40話 3日目 【夫】審問 7
母がさった会場はシーンと静まり返っている。
誰もが母に同情的だった。
だがその反面、僕には物凄い数の憎しみの目が向けられる。
僕が母を助けるために何もしなかったからかもしれない。
とんだ親不孝者だと思われているのだろう。
「一時、騒動もありましたが、それでは本審問を終盤になりました。
これまでの証言を聞き、私は審理は十分だと思っています。
皆様はどう思いますでしょうか?
異議がある方はいますでしょうか?」
シーンと静まり返る。
誰も何も言わないのだ。
だから僕は立ち上がって叫ぶ。
「異議がある。あぁ、異議しかない。こんな審問おかしい。
僕は何もやっていないのに。これじゃ、まるで僕が殺人犯だ。
こんなおかしな事はない!」
会場から向けられる冷ややかな視線。
そして、大公が。
「知っていると思いますが、被告人には異議を申し立てる権利はありません。
口を閉じなければ、拘束させますよ」
大公の言葉で騎士が近寄ってくるので、僕は席に座る。
「それでは、もう一度聞きます。
異議のある方はおりますか?」
静まり返り、誰も何も言わない。
暫くしてそれを確認した大公は。
「それでは、決をとりたいと思います。
本事件、第三王女殺害事件の犯人を、アダム・デ・マドリードだと断定します。
求刑は死刑です。
本意見に反対の者はおりますか?」
バーミンガム大公が会場を見回すが、誰一人手を上げない。
妻のアナでさえ、悲痛そうに黙っている。
「それでは求刑します。
アダム・デ・マドリード伯爵を死刑に処します」
こうして僕の運命は決まった。
あっさりと。
満場一致で決まってしまった。
「おい、嘘だろ!
こんなでたらめばかりの審問で、なんで僕が死刑になるんだよ!
おかいしだろ!絶対におかしい!
こんな事おかしい!」
「被告人は静かに!騎士団は彼を拘束して牢屋へ」
僕を取り押さえようと、騎士団が近づいてくる。
僕は彼らに捕まらないように抵抗して暴れる。
一人二人倒すが、すぐに制圧される。
会場の皆は、「ほれ見た事か」「やっと本性を出したか」っと囁やいている。
大公はゴミでも見るような目で僕を見。
「早く、被告人を牢屋へ」
騎士団に拘束された僕が、部屋から出されようとする時。
そこに一つの声が響く。
「待ってください!」
よく透き通るその声で、それまで騒がしかった観衆が黙る。
「待ってください!今一度夫に話をさせてください!」
僕の妻、先程まで出鱈目ばかりを述べていたアナスタシアが僕の方にかけてくるのだ。
僕は憎らしくてしょうがなかった。
今ほど誰かを憎んだ事はなかった。
今目の前で悲劇のヒロインを演じている女のせいで死刑が決まったのも同然なのだから。
それもありもしない出鱈目で。
それに、よくよく考えてみれば、腕輪も指輪も妻なら僕から直ぐに奪える。
あの時、あの・・・第三王女が殺された日。
そういえば、メイドから貰った水を飲んだ後。
急激に眠くなった気がする。
それにそうだ、王女との手紙だってアナなら僕の部屋に仕込める。
アナが僕の不倫にずっと前から気づいていたのかもしれないのだから。
それなら手紙の隠し場所を知っていてもおかしくないのだから。
アナはずっと僕の浮気を知りながら、陥れる時を待っていたのではないかと。
そうだ!全てを妻が仕組んだのなら・・・
僕を陥れる事は可能なのだ。
そう、思った。
僕はやっとこの事件の真相に気づいたのだ。
王女の殺害も妻がやったに違いない。
あんな拷問の様な殺し方をするのは相当恨みがある者のはず。
それなら妻だ。妻しかいない。
ここでこんな訳の分からない発言ばかりをする妻なら。
殺人をおかしていてもおかしくない。
そう思うと。
ふつふつと再びマグマの様な怒りが湧き上がってくる。
このやろう!あの女!
僕に全てなすりつけやがった!
絶対に許さない!くそ女!ぶっ殺してやる!
でも、待てよ・・・
王族殺しは妻にも影響が及ぶはず。
聞いたところによると、最悪の場合一族皆殺し。
それなら妻にも被害が及ぶはず。
そんな事を妻がするだろうか?
そんな疑問を抱いた時だった。
アナは僕に近づき、バーミンガム大公に向かって叫ぶ。
「少し二人で話をさせてください。
皆さんは下がってくださいませんか。
夫、いえ元夫は私には何もしないはずです」
その発言に会場中が「?」となる。
元夫?・・・だと。
どういう事だ?




