表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/94

27話 2日目   【夫】キャッチボール

【アダム視点】


 王城の個室に捕らえられて二日目。

 アダム伯爵は若い騎士(因みに名前はバーニー)から朝食を差し出されて食べていた。


 部屋に閉じこもっているからか。

 料理を美味しく感じられなかったので文句を言ってやった。


「バーニー。これ、味がよろしくない」

「それは騎士に支給されている食事と同じものになります。

 あまり我侭を言わないで下さい。

 アダム伯爵も昔は騎士だったのでしょう」


 そういえばそうだと思った。

 騎士飯は栄養重視のためか、あまり味は考慮していないのだ。

 その言葉につい昔を思い出した。


「そうだったな。

 懐かしい味だとしみじみと思うよ。

 それでバーニー、僕はこの部屋から出られないのか?

 少しぐらい散歩できないかな?

 この部屋にいると気分が沈んでくるんだ」


「それは認められています。

 午後になれば運動の時間が与えられるはずですから、それまでお待ちを」


 運動の時間か。

 子供っぽい響きに何故か笑ってしまう。


「そうか。それは楽しみだ。因みにそれは僕一人だけなのか?

 他にも捕らえられている人はいるんだろう。

 彼らとは会えないのか?」


「一人だけです。

 他者との交流は現状禁止されています。

 でも安心してください。僕が監視しますよ。

 一緒にキャッチボールもできます」


「そうか、それはよかったよ。

 今日の楽しみができて嬉しいよ。

 バーニーとのキャッチボールは実に楽しそうだ」


「伯爵。皮肉ですか?

 あまり内向的にならないほうが良いですよ」


「そうでもないよ。

 本当に楽しみにしているんだ」

「そうですか。

 僕はこうみえても球を投げるのは得意なんです。

 僕の投球をお見せしますよ。変化球も投げられますからね」


 バーニーは実に楽しそうだ。

 本当にキャッチボールが好きなのかもしれない。 


 僕は朝食を終えて食器を返す。

 それから昨日妻から差し入れに貰ったクッキーを食べる。


 一人ポツンと部屋で白黒のそれを食べていると、何故だかしんみりする。

 クッキーの甘さと、ふんわりとした香りで泣けてくる。

 それらから妻の愛情を感じるのだ。


 拘束された孤独な僕にとって、それは救いだった。

 数少ない人からの温かみだった。

 僕は妻の愛情をクッキー一個一個から確かめながら、ゆっくりと味わった。

 妻に感謝しながら。


 だから全部は食べない。

 妻だって何回ここにこられるのか分からないからだ。

 昨日は特殊な方法でここに入ったのだと思うし、それが毎回通じるとは思わない。


 僕はクッキーを大事にしまい。

 食後の運動として部屋の中をテクテクと歩き回り、窓から外を見る。


 景色から判断するに、この部屋は王城の中程の高さにあるようだ。

 遠くには王都の様子が見えるし、近くには王城の敷地が見えるのだ。

 

 ふと、とある木に目が止まる。

 そして思い出した。

 あの木の傍で、僕は第三王女であるセレステと密会した事があると。

 木々の陰に隠れるように僕らは会い、挨拶代わりにキスをして楽しく過ごしていた。

 子供の様に二人で木に名前を彫ったのを思い出す。

 あの刻印は今も残っているのだろうか?


 僕はその木をじっと見てしまう。

 でも、もうセレステはこの世にいないのだ。

 彼女は死んでしまった。殺されてしまったらしい。

 死体を見たわけじゃ無いので今でもその事が信じられない。


 んん?なんだ?


 僕は目をこする。

 一瞬、木の傍に死んだはずのセレステの姿が見えた気がしたのだ。


 気のせいか? 

 今、確かに彼女の姿が見えた気が・・・。


 僕はもう一度木の傍を見るが、そこには誰もいない。

 そう、いるはずがないのだ。

 セレステは死んだはずなのだから。 

 そうでなければ僕がここに捕らえられている訳もないのだから。


 きっと幻影を見たのだろう。

 そうに決まってる。


 僕はセレステの幻影を頭から追い出すために頭を振る。

 すると彼女のイメージがふわっと霧散していく。


 それにこれはいけない。 

 今、セレステの事を考えてはいけないと思う。


 今は妻であるアナのことを考えないと。

 今、窮地に陥っている僕を助けてくれるのは、幻影のセレステではなく妻なのだから。

 今こそ妻の力が必要なのだ。

 それに妻からの好意を無碍にするわけにはいかない。

 彼女の好意を受けながら、別の女性のことを考えるのはやめないと。


 僕はセレステの幻影を振り払った。


 それから妻に感謝してクッキーをもう一つ食べた。

 その甘さを感じるために、僕はつくづく妻に愛されていると感じた。



 そんな事をしていると昼食の時間が来て。

 ささっと食べると、その次はキャッチボール。

 バーニー曰く運動の時間。


 僕はバーニーに連れられて、小さなバルコニーに出た。

 地上には出れず、ここで運動するらしい。


 僕はとりあえず外の風に当たれて嬉しかった。

 テクテクと散歩していると、バーニーがボールを持ってこちらをチラチラみていた。

 僕とキャッチボールしたいのだろうが、言葉に出せないようだ。

 多分、拘束者である自分に監視者であるバーニーから。

 「キャッチボールしよう」と声をかけるのは職務的にまずいのだろう。

 でも、キャットボールをしたいからチラチラ見る。


(全く、世話がやける奴だ)


 僕はバーニーに近づき、彼が持っているボールをさっととる。


 「バーニー、キャッチボールをするか?」と聞くと。

 「仕方がないですね。やりましょう」っと。

 彼は言葉どおりの嫌そうな顔ではなく、少し照れくさそうに答えた。


 僕はバーニーとキャッチボールを始めた。

 彼は話の通り、中々ボールを投げるのが上手かった。

 僕の手にバシュンとボールが収まると、ちょっと勢いが強くて痛かった。

 なので僕も負けじとボールを投げ返す。

 僕もなんとかバーニーの手の付近に投げ返す。


「伯爵、中々上手いですね」

「それは昔は冒険者で騎士だからだ。

 色々投げるものがあったんだよ。

 それに仲間内でも上手いほうだったし」


「そうですね。

 確かに中々筋がいいのかもしれません。

 僕ほどではないかと思いますが」

「そうか」

「そうです」


 そんな会話をしながら、バーニーとの運動の時間は終わった。

 運動したためか、体に溜め込んでいたものを発散してすっきりした。

 でも手はヒリヒリする。

 今度キャッチボールする時は手袋でもした方が良いかもしれない。


 僕はその後、個室に戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拍手ボタン設置中。なろうユーザーでなくても、一言感想を送ることができます。

 

連載始めました↓
彼女が二股していたので、腰が砕ける程衝撃を受けた。

 

連載始めました。よろしくお願いします。↓
転生したら吸血鬼さんだった件~チートで世界最強です~

 

さくっと同時連載中。↓
もう、結構ですわっ!

 

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