1話 0日目:昼 【母】恥ずかしいことに、息子の妻を怒らせてしまいました。(上)
どうも、赤ポストです。
連載開始です。
本作は、「ざまぁ」を目指します。
よろしくお願いします。
題名の【】は視点になります。
割と頻繁に視点が切り替わりますが、話と時系列は繋がっています。
題名 視点主
【母】マリアンヌ夫人
【夫】アダム伯爵
【妻】アナスタシア公爵令嬢兼伯爵夫人
◆主要登場人物
・アナスタシア:25歳。アダム伯爵の妻であり公爵令嬢。甘やかされて育ったお嬢様。
・アダム :25歳。アナスタシアの夫。平民から成りあがった伯爵。母を大事にしている。
・マリアンヌ :49歳。アダム伯爵の母。夫は蒸発。一人で息子を育てたので愛情深い。貴族生活には慣れていない。
では、開始です。
【マリアンヌ視点】
あー、なんてことをしてしまったのでしょう。
私はなんてことを。
まさかこの私が、あんな事をしてしまうとは思ってもいませんでした。
伯爵を息子に持つマリアンヌ・デ・リシャールは、久しぶりに息子の顔を見たくなり、天気も良かったので息子の家に行くことにしました。
勿論手ぶらではありません。
途中で食材を買って、息子の家で昼食を作る気でした。
私が息子の家に着くと、メイドが出迎えます。
それからすぐに息子が現れ、私を笑顔で迎え入れてくれました。
「母さん」と息子の声で呼ばれると、ほっと心が安らぎました。
いつきても伯爵の家らしく大きな屋敷。
家の家具も高価そうだし、こんなに広ければ掃除するのも大変そう。
でも、それにしては奇麗に整っているわね。
十分な数のメイド達を雇い、管理もしっかりしているのかしら。
平民暮らしが長かった私は、ついつい細かい事を気にしてしまいます。
今は伯爵になった息子も元は平民。
冒険者の活躍を認められて騎士、そして伯爵まで出世したのです。
そのおまけというか、息子の影響で私も今では貴族です。
身分差があるこの国では大出世であり、私は息子のことを誇らしく思っていました。
すると。
「お母様。来て下さるのなら事前にお知らせして頂ければよかったに。
こんな恥ずかしい家の姿をお見せしたくはありませんでした。
でも、会えてとても嬉しいですわ。とっても」
猫撫で声がし、そちらを向くと息子の妻がいました。
アナスタシアです。
ふわふわとしたフリルがたくさんついた、女をアピールするドレス。
大人の女性が着ると浮いてしまうかもしれませんが、彼女の美貌はそれを許していました。
社交界の華である彼女の容姿と雰囲気の賜物なのでしょう。
彼女は「恥ずかしい家の姿」と言いましたが、それは一体どの部分のことでしょうか。
こんなに奇麗で豪華な家なのに。
この家に比べると、私の家は物置です。
多分、玄関に指していた花が彼女にとっては少々物足りなかったとか、そういう事でしょう。
「いきなり来てしまってごめんなさいね。
つい、息子の顔を見たくなったの」
謝意はありませんけど、礼儀として謝っておきます。
「いいえ、お母様ならいつ来ていただいても大歓迎ですわ」
息子の妻はとびつかんばかりに私の手を取り、抱きしめます。
ふわっと彼女の香水の匂いと、緩やかな整えられた髪が頬に当たります。
彼女は元気一杯です。
「そう、それは嬉しいわ」
私はかろうじて返します。
彼女はぱっと私から離れます。
私は一安心しましたが、未だに彼女に対する苦手意識が抜けません。
実は初めて会ったときから彼女の事が苦手でした。
いいえ、気に食わなかったのです。
甘やかされた貴族令嬢としての彼女は、女性の私から見ても確かにかわいらしい女の子です。
愛嬌がある子なので、遠くで見てる分には、娘としてはいいのかもしれません。
ですが、息子の妻にふさわしくないと思っていました。
この様な女性と結婚するのは、面倒事をしょいこむ事になり、息子の人生に影を落とすと思っていたのです。
しかし、彼女は公爵令嬢。
公爵といえば、この国では上から二番目の貴族です。
大公、公爵、候爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士となっています。
