18話 1日目:夕 【夫】妻との面会とクッキー
【アダム視点】
予備審問から戻って個室のベッドでゆっくりしていると。
扉の向こうが騒がしい。
何事だろうかと思い耳を傾けると。
『なぜ、あなたがここに?どうやってここに来たんですか?
ここまで何箇所が警備があったはずですよ』
『アナスタシア様は問題ありません。
奥様が夫に会うのにどこに問題があるのでしょうか?
それにちゃんと許可も得ています。
こちらになります』
『そ、そうですか・・・・確かに。
でも一体どうやって?
普通は会えないはずなんですがね。
王族殺しの重要容疑者には』
『それは知っていますわ。
ですが私にはお友達が多いですの。
それに皆さん、今回の事には深く嘆いているのではないですか。
それで、夫はどこにいるのですか?
たくさんこじんまりとしたお部屋が並んでいるようですけど。
ここは納屋から何かですか?
夫がいる場所に案内していほしいのですが』
『こちらに並んでいるのが、容疑者を捕らえる部屋となっています』
『まぁ!こんな馬小屋の様な場所に人を閉じ込めているのですか?
どんな非常な拷問なんですか。
ここに人が住めるのですか?』
『大丈夫です。
一応申しますが一般的な部屋となっています。
下級貴族の部屋よりは豪華かと。
伯爵夫人の部屋と比べますとかなり小さいのかもしれませんが』
『そんなこと知ったことありませんわ。
そこらの有像無像の人たちと私の夫を同じ扱いにして貰いたくはありません。
それで、どの馬小屋に夫がいるのですか?』
『こちらになります』
足音が近づき、ドアがノックされる。
「アダム伯爵。面会人です」
扉が開くと、声から分かっていたが妻の姿。
アナは大げさに「まぁ!なんてこと」っと叫ぶと、さっと部屋の中に入ってきて僕の手を取る。
まるで数年間別れ離れになった恋人と再開したかのように。
それに彼女の顔を見ると、目は泣いたように充血している。
そんな彼女の後ろには粛々とカミルもついてきている。
足音もなくすっと影武者の様に。
僕はアナの姿と彼女の手に触れると、嬉しさのあまり泣きそうになった。
知らず知らずの内に不安な気持ちを抱いており、それが妻とあったことで溢れ出したのかも知れない。目頭が熱くなるが、この場で泣くのは恥ずかしいのでたえる。
「アダム、大丈夫ですか?
大丈夫なのですか?
こんな馬小屋の様な部屋にいようとは、私、思ってもいませんでした。
虐待もいいところです。ひどすぎます」
「あぁ、この通りだ。
何も無い部屋だけど不自由はしていないよ」
するとアナは何かに気づいたのか、僕から視線をはずし部屋の入り口を見返す。
その視線の先では、若い騎士が僕らを観察していた。
「騎士様、部屋といっていいかは分かりませんが、この馬小屋から出て行ってくださりませんか。
私は夫と話したいのです。
人の話を立ち聞きするのは言い趣味だとは思いませんよ」
「そうです、アナスタシア様のおっしゃるとおり、退出を」
だが、若い騎士はその場を動かない。
「ですが、重要参考人と妙な事をされては困りますし。
そのために拘束されているわけですから。
なので完全に自由にするわけには・・・」
「まぁ!私が夫を脱獄でもさせるとでも思っているのですか。
その計画を騎士様に隠れて話すとでも。
そんな罰当たりなことをこの私がすると。
あなたは一体私をなんだと思っているのですか?
私は盗賊か野盗か何かですか?」
「いえ、さすがにそこまでは考えていませんが。
一応規則では監視することになっていますので」
「そんなに心配なら扉の外から見ていればいいのではありませんか。
扉には窓がついているのですから。
そうです、そのためにあるのでしょう?
是非そうしてください」
若い騎士は数秒考えた後。
「はぁ~、そうします。
ですが夫人。10分ですよ、お忘れずに」
「勿論ですわ。今の時間はカウントに入りませんよね」
若い騎士は返事をすることなく部屋を出ていった。
そして扉の窓から部屋の中を伺っている。
残されたのは僕と妻とカミル。
再び僕に視線を戻すアナ。
「アダム。こんな劣悪な環境で大丈夫ですか?
