35話 3日目 【夫】審問 2
【続・アダム視点】
会場の観衆は、僕を疑わしげな眼で見ている。
「伯爵は何をいっているんだ」「きっとパフォーマンスでしょう」「白々しい」という声まで聞こえる。
僕は妻の席を見ると、彼女は僕のほうをじっとみている。
「信じています」と言わんばかりにドレスの裾を握り、姿勢よくこちらを見ているのだ。
僕の母も同様にだ。
彼女達の姿を見て僕は冷静になる。
そうだ、僕には味方がいるんだ、敵ばかりじゃない。
落ち着かないと。
バーミンガム大公が告げる。
「それでは改めて質問を。
犯人の手がかりはあるのですか?
そんな凶行を犯した者の手がかりが」
「はい。殺害現場を捜索した結果、幸いにもいくつか証拠を入手することが出来ました。
一つはこちらになります」
自信満々に言い切ったダグラス騎士は、血まみれになった腕輪を掲げ、僕を見る。
それは見覚えのある腕輪だったので、僕は思わずじっとそれを見てしまう。
(なんであの場所にそれが・・・
そんな馬鹿な、何故それがそこに・・・そんな事ありえない)
「これは腕輪なのですが、男性用のものでして。
第三王女様の手首のサイズには合いませんでした。
それに腕輪の中には文字が彫ってありまして」
アダムス騎士はそこでぐっと貯めて、間をあけてる。
彼は僕を正面から見つめ口を開く。
「そこには・・・アダム・デ・マドリードっと」
会場は割れんばかりの反応。
『あらまぁ!』
『アダム伯爵・・・信じていましたのに』
『そんなことが・・・・』
僕は立ち上がって抗議する。
「ちょっと待ってください!なんでそれがそんな場所に。
僕は知りませんよ。何かの間違いでしょう」
だって、ありえないのだ。
僕の腕輪が殺害現場にあるのは。
僕は何もしていないのだから。
「被告人は、発言の許可がでるまで口を閉じているように。
今は捜査結果の説明中です。
反論は後ほど時間をとっています」
僕は納得がいかないが、席に座る。
「それでは続きをどうぞ」
「はい。
他にも現場には遺留品が。それがこの指輪です」
騎士は指輪を掲げる。
だが僕から遠いためか、それは良く見えない。
でも嫌な予感はした。
「ほーう、それは結婚指輪ですか」
身を乗り出して、指輪を良く見ようとするバーミンガム大公。
「はい。そうなります。
それでこの指輪の内側にも名前がありまして。
持ち主は几帳面な方なのでしょう。名前を書くのはいい心がけですね。
それで内面には・・・」
ダグラス騎士は、またしても間を貯めてから、僕のほうを見つめる。
「アダム・デ・マドリード、アナスタシア・デ・マドリードと彫られています」
どっと沸く観衆。
僕はそのざわつきの中で席を立つ。
ふざけた事ばかり目の前の騎士が言うからだ。
しかも、見るからに僕を挑発しながら。
「馬鹿いうな!そんな物犯行現場に落とすわけ無いだろ!
どんな馬鹿がそんな事するんだ!」
僕は思わず叫んでしまった。
「被告人。お静かに。
ですが、一応証拠の確認をしてしまいましょうか。
被告人こちらへ。指輪の確認お願いします」
「はい」
僕は歩き、ニヤニヤ笑うダグラス騎士の前の机に並べられている指輪を見る。
確かに僕の指輪だ。
あの日、王女が殺されたとされる日もつけていた気がする。
でも、確か寝る前に外して・・・それからは覚えていない。
証拠品を観察している僕の傍で、ダグラス騎士が小声で呟く。
僕だけに聞こえる声で。
「アダム伯爵、あなたは終わりですよ。
早々に認めればどうですか?時間をかけるのは見苦しいですよ」
「それはどうかな。自分の仕事していろ」
「そうですか。私は別にいいのですけどね。
これからが面白くなるところですから」
「言ってろ。僕は無実だ」
確認が終わったと思ったのか、バーミンガム大公が僕を見る。
「被告人、それはあなたのものですか?
嘘をついてもアナスタシア夫人、それを作ったであろう職人に聞けば分かりますよ」
そう、大公が言うとおり、僕は真実しか言えない。
ここで否定しても意味はないのだから。
だから真実を告げる。
「はい、僕のものです」
「おおおお」っとざわめく会場。
多くの者は、僕のことを犯人だと思っているのかもしれない。
この2つの証拠が彼らにとっては大きいのだろう。
でも、傍聴席の一部では、「そんな!そんな事が!」っと反対する声が。
妻のアナスタシアがセンスを握り締めながら悲しんでいた。
その彼女をメイドのカミラと僕の母が支えている。
カンカン
「静粛に、静粛に」
大公が恒例になった言葉と木槌で会場を静める。
「それでは被告人。指輪の確認もお願いします。
それもあなたのものですね?」
僕は歯を食いしばりながらも。
「はい、僕のものです。
しかしこんな物を犯人が残すわけないでしょう!
どう考えてもおかしいでしょう!絶対におかしいです!
まともに考えれば分かるはずです!」
無実をアピールする。
「被告人は関係無い発言をしないように。
元の席へお戻りを」
僕は戻るのを拒否しようとしたが。
周りを警備している騎士の表情が険しくなり、彼らは一歩踏み出す。
僕はまるごしだ。仕方が無く席に戻る。
それを見守った大公が、再びアダムス騎士を促す。
「では、続きを」
「はい。現場にはローブの切れ端も残っておりました。
そこからは独特の匂いがしました。
香水をしみこませていたのでしょう。
その香水は、アダム伯爵の家を捜索した際に確保しました」
香水が何だというか。
そんなものをこの場で出すなんて。
ありえない。
僕は席から立ち上がって叫ぶ。
「ふざけるな!同じ香水をつけている奴なんか何人もいるだろ!
それのどこが証拠なんだ。そんなもの証拠になるはずがない!」
「被告人、静粛に。
口を閉じられないようでしたら、強制手段をとりますよ」
僕はぐっとこらえて席に座る。