彼女と結婚する前の息子は騎士。
彼女と結婚することで息子が出世する事は間違いなく、私にも良い事は明らかでした。
なので私は、自分の感情を押し殺して彼女を仲良くすることにしました。
私の愛する息子が選んだ相手。それなら私が出すぎたマネをするべきではないと。
結婚は二人の問題だと。
しかし、やはりずっと苦手でした。
彼女は今、私の息子に向かって。
「もう、お母様がきてくれるなら私に言ってくれれば良かったに。
それに、お母様を悲しませてはいけないわ」っと、口を尖らしています。
息子は「そうだね」「ああ」とかなんとか、押され気味で対応しています。
その様子から、息子が妻の尻に引かれているのは一目瞭然でした。
彼女の天衣無縫らしさに私はいたたまれなくなります。
夫なら「ガツン」と言ってやりなさい、と息子に言いたくもなりました。
でもそんな礼儀知らずの様な事を言えるわけもなく。
私はじっとしていられず、すぐに何かをしたい気分になりました。
体を動かしたかったのです。
なので口実として。
「料理を作るから、台所を貸してもらうわね」
何度も来ているので台所の場所は知っています。
私が移動しようとすると。
アナスタシアが私の前にさっと出て道を塞ぎます。
「いいえ。お母様は私と一緒にお話しましょ。
とっても美味しい紅茶が手に入ったんですの。
それに最近とっても面白いお話を聞いたんですよ。
本当、フフ、ついつい笑ってしまうの。
是非、お母様にお聞かせしたいわ。
料理はメイドにまかせればいいですのよ」
彼女は思い出し笑いしたようにフフっとかわいらしく笑います。
さぞかし面白いおかしいお話なのでしょう。
彼女は木の葉が揺れただけでも笑ってしまう女の子なので、なんともいえませんが。
私はその様子に、いいえ、彼女の言葉に少しイラっとしました。
平民出の私は、料理を作るのは妻の仕事だと思っています。
妻が掃除に洗濯、料理を作って家庭を支えていくのです。
ですがアナスタシアはそれを軽視する発言をしました。
『「掃除、料理、洗濯」そんな事メイドにさせればいいのよ』っという感じで。
家事を見下しているかのような雰囲気です。
確かに子供の頃から大貴族で育った彼女にはそうなのでしょう。
きっと彼女の高貴なお母様もそんな事はしなかったのでしょう。
家事はメイドの仕事で、妻がやるものではないと考えているのが分かります。
ですが私は違います
私が家事をやって、蒸発したろくでなしの父親に代わり息子を育てたのです。
それを否定する、私の人生を否定するような言葉に断じて許せるものではありません。
けれども、ここで怒るほど私は子供でもありません。
「すぐに済むから私がするわ。お話は食事のときに楽しみにしてるわね」
大人の対応でスマートに切り抜けます。
ですがニコニコと笑ったままのアナスタシアは道をあけず。
「あっ!良いこと閃いましたわ!」という様に、ぱっと顔を輝かせます。
瞳がキラキラしてます。
私は嫌な予感がしました。
「そうです。そうですわ!。
それなら私も手伝いますわ。
お母様と一緒にお料理しますわ。きっと楽しいです。
それに私、偶にメイド達の料理を手伝ったりするんですよ。
包丁をトントンするんですの」
私はぎょっとした。
料理を一度もしたことが無いような彼女が言うのです。
まるでおまま事の様に。
「大した思い付きですこと」っと皮肉を言いたくなりましたが、それは押しとどめます。
それよりも、もし一緒に料理をして、彼女に怪我でもされたら大変だと心配してしまいます。
包丁で手でも切って、メイド達が大騒ぎする絵が頭に浮かびます。
「お申し出はありがたいけど、大丈夫よ、すぐにすむから」
「そうですか。残念ですわ。
でも、何かあったらいってくださいね。何でも用意しますから。
本当に、何でもですよ、お母様」
「ええ、ありがとう」
アナスタシアは満足したのか、メイド達をぞろぞろ引き連れてどこかに行ってしまいました。
「では、こちらへ」っと、残ったメイドが私を奇麗な台所へ案内します。
そこでさっと料理をしました。
集中して作業すると、先程の心の動揺は消えてなくなりました。