こんな場所ではポニーでさえ生きてはいけないと思います。
著しい人権侵害です。
太陽の光もほとんど入らないようですし、部屋に絵も花もありません。
それに景色も悪いですわ」
「あぁ、確かに家と比べると満足度は低いけど大丈夫だよ」
「そうですか。アダムが元気そうでなによりです。
そうです、お腹がすいていないかと思い差し入れを持ってきたのですよ」
カミラがポーチからクッキーを取り出し僕に手渡す。
「アダム様、どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
僕はクッキーを受け取ると、扉のほうから矢の様な声が飛んでくる。
「おい、今、何を渡した?何か渡しただろ。
見たからな!見たぞ!それを見せろ!」
若い騎士の声が聞こえる。
彼は不満があるのか、少々過剰に反応した。
「クッキーですわ」
アナがクッキーを掲げて騎士に見せると、騎士は「そうか」と呟く。
それからアナがカミラに目配せする。
カミラがクッキーの一部を持って扉の前に移動する。
「騎士様もクッキーをどうぞ」
「いりません。それより、そこをどいてくれませんか。
ちょうど私の視線を塞ぐ位置にあなたがおり、部屋の中が見えません」
「そうですか。いりませんか。
美味しいのですが。奥様は丹精込めて作ったのですが」
「味は関係ありません。
それよりそこを移動してもらえませんか。部屋の中が見えません」
「ほら、美味しいですよ。どうですか?元気が出ますよ」
「いえ、ですから、そこにいられると部屋の中の様子が」
「騎士様。クッキーはお嫌いですか?
どんな食べ物が好きなのですか?」
「好きな食べ物は色々です。
それよりも、そこを一歩横にずれていただくだけでもいいのですが」
カミラと若い騎士は会話?をしている。
カミラの声が大きいためか、僕とアナが話している声は彼には聞こえないかもしれない。
それが狙いなのだろうか。
アナは心配そうな顔で僕を見つめる。
どこか悪いところでもないか確認しているように。
「それでアダム。今はどのような状況なのですか?
あなた事を教えてください」
僕はこれまでの事、そして予備審問を受けたことを話した。
いつになく真剣に話を聞いていたアナ。
「アダム、私はあなたのことを信じているのですが、その・・・」
彼女が何を聞きたいかは分かった。
そんな事を聞かれたくはなかったが、はっきりと言っておかなければならない。
それが彼女のためにもなるだろう。
「あぁ、勿論誰も殺していない」
「そうですか。
勿論、私も信じていましたよ。
なら後は任せてくださいまし。
私があなたのためになんとかしてみます。それに父にも頼んでみます。
なのでアダムは気をしっかりとして、余計な事は話さないようにお願いしますね」
「ありがとう。アナ。
何も言わないよ。奴らは僕を犯人だと思っているようだけど」
「そんな事ありませんわ。
皆あなたの味方ですわ」
僕はふと、アナを見つめてしまう。
その視線を受け、彼女はちょっと戸惑ったように瞳を揺らす。
「アダム、どうしたんですか?」
「その、なんでもない」
「言ってください。何か気になることがあるのですか?」
彼女は思いの他食いついた。
それぐらい僕のことを心配してくれているのかもしれない。
「その、離婚の話があったから、もしかしたら君は僕の事・・・・いや、なんでもない」
「まぁ!アダム!なんてこと!
今はそんな場合ではありませんよ。何を考えているんですか。
私はあなたの事を愛していますよ。私を信じてください」
「ごめん。僕も愛しているよ。ほんと、ありがとう」
妻との面会は終わった。
面会が終わるまでカミラは若い騎士と話しつづけて、彼の注意を引き続けていた。
若い騎士は何度も「部屋の中が見えない」「どいてくれ」といっていた。
だがカミラははぐらしつづけて、それが最後まで続いた。
カミラは僕と妻の話を秘匿に成功したようだ。
妻とカミラが帰った後。
若い騎士は疲れたような様子で僕に同情の視線を送ってきた。
「とんでもない妻とメイドですね。よく結婚していられます」
「いい妻だよ」
「そうですか。さすが貴族様ですね。色々基準が違うようですね」
若い騎士は僕から視線をはずした。




