25話 2日目 【母】可愛いアナスタシア(上)
【マリアンヌ視点】
やってしまいました。つくづく自分が嫌になります。
昨晩、ユヌス教団のミサから帰ってから、私はふただび酒を飲んでしまったのです。
酒を飲みすぎて記憶を失ってしまったばかりですが、やめられませんでした。
なんだか言い訳じみていますが、最初は飲酒する気はありませんでしたの。
ですが、ベッドに横になってから眠ることが出来なかったのです。
頭が興奮して次々と悪い妄想が浮かぶものですから。
なんとかそれらを払おうと頑張ってみたのですが、全く振り払えなかったのです。
なので布団から出、机にコップを用意し、暗くなった外を見ながら飲酒しました。
勿論、親友の「ジャック・ダニエル」です。
そうしたら、頭がぼーっとしてきて不安から解放されたのです。
いつの間にか眠っていたようです。
気づくとベッドで寝ていました。
すぐに昨夜の様に血まみれになっていないか自分の姿を確認しましたが、異常はありませんでした。奇麗なままです。
暖かそうな陽光が入ってきている窓を見て、少々寝すぎてしまったと気づきました。
直ぐに起き、朝食を作って食べます。
それから習慣になっている手芸をして頭をリフレッシュさせます。
今はマフラーを編んでいます。
今日も息子の協力を得るために貴族の家々を回るつもりです。
それに昨日会えなかった息子の妻にも会わなければいけません。
フキン事件で心のしこりはありますが、彼女は息子の妻なのですから。
私は家を出ました。
すると近所の女性達が井戸端会議をしていました。
「マリアンヌさん。こんちにちわ」
「はい。こんにちわ」
挨拶をかわします。
彼女達が皆私に気を使っているのは雰囲気で分かります。
でも、私はそれに気づかないフリをします
悲劇のヒロインを気取る気はないのですから。
「その、息子さんは災難でしたね。
私達は勿論息子さんが無実だと思っていますわ」
「そうですわ。アダム伯爵がそんな事するわけないと。
きっと騎士団が間違って逮捕したって」
「アダム伯爵の事を信じています」
皆、私に協力的です。
表面的な言葉かもしれませんが、私はその言葉に心がふっと軽くなります。
「はい。息子は何もやっていません。
必ず疑いが晴れると信じています」
それからいくらか話し合い、私はその場を後にしました。
世間話をしたためか、もんもんとしていた気分が少し晴れたようです。
息子の家に着くと。
メイドが「しばらくお待ちください」と言った後。
「こちらへどうぞ」と私を客間に案内する。
先程まで誰かが来ていたんでしょうか、私が座ったソファは僅かに人の熱を持っていました。
すると暫くして、息子の妻、アナスタシアが現れます。
彼女はとても心配そうな顔で私を見、小走りで近寄ってきて抱きつきます。
「お母様。アダムが、アダムが大変な事になったのです。
もう、とてつもなく凄いことに。私、私は・・・」
アナスタシアは二日前のフキン事件の事などまるで頭にないようです。
私の方が気にしすぎた、いいえ、今はそれどころじゃないのでしょう。
彼女は私からみたら子供の様な歳なのですから。
不安そうな彼女を抱きしめ、背中をポンポンと優しくさすります。
「ええ、分かっていますよ。分かっています。
事件については私も知っていますから」
数秒後、アナスタシアが私から離れ。
「そうですよね。何せアダムのお母様なのですから。
すみません。私が慰めてもらって。
きっと、お母様もおつらいはずなのに」
瞳をうるうるさせるアナスタシアを見ていると、「私がしっかりしないと」と思いました。
「私は大丈夫よ。息子を信じているから」
「さすがお母様、心強いです。
ささっ、席にどうぞ。今、紅茶をお出ししますね」
「ええ、ありがとう」
私は彼女の言葉に促されてソファに腰を下ろす
するとすぐにメイドが紅茶を持ってくる。
この家の紅茶は特別美味しいので、実は密かに楽しみにしていた。
その紅茶をゆっくりと頂いた。
「それでアナ、悪いわね。前置き無しでいきなり。
息子のことなんだけど・・・」
「いいえ、当然です。アダムがあんな事になってるのですから」
「そうなの、それで私、昨日心配になって王城へ訪れたのだけど。
全く取り合ってもらえなかったの。
だから息子のことが分からなくて、心配で」
昨日事を思い出して、私は自分のふがいなさを恥じます。
でもそれを言って思い出しました。
確か昨日こちらを訪れらたら、メイドは「アナスタシア様は王城」と述べていました。
アナスタシアも王城に行っているのです。
それなら彼女は何か情報を知っているのかもしれません。
「そうなのですか?それはお辛いですね。
王城の者達は人の心が分からないのです。
私もひどい扱いを受けたのですよ。お母様のお気持ちお察ししますわ」
「それなら、アナスタシアも息子には・・・」
「そうなんです。アダムに会いたいと言っても、誰も取り合ってくれなかったのです。
ですが、その中には心優しい人もいましてね」
アナスタシアが間をためます。
この雰囲気、もしかして彼女は息子に会えたのかもしれません。
気になります。
「アナスタシア、あなた、まさか息子に・・・アダムに会えたのですか?」
「ええ、これは秘密なんですけどね。
なんとかアダムに会う事が出来たましたの」
「ほ、本当なの?元気だった、息子は元気だった?」
私は思わず体を乗り出してしまいます。
それぐらい心が揺れていました。




