全員丸腰のためか、騎士達は剣を抜くべきかは迷っているようです。
ユヌス教団のブラッドリー司祭が騎士団越しに私を見つけました。
「マリアンヌ夫人。
やはりこの部屋でしたね。
あなたが不当に拘束されていると聞き、お迎えに参りました」
司祭が私の元へ来ようとしますが、騎士達の一人が遮ります。
「馬鹿を言え。即刻をこの部屋から立ち去れ。
貴様ら、こんな事をしていいと思ってるのか。
ここは王城だぞ。分かっているのか?」
騎士は司祭を睨みつけて怒鳴ります。
ですが、相手のユヌス教団は20人以上で、騎士は3人。
圧倒的人数差のためか、騎士には焦りがみえます。
「あなた達こそ、どんな権利があって夫人を拘束しているのですか。
大公は夫人の退出を求めただけです。拘束は指示していない筈ですよ」
騎士は教団を動きを観察しながらも。
「それは・・・重罪人の親族だからだ。
もし、今審問されているアダム伯爵に罪が確定すれば、夫人にもそれが及ぶ可能性がある。
逃亡の可能性のある容疑者を自由にはできない」
やはりそうでしたか。
私もつくづくそう思っていました。
騎士達は、刑が決まった場合に私が逃げないように監視していたのです。
だがブラッドリー司祭は騎士の言葉にも動じません。
そう言われるのは分かっていたのかもしれません。
「それはそうですが、現状は違うはずです。
まだ審問中であり、容疑者の母という事だけです。
さぁ、皆さん、夫人を外へお連れしてください」
「「「「はい」」」」
ユヌス教徒の黒ローブ集団が私の元へ足を進めます。
騎士3人に、黒ローブの信者は20人以上。
その差は歴然です。
一人の騎士が剣を抜こうとしましたが。
ブラッドリー司祭が。
「止めておいた方がいいですよ。
丸腰の相手に騎士が剣をふるったとなれば、あなたが罪にとわれますよ」
その声で剣から手を離す騎士。
騎士達はお互いに目で会話した後、さっと私を囲むようにして肉の壁になります。
相手を追い返す戦略から、応援がくるまで時間稼ぎする作戦に変更したようです。
それをみた司祭は、ふっと笑い。
「皆さん、早くお願いします。
審問が終わってからではこちらが不利になりますし、応援がくる可能性もありますから」
「「「「はい」」」」」
黒ローブの群れが私の元に殺到し、騎士達とぶつかり、押し問答が始まります。
「おい、やめろ。お前ら。立ち去れ」
「うるさい。どきなさい。邪魔ですよ。夫人を解放しなさい」
「そうです。無実の方を拘束するとは何事ですか」
「やめろ、押すな。それに蹴るな。いて、やめろ」
「今です、隙が出来ました」
「「「はい」」」
「おっ、おい。待て」
私は伸びてきた手に腕をとられ、人ごみの中を引っ張られました。
ですが、片方の手を騎士が掴みます。
「逃がすか!」
「あなた、離しなさい。夫人が困っているでしょう」
「お前こそ離せ。それで解決する」
「離しなさい!騎士足るものがなんたる行為です」
「そっちが話せ、絶対に離さん」
「皆さん、押してください。それ」
「お、おい、やめろ、さっきから、それに蹴るな」
「その調子です」
私は両方からひっぱられ、腕が引きちぎれそうな痛みを感じました。
思わず、「いたい、いたい、離して」と叫んでしまいます。
「ほら、早く離しなさい。夫人が痛がってるわ」
「お前らこそ、離せ」
「離しなさい。夫人を解放するのです」
「我らの仲間を取り戻すのです」
「おい、さっきから蹴るな。誰だ、蹴ってる奴は!
騎士にそんな事していいと思ってるのか!」
「おらあああああ」
「王城の犬が。どこでも邪魔をする」
「何だと!誰だ今言った奴は?どいつもこいつも黒ばっかで」
「押すのです。皆さん、もっと押すのです。今です!」
「「「「はい」」」」
「やめろ、お前ら、おい、やめろって言ってるだろ」
「押すな、押すなって」
「もっと押すのです」
「「「はい」」」
異常な人口密度になった箇所から、気づくと私は抜け出していました。
その先にはブラッドリー司祭の姿。
「お怪我はございませんか」
後ろでは未だに騎士とユヌス教徒が揉めていますが。
それとは対照的に微笑んでいる司祭。
静と動の差が激しい室内空間。
私は今起こっている事が信じられず。
「はい。どこもありません。多少腕は痛いですが」
「それでは王城から離れましょう。
早くしなければ。まもなく応援が来るでしょうから。
腕は教団に帰ってからよく見ましょう」
私は戸惑っていました。
急展開過ぎて頭が追いつかないのです。
「あのー、司祭様。こんな事して大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫ですよ。
それより、こうしなければあなたはきっと大変な事に。
牢屋にいれられ死刑になるのを待つ日々ですよ」
それは私も思っていた事です。
場合によっては、それはさけられないと。
「夫人のご自宅は危険ですので、我が教団に滞在なされる方がよろしいかと。
そこでならば、騎士団から守る事も可能です」
「いいのですか?その、私は信者でもないのですが」
そう。確かに一度ミサに行き、息子の罪を晴らすために協力してくれると司祭は言いました。
ですが、考えてみれば全くの他人です。
何故ここまで私の手助けをしてくれるのでしょうか。
「大丈夫です。私は無実の人が捕まるのが許せないのです。
審問で息子さんはよい結果にならないと思いますが、まだ諦める事はありません。
例え刑が決まったとしても、執行までには時間があります」
「そうですが・・・」
「ささ、時間もありませんので移動を」
「はい」
すると司祭は、袋の中から一枚の黒ローブを取り出します。
「一時的にこの黒ローブの着用をお願いします。
入信して頂く訳ではありませんが、王城を出る際の目くらましになりますので」
「分かりました」
司祭から黒ローブを受け取り纏います。
意外と着心地がいいことにいささか驚きました。
司祭が私の準備を整ったところを確認すると。
「それではいきますよ。
周りは同胞で囲みますので、足を進めるだけで大丈夫です。
なるべく顔は上げないようにお願いします。
夫人の顔を他のものに見られると面倒ですので」
すると私の周りはがっちりと囲まれます。
又しても人口密度が急激に高まりました。
「それでは皆さん、帰宅しましょう。
途中、騎士団の妨害があるかもしれませんが。
夫人だけはなんとしても教団本部までお連れするのです。
我が教団の主、ユヌス様に誓って」
「「「「はい」」」」
ユヌス教団の一同は歩き出しましたので、私も同じように足を進めます。
後ろでは、騎士団と一部のユヌス教徒が争っている声がまだ響いています。
暫く進むますと、私達の前に立ちはだかる一人の女性。
それはまぎれもなく、私の息子の妻、アナスタシアでした。




