41話 3日目 【夫】審問 8
僕と同じ事をバーミンガム大公も思ったのか。
「夫人、その、元というのは?アダム伯爵はあなたの夫ではないのですか?」
「お知らせしていなくてすみません。
しかし、先程判決が決まる少し前ですが、私はアダム伯爵と離婚しているのです。
夫のサインもありますし、書類は事前に提出されています。
先程、それが受理されたと聞いたのです」
この女!
まさか・・最初からそれを。
王族殺しの罪を逃れるために、先に手を打ってやがったのか・・・
今思えば、あの離婚届けの時から怪しいと思っていたのに。
それにそうだ、母がフキンを投げたのも、それまでアナが挑発した結果だとも思えなくも無い。
何か僕に負い目を与えるきっかけほしさに母を挑発してまんまと嵌めたのだろう。
このクソ女!
僕だけでなく、母さんにまでこんな醜いことを!
この女!すまなさそうな顔をして!
よくも飄々としていられる。
大公はアナの言葉に驚きながらも、穏やかな声を出す。
「そうですか。それは知らなくても問題ありません」
「はい。申し訳ありません。
それでなのですが、ほんの少し元夫とお話をさせくれませんか。
もう会えないかもしれませんので。
今生の別れになるかもしれないのです。
この場でいいのです。少し皆様が離れてくだされば。
死に行く夫と二人の時間をいただければ。皆様の慈悲を頂けないでしょうか?」
バーミンガム大公は、アナの言葉に胸を打たれたように涙ぐむ。
眉間に力を込めて、涙を抑えているようだ。
彼女の真摯な態度?が琴線に触れたのかもしれない。
「いいでしょう。
夫人、いえ、元夫人は今日は十分に正義のために頑張ってくれました。
そのために、その時間を授けましょう。あなたにはその資格があります」
「ありがとうございます」
妻、いや元妻のアナが僕に悲痛そうな表情で寄ってくる。
死にいく夫を嘆く妻の様に。
観衆はつらい目にあいながら夫によりそう妻の姿に感動しているようだ。
中にはハンカチを取り出して泣いている人もチラホラ。
『真の愛だ。愛を見た』
『なんてお優しい』
『彼女はすばらしい夫人ね』
と声が聞こえる。
一体どこが素晴らしいのか?
この女にどんな資格があるというのか?
このゴミ女は無実の僕をはめて今さっき死刑に送った極悪人だ。
とんでもない嘘までついて。
それにギリギリのタイミングで離婚までしている。
どうせ裁判の行方を見ながらタイミングを計っていたのだろう。
もし、上手く以下なければ離婚を取り下げられるように。
こんな計算高い女に正義も、真実の愛もあったものじゃない。
あるのは自分の利益だけだ。
大公の言葉を受け、騎士団は僕と元妻から離れる。
だが、アナに何かあったら直ぐにでも飛びつけるように、剣をギラっと見せて僕を威嚇する。
アナが今にも倒れそうな弱々しい足取りで僕の元に来て、ぎゅっと抱きつく。
まるで僕に寄りかかるように。
彼女は背中に手を回して僕の耳元に顔を近づけてくる。
アナの匂いがする。アナの髪が僕に頬に触れる。
彼女の存在を身近に感じる。
昔はその存在に幸せを感じたけれど、今では鬼のような嫌悪感しか沸かない。
彼女のやわらかい感触、フリフリのドレスの感触でさえ憎らしい。
触れられているだけで全身に虫唾が走る。
だが、観衆は感動の場面をみているようだ。
なんせ彼らから見たら。
裏切られた妻がその罪を許し、死刑囚となった夫に抱きついてるのだから。
わんわん泣き、涙を拭いている貴族女性達。
男の中にまで涙を流す者がいる。
アナが僕の耳元でささやく。
騒がしい観衆の中、僕にしか聞こえない声で。
「あなた、とっても悲しいわ。あなたが死刑になるなんて。
私、あなたが殺人を犯していないと信じていたのに」
彼女はさも僕を心配している顔、雰囲気で、しかも観衆の前で僕にそう告げる。
僕にしか聞こえない事をいい事に。
僕が騎士団に睨まれて、下手な動きをできない事を利用して。
アナはここにきてまだ、その仮面を、その演技を続けたいようだ。
罠に嵌めた僕にまで「奇麗なアナスタシア」を演じたいようだ。
その声に、その態度を僕は虫唾が走る。
僕も彼女を抱きしめ返し、彼女にしか聞こえない声で返す。
「いつまでその演技をしている。クズ女。
アナ、僕は君を絶対に許さない。僕を嵌めやがって。
君には必ず報いを受けさせる。
僕だけではなく、セレステまでむごい殺し方をして。覚えていろ。
必ず復讐する。ぶっ殺してやる!」
「まぁ、怖い怖い。
でも、やっと気づいた見たいね。
頭が鈍いんじゃないかって心配しちゃったわ。
でも、報いを受けて当然ね。
そもそも私を裏切ったあなたが悪いのだから。
愛を裏切られた女はどこまでも残酷に慣れるのよ。
それにもしかして、私が気づいていないとでも思ったの?あなた」
「こんな事をしてただで済むと思ってるのか。
アナ、全てが自分の思い通りに進むと思ったら大間違いだ。
僕は必ず君のクズみたいな本性を全員に知らせ、その上で君を殺す。
君は僕に泣いて許しを請うことになる」
「まぁ!なんて勇ましい事!
でも牢屋に入る死刑囚に何が出来るのでしょうね。
あなたのお母様も一緒にいけるので嬉しいでしょ。
私、あの人嫌いだったから一緒に送ってあげたの。すぐに彼女も審問で死刑よ。
ほんと、王族殺しは怖いわね。
まぁ、王族とはいえ、死んだのはとんだメス犬だったみたいだけど」
アナの声が僕の体に入り、これ以上ないぐらい僕を苛だたせる。
彼女は不倫をしていた僕、それに不倫相手の第三王女、それに母まで一度に葬るつもりなのだ。
いいや、もう葬られたも同然だ。
第三王女は死に、僕は死刑が確定。この先も母も同様に追い込まれるだろう。
僕は体中に湧き上がる怒りから、この場でアナの首を絞めて殺したくなった。
僕が死ぬなら、せめてアナを道連れにしてやろうと。
こんなクソ女が生きていていいわけがない。
その方が世のためだ。それに僕だけが死ぬなんて許せない。
僕が手を彼女の背中から首もとにもっていこうとすると・・・




