2話 3日目 【第三王子】大公とクラウディウス第三王子(下)
【クラウディウス視点】
「二アでございます」
一瞬ドキリとするが、その聞きなれた声に安堵する。
気を引き締め直し、喉を整え。
「入れ」
「はっ!失礼します」
扉の向こうからは白髪の美少年が現れる。
歳は18だが、いつみてもそれよりは幼く見える。
少年特有のシャープな顎ラインが愛らしく、特徴的な白髪がふわりと小ぶりな耳にかかっている。
その髪が白い肌と合わさり、まるで彼の周りだけ違う空間の様だ。
二アは第三王女の絵画を見つめている私を見ると、一瞬絵画に目を留めてから視線を下げる。
彼は私の事を心配そうな表情で見つめる。
「クラウディウス様。
お言葉ながら、第三王女様は死んだのです。
故人の絵画を三日も見続ける事は、確かに愛情深い行動なのかもしれませんが、他の方に知られますとあらぬ興味を抱かれますかと」
ニアめ。何を心配しているかと思えばその事か。
全く、彼は心配性だからな。
兄が妹の死を嘆き悲しむ事のどこが悪いというのか。
だが、考えてみればニアのいう事も尤もだ。
王族内では親密な関係という方が珍しいのだからな。
それに、次の玉座のために常に粗探しをしあうのが王族である事は間違いない。
どこで誰が聞き耳を立てている事やら。
「分かっている、二ア。
君以外の前ではこの絵を見ないようにしている」
ほっとした様に一息つくニア。
「さそうでございますか。
セレステ様の事に関しましては、大変不幸な事かと。
お悔やみ申し上げます」
私に向かって礼儀正しく頭を下げるニア。
彼はセレステと話した事もあるだろうから、私同様ショックを受けているはずだ。
「あぁー、極上の不幸だった。
だが幸いな事に、先程審問で判決は下されたのです。
もんもんと胸の中に沸いていた気持ちも晴れるものよ」
「真にでございます。晴れ渡る空のようです」
ニアは窓の外から見える空をチラリと見ていった。
そういえば今日は良い天気だ。
私の心と空が同調しているのかもしれない。
「それで二ア、罪人アダム伯爵の母はどうなったのだ?
審問場から連れ出されたようだが。
王族殺しだ。勿論、彼女も死罪になるのだろうな?」
期待をこめて聞いたのだが、ニアの反応は思わしくない。
言いにくそうに間をためてから。
「はぁ!その事なのですが。
僅かばかり困った事になっておりまして」
二アの言葉に首をかしげる。
困った事だと・・・一体どうしたというのか?
ただの夫人一人の如きの対応で。
「どういう事だ?二ア。はっきり申さんか」
「はい。
騎士団が審問場から連れ出し、今後のためにマリアンヌ夫人の身柄を拘束しようとしたのです。
息子が死罪になれば母も同様になりますから、逃亡防止のために」
ニアは順序立てて説明したいようだが、それがじれったい。
私は答えが知りたいのだ。その過程ではない。
「前置きはいい。それでどうなったのだ?
牢にでも繋いでいるのか?」
「違います。
審問場の外に何故かユヌス教団の信者が勢ぞろいしていまして・・・
そちらが数で勝っていたために、マリアンヌ夫人を強奪されたようです」
一瞬頭が真っ白になる。
(あの夫人を奪われだと・・・
審問上であのような発言をした者を・・・)
(それは断じて許容できる事ではない。
あの夫人の証言を信じる者はいないだろうが。
もし、誰かにあの事を知られたとなっては・・・とてつもなくまずい。
私の進退に関わる。私が窮地に追いやられるかもしれないのだ!)
「たわけもの!何をしていたのだ騎士団は!
一体なんのために武装していると思っている!
あれは見栄えをよくするものではなく、武力で民衆を制圧するためのものなのだぞ。
信者ごときに夫人を奪われるとは・・・なんと情けない!」
「はい。ごもっともです」
「それで、どうしたのだ?
すぐに取り返したのであろうな?」
「それは分かりません」
「すぐにこの件の責任者を呼び出させろ!
私直々に命令を下す」
「はぁ!」
ニアが部屋を出て行くと、すぐさま一人の騎士を連れて戻ってくる。
壮年の男性騎士が私の前でひざまづく。
「第三王子様。ただいま参上致しました」
「うむ。ご苦労。
先程マリアンヌ夫人が王城内で無法者共に奪われたと聞き、大変ショックを受けた。
騎士団が、王城が侮辱されたのだぞ。
なんらる悲劇か。
即刻取り返してくれる事を望む。頼んだぞ」
「はぁ!私目にお任せを!
宗教団体の一つや二つ、取るに足りません。
すぐに夫人を取り返して参ります」
「期待しているぞ」
「はぁ!」
「それでは下がれ」
「失礼します」
威勢の良い声を上げた騎士は、部屋を出て行く。
残ったのは従者のニア。
私は気を抜いてため息をついてしまう。
「全く、これでは王家の示しがつかないではないか。
兄上や姉上、お父様に一体どう思われるか。
何か聞いているか?」
そうだ。
私が手を出さなくても、他の王族がマリアンヌ夫人に対して頑とした態度をとってくれれば。
私は何もしなくてすむ。できる事なら私は動きたくないのだ。
この地には他の王族もいるのだし。
「それについては分かりかねます。
ここは属国ですので。他の主だった王族の皆様は本国や各属国に散っていますので。
ですが、ご兄弟、娘さんをなくされたのですから、嘆いているのではないでしょうか」
私は一旦息をつく。
そして思った。
(それはないだろうなと。
セレステを一番可愛がっていたのは私だ。
彼らが妹が死んだぐらいで悲しむかと思うと、微妙なところだ。
表面的には悲しみを表明するだろうが。心の内ではどう思っていることやら)
「まぁよい。今日はあの男、アダム伯爵が死刑になったのだ。
それだけでよしとしよう。
ほら、ニア、一緒に酒でも飲もうではないか。
グラスが呼んでいるぞ。私は今酔いたい気分なのだ」
「はぁ!クラウディウス様。
お供いたします」
ニアはさっとグラスを取り出し、お酒を注ぎだす。
そして自分の分も次ぐ。
「それでは、セレステに」
「はい。セレステ第三王女様に」
私は二アとグラスをぶつけあい、カチンという音が部屋に響いた。




