1話 3日目 【第三王子】大公とクラウディウス第三王子(上)
2部開幕です。
第三王女殺害事件を裁いたバーミンガム大公。
彼は特別審問場を離れ、王城の一室に戻りほっとしていた。
アダム伯爵に死刑を求刑できた事で心の重しがとれたのと同時に。
自分が為した事に満足していた。
正義をなしたのだ。あの観衆の熱狂がそれを証明していた。
久しぶりに大衆の支持を得られた事に、彼は全能感を感じていた。
大公が椅子に座って休んでいると。
この部屋に近づいてくる複数の足音。
部屋の外にいる騎士とのやりとりも聞こえてくる。
『大公はここにいるのかね?』
『はぁ!こちらに』
『では、すぐに案内しなさい!』
『畏まりました。直ちに!』
扉が開くと、大公は目の前に現れた人物に驚き、すぐさま椅子から腰をあげ姿勢を正す。
自分の姿勢や服装が乱れていないか確認しつつ。
「これはこれは、クラウディウス第三王子様。
よくぞこちらに。今日はどうなされましたのでしょうか?」
大公の言葉に部屋に訪れた第三王子はふっと笑い、両手を広げて大げさに喜びを示す。
歳は20代後半であるクラウディウス第三王子は満足げな表情だ。
「何をおっしゃる。あなたの素晴らしい仕事ぶりを激励しに来たのです。
愛するセレステ。私の可愛い妹。
彼女に対して、口に出すのも恐ろしい事をした罪人に死刑を下したと聞いたのですから」
「はい。確かに先程そのような判決を下しました」
「バーミンガム大公、あなたは素晴らしい仕事を成し遂げました。
きっとこの後、王城から褒賞が出るでしょう」
「いえ、私は当然の事をしたまでです。
私は審問を取り仕切ったのみ。多くの事は有能な部下達がやってくれましたので」
「さすが大公。なんと慈悲深い。謙遜なさるとは。
ですが私は今回の審問をみて深く感動しました。
実際は見ていませんが、全て話しは聞かせてもらいました。
きっと天国のセレステも喜んでいる事でしょう」
「お言葉、嬉しく思います」
「審問はとても盛り上がっていたようですからね。
できる事なら私も傍聴したかったぐらいです」
「いえいえ、第三王子様が見られるには少々お見苦しい点があったかと。
なにせ、犯人の男は最後まで自分の罪を認めようとしませんでしたので」
「それは悲しいですね。
ですが罪人とはいつもその様な者です。
誰であろうと「自分はやっていない」と言うのです。なんと嘆かわしい。
我が王国民、それも伯爵身分の男としては、恥ずかしい限りではないですか」
「はい。私もそう思い、序盤に自白を勧めたのですが。
彼は拒絶しましたので」
「嘆かわしいですなー大公。虚言を、しかも、我が妹を殺して吐いているのですから。
ですが、大公のおかげでその男に裁きが下ったのです。
改めて感謝します」
「はぁ!勿体無きお言葉」
「それでは、短い挨拶になって申し訳ないが、失礼する。
この後、予定がつまっているので」
「いえいえ、滅相もございません。
激励ありがとうございました」
クラウディウス第三王子は、バーミンガム大公の部屋を後にした。
◇
大公の部屋を後にし。
自室に戻るために、大勢の護衛を引き連れて王城を闊歩する第三王子。
彼が通るところ、人は皆脇に寄り深く礼をする。
慣れきってしまったその態度に、第三王子は彼らの行為に優越感も感慨も抱かない。
彼の頭の中では別の事が浮かんでいたのだ。
(今日はなんという日だろう。
あの可憐で、とてもつもなく奇麗なセレステに無残な事をした罪人に捌きを下せたのだ。
あの男、見るだけで激情がわいてくる男に。これほど嬉しい事はないではないか)
これで近日中に開かれるであろう第三王女の慰霊祭でも面目がたつというものだ。
もし王族殺しの犯人が捕まらないとなれば、王城の権威が失墜していたかもしれない。
つまり第三王子である私の評判も怪しくなっていたという事だ。
そうならなくてよかった。
もしそうなっていたとすれば・・・
本国からの、この地を統治する私の評価が怪しくなっていたかもしれない。
レムニア帝国領、ユーフォニア王国。
帝国の属国であるこの国。
私がその王都に来て早3年。
間接統治の代理人、ユーフォニア総督としての業務をこなしてきた。
レムリア王家第三王子である私がいるこの国は、問題も多いがそこそこは上手くいっているのだ。
わざわざ愛するセレステを呼び寄せたところまでは上手くいっていたのに。
私は自分の部屋に入ると、部屋に飾っている絵画を裏返し、裏面に描かれた人物画を眺める。
そこには美しいセレステが椅子に座って微笑んでいる姿。
まるで私に微笑みかけてくれているようだ。
時を止め、彼女の一番美しい姿を切り取った一枚。私の宝物。
(ああーセレステ。妹よ。
もう君がいないなんて想像できないよ。
小さな頃は「お兄様」「お兄様」といって、僕の後ろを雛鳥の様にチョコチョコとついて来てくれたのに。
今ではもうそんな事は望めもしない)
あの頃が懐かしいよ。
出来る頃なら昔に戻りたい気分だ。
セレステ・・・
私が妹の思いに満たされ、至福の時間を過ごしていると。
ドアがノックされる音がする。




