33話 3日目 【夫】バーニーとの約束
【アダム視点】
王城に拘束されて3日目。
アダム伯爵が起きると、彼の監視官であるバーニーに身なりを整えるように言われた。
僕はバーニーに連れられて、まずはお風呂に移動する。
3日ぶりにお風呂に入り、体を洗う。
その後髭をそり、新しく支給された服を着る。
どうやら僕は、正装しなければいけない場所に連れて行かれるのだろう。
そう思い、バーニーに何気なく聞いてみる。
「これから何かあるのか?
随分僕の肌をツルツルにしたいみたいだけど。
それとも、髭が伸びたちょい悪スタイルはバーニーの御心にはめさなかったかな。
君は奇麗な男の方が好きなのか?」
すると彼は、呆れたような顔をする。
「このごに及んで何を言っているのか、この人は」という表情だ。
「アダム伯爵。僕は別に男好きでも何でもありません。
前に結婚相手の紹介を断った事で勘違いしているのですか?」
「他意はないよ。
バーニーは僕にも優しくしてくれるからね。
てっきり、そっちの気があるのかもしれないとほんの少し疑っただけだ。
騎士団はその・・・そういうところがあるだろ。気に障ったのなら謝るよ」
「謝罪は結構です。でも僕は違いますよ。
ただ容疑者の段階で人を差別しないだけです。
まだ伯爵は疑われているだけですからね。
それに今回は王城側もおかしな事が多いですから」
「僕を哀れんでくれるのかい?
もしそうなら、そんな気は使わなくてもいい。
そういうのは迷惑なんだ」
「別にそうではありませんよ。
それに伯爵の事は、その、嫌いではありませんよ。
勘違いしないで下さいね。決して変な意味でありませんから」
僕はその言葉に一瞬時をを止めてしまう。
妙な間が僕とバーニーの間に流れるが、それを壊すように僕は口を開く。
「よかった。今一瞬ひやっとしたよ」
「どんな反応してるんですか。全く」
バーニーはちょっと怒りながら照れくさそうにしている。
「それで話を戻すけど、僕はこれからどうなるんだ?
身支度をしたって事は誰かと会うんだろ。
ちゃんとした身なりをしないといけない相手と」
「そうです。何だと思いますか?
分かりますか?」
バーニーが興味深そうに僕を見る。
キャッチボールをしてからか、バーニーと僕の距離は明らかに縮んだと思う。
それ以降は扉越しに会話をする機会も増えた。
「そうだなー。釈放かな」
「違います」
だよな。
「それじゃー、王族の誰かと会うのか?」
「まさか?王族の方は出てきませんよ。
もっとちゃんと考えてください。せっかく身を奇麗にしたのですから」
そうなのか?
王族である第三王女が殺されたのに。
でもバーニーはピシャリと僕の回答を跳ね除けた。
「それなら、また予備審問か?
前は捕まってすぐだったから、それなりの身なりだったし」
「おしいですねー。近いですよ。もう少しで答えです」
バーニーはくるっとカールした前髪を揺らす。
「そうかー。それなら審問か。
予備じゃなくて普通の審問。
でも、そんな事ある分けないか。まだ捕まって三日だから」
「当たりです!」
「ええええええ?」
僕はバーニーの答えに驚いてしまう。
審問といえば、犯罪行為を裁くために行うものだ。
そこで話し合い罪を決定するのだ。
通常の場合は事件が起こってから大体1、2週間後に行うはずなのに。
3日は早すぎる。
「バーニー、本当か?」
「はい。本当です。
僕も驚いたんですよ。こんなに早いのはおかしいって。
それで何度か確認したのですが、どうも間違いないようです」
「そ、そうか・・・」
僕は落ち込む。
審問をするからには、何かしらの証拠があるのだろう。
僕、又は、いるかは知らないが他の容疑者の罪を確定するものが。
「あまり落ちこないで下さい。僕が見ていて気持ちよくありません」
バーニーがさげずむ様な目で僕を見る。
彼は僕が弱いところを見せると、不快になるようだ。
「ですが、今回の審問である程度決まるかもしれません」
バーニーの言う事は分かる。
何がと聞かなくても分かる。
決まるのは僕の運命しかないだろう。
「そうか」
「はい。王城側は早くこの事件を解決したがっているようですから」
「なんとなく感じるよ。ここまで色々早いとね。
でも、僕は無実だから心配はしていないよ。何もやっていないからね」
「それなら安心ですね」
「そう・・・思いたい」
囚われている僕にできる事はそう願う事だけで、他には何も無いのだから。
体も洗って髭もそって新しい服を着。
体も心もスッキリしているはずなのに、僕の心は沈んでいた。
それから少しして・・・
僕はバーニーに連れられて一つの部屋に向かう。
その部屋は最近僕が連れて来られた場所。
そう、2日前に連れて来られた特別審問場。
前も部屋の周りにはたくさんの人がいたが、今回はさらに多い。
部屋に入りきれなかった貴族や役人が部屋の外に溢れ出ているのだ。
彼らは僕の姿を見つけると、それまで隣の者と話していた会話をピタリと止める。
僕の姿をまじまじと観察する。
まるで奇妙な人物を見るような目で。
どうやら僕は今大人気らしい。
彼らの視線を一堂に集めている。
それもそのはずか。
なんたって第三王女殺しの疑いをかけられているのだから。
今、王都で一番の人気者なのかもしれない。
「気にしないほうがいいですよ」
バーニーが、周りの人に聞こえない小声で助言してくれる。
「分かってるさ。何も気にしてないさ」
「そうですか。
それでは部屋の中に入りますが、知り合いがいてもあまり大きな声は出さないようにお願いしますね」
「あぁ、そうする」
「それと、僕からの忠告です。
中では感情的になってはいけませんよ。
実はあなたを犯人だと決め付けている人・・・いいえ、違いますね。
正確にはあなたが犯人であって欲しいと思っている人は多いのです。
彼らの策に乗らないよう、大人の対応をして下さい」
バーニーはクルっとカールした髪の毛の先から、僕の目をのぞきこむ。
「伯爵、意味、分かりますね?」
これではどちらが年上なのか分からない。
彼は僕より最低でも5つは下の騎士だというのに。
「バーニー。僕は君より歳もとっているし、伯爵身分だ。
こういうのには慣れているさ。なに、上手くやるさ」
「それなら安心です。伯爵はあぶなっかそうに見えますからね。
隙が多そうです」
「僕を良く知らないようだね」
「いいえ。
この3日間一緒にいて、伯爵の事はそれなりに分かったと思っていますよ」
言ってくれる。
3日間一緒にいた彼が僕の事を理解できるなら。
3年間一緒にいる妻のアナスタシアは僕の事をどれだけ理解しているの事になるのか。
骨の髄まで理解している事になる。
「3日では僕の事は分からないさ。
僕はそんな薄い男じゃないつもりだからね」
「そうですか。それではもっと伯爵を知られるといいですね。
無事、この後も」
それは、バーニーからの僕への励ましだったのかもしれない。
僕は彼の言葉を果たせるといいと思った。
「その時は、個室の外で会おう」
バーニーはふっと一瞬笑う。
僕が始めて見たバーニーの笑顔だった。
その表情は、いつも冷めた彼にしてはとても幼く見え、歳相応の男の子の様だった。
僕はその笑顔に心がふんわりと温かくなる。
「では、中へ入ります」
だが、バーニーの声で現実に戻される。
今から僕の運命が決まる審問なのだ。
気合を入れ直さなければならない。
「おう」
僕は強く気合をいれて答える、バーニーに連れられて部屋の中。
僕の運命が決まるであろう特別審問場に入った。
この部屋の中で、僕の今後が決まるのだ。




